641:テラーパレス-5
本日一話目です
「どうやって鑑定結果を誤魔化したのかは……ぶっちゃけ分からないわね。どうにも高位のカースになると、備えているのが多そうだから」
「そうなの。でも鑑定結果を誤魔化していると言う事は、今この場で出ている情報だけで全てが明らかになったと思わない方がいいと言う事でもあるわよね?」
「それは言わずもがなだな。そもそも俺、スクナ、ブラクロの三人は最後まで残っていたが、マトモに攻撃出来た回数が一回もないんだ。相手の隠し玉……いや、使っていない普通の攻撃ははまだまだ残っているだろうさ」
当然と言えば当然の話だが、対策一つ済ませればそれで攻略完了、とはならないのが確定しているのが、収奪の苔竜呪である。
と言うか、マントデアの言う通り、明らかになっていない能力の方がまだまだ多い可能性もある。
「とりあえず物理攻撃は普通に痛いだけよね?」
「そうだな。普通に痛いだけだ。恐怖で体が動かないから、強制クリーンヒットしていただけだ」
だが、その明らかになっていない能力を明らかにするためにも、恐怖対策は必須。
こうなると、何度かは壊滅する覚悟で挑むべきだろうか?
「タル。これは疑問点と言うより、ただ思った事を言うだけなんだけど……他の眼宮にも収奪の苔竜呪が存在していて、特殊な仕掛けの元である竜骨の塔に巻き付いている可能性が高いのよね?」
「そこは実際に調べてみないと分からないけど、その可能性は低くないと思うわ。竜骨の塔自体には防衛能力はなさそうだったし、攻撃に対して何の備えもしていないと言うのは考えづらいから」
「そうよね。となると……眼宮ごとに使ってくる状態異常が違う可能性はどれぐらいあると思う?」
「……。割とあると思うわ。収奪と言う能力に即死の力は含まれていても、状態異常を付与する力が含まれているとは考えづらいから」
私とザリアの言葉に周囲のプレイヤーたちが悩ましい顔をする。
まあ、当然の反応だろう。
私たちの想定が正しいなら、それぞれの眼宮ごとに対策が必須になるのだから。
とは言えだ。
「ただ、毒、灼熱、気絶の場合、高スタック値で即死の伏呪が含まれていても大して意味はないと思うわよ」
「その心は?」
「毒や灼熱なら普通にダメージを伴うブレスになりそうだし、そんなレベルの状態異常が付与される攻撃に含まれるダメージが一般プレイヤーに耐えられる程度だとは思えない」
「……。言われてみればそうね」
対策をする必要がないと言う話ではない。
恐怖以外だと伏呪があってもほぼ意味がないと言うだけの話である。
「じゃあ疑問点その4。遠距離攻撃を仕掛けたらどうなの?」
「未検証です」
「呪詛濃度26の空間で百メートル以上離れた場所から有力な攻撃を撃てるプレイヤーなんて片手で数えられるくらいじゃね?」
「タル、レライエ、ライトリセンカ……これぐらいか?」
「じゃあ、これは検証事項の一つね。有効ならそれでよし、効かないなら効かないで、たぶん共有しておかないと後で困る情報になると思うわ」
遠距離攻撃か……そう言えば、竜骨の塔をどうやれば排除できるかも含めて、確認しておくべきではあるだろう。
ぶっちゃけ、嫌な予感しかしないが。
あの手の待ち構えている相手に遠距離から一方的にと言うのは、踏むべきでない罠である事が割とあるし。
「まだ出していない情報はあるかしら?」
ザリアの言葉に私たちは首を横に振る。
今回の戦闘で得られた情報はほぼほぼ出せたはずだ。
「じゃあ、反省会はこれで終わりね。次にやるべきは……」
「当然、恐羊の竜呪の素材回収でしょ。私が持っていたのは全部持っていかれたから」
「だな。収奪の苔竜呪に奪われちまったから、狩り直さないと」
「情報以外の成果なしに強制的にされたもんな」
「今日のところは仕方がないにしても、明日以降の為にも即時ゾンビ化対策も考えておかないとな」
では今後について。
考えるまでもなくまずは恐羊の竜呪の素材集めだ。
恐怖の眼宮に居る収奪の苔竜呪対策に恐羊の竜呪の素材から作った諸々が必要になるだけでなく、基本の装備のアップグレードなどの為にも恐羊の竜呪の素材は必要になるはずなのだから。
「私は『埋葬の鎖』を使って回収、それから直ぐに外に出て素材を渡す役として……」
「シロホワには入り口で待機してもらうべきだな。毎回タルが恐怖の状態異常を受けているわけにもいかないだろ」
「そう言えば、眼宮のカースのリポップがどれぐらいかって誰か調べたか? 毒の眼宮はリポップの高速化が起きているから、参考にならんだろ」
「未検証です。開幕に襲い掛かってくるカースの出現条件も未検証ですから、色々と調べる必要があるでしょう」
やる事が決まったなら、次はそれをどれだけ効率よく行っていくかだ。
現状では私しか恐羊の竜呪の死体そのものを回収出来ないので、私はそこを担当。
後はまあ、色々と調べながら、効率が良くなるように調整していくべきだろう。
「さて、そろそろだいたいのデスペナが解除された頃合いかしらね? では、収奪の苔竜呪にお礼参りするためにも、まずは恐羊の竜呪を狩りに行きましょうか」
「「「おうっ」」」
「折角だから私も付いていくわ。どんな相手なのか、直接見てみたいし」
『あ、これは酷い事になるでチュねぇ……』
と言う訳で、この日の残り時間はひたすらみんなで恐羊の竜呪狩りとなった。
狩りの現場は収奪の苔竜呪にやられた恨みを晴らすかのように激しいものとなり、最終的には『恐怖の邪眼・3』習得時の饅頭ピエロの如く恐羊の竜呪たちは狩られることとなった。
だが、そのおかげで私は恐羊の竜呪を丸々一つ入手する事が出来たので、私的には満足である。
08/28誤字訂正