640:テラーパレス-4
本日二話目です
「あー見事にやられたわ……」
「タル、何があったの? 一気に何人も死に戻りしてきたようだけど……」
「詳しくは後で反省会を開くからその時に。でもまあ、簡単に言えばあれね。垂れ肉華シダが遂に本性を表したわ」
「あ、うん、納得したわ」
死に戻りした私は『ダマーヴァンド』の第五階層に戻された。
最初の咆哮で即死したプレイヤーたちも既に戻ってきている。
収奪の苔竜呪の強さを考えたら、そう遠くない内に全員死に戻ってくるだろう。
反省会はそれからでいい。
「えーと、デスペナで最大HPが30%減っているのは劣竜肉が原因で……レベル低下の方は敵が原因かしらね」
『ざりちゅの化身ゴーレムも破壊されたから、これも損失でチュねぇ』
「あ、もう破壊されたのね」
『たるうぃがやられた直後にバクりといかれたでチュよ』
収奪の苔竜呪がデスペナとして付与するのはレベル低下(1)。
まあ、どうせ反省会と劣竜肉のデメリットで時間を使うし、その間に治るだろうから問題はないか。
「うげっ、恐羊の竜呪の死体が無くなってる……あー、こっちがデスペナの本命ね……」
「「「!?」」」
「ご愁傷さまとしか言いようがないわね……」
と、思っていたら、埋葬袋の中に入っていたはずの恐羊の竜呪が全て無くなっていた。
どうやら、収奪の苔竜呪に奪われてしまったらしい。
そして、私の言葉を聞いた他のプレイヤーたちも自分のインベントリを確認し、一様に落胆した顔を見せる。
「あー、酷い目にあった」
「アレは対策が出来るまでは手出しするべきではないな」
「だな。今の俺らじゃどうしようもない」
そうして私たちが落ち込んでいる間に、マントデアたちも帰ってきた。
これで恐怖の眼宮に侵入したプレイヤーは全員この場に居ることになった。
それはつまり、誰一人として逃げ帰る事も叶わず、文字通りの全滅となったと言う事である。
「じゃ、反省会を始めましょうか。奪われた分の恐羊の竜呪の素材回収はその後で」
「「「異議なし」」」
では、反省会である。
「……。つまりこういう事ね。タルたちは恐怖の眼宮内で収奪の苔竜呪と言う垂れ肉華シダをカースかつドラゴンにしたような存在に遭遇。返り討ちにあった、と」
「そういう事ね」
「収奪の苔竜呪の強さは圧倒的であり、倒すためには対策が必須である事はほぼ間違いない、だから反省会かつ対策会議を今この場でやりたい、と」
「はい、その通りです」
反省会の司会をするのは、敢えてザリアだ。
現物を知らないからこそ、冷静に司会をしてくれるだろう。
「ふうん……幾つか疑問点があるわね」
「と言うと?」
「疑問点その1、四桁の恐怖程度で即死したりするの? 教えて検証班」
それは確かに気になる話だ。
私は検証班の方へと目を向ける。
すると検証班の一人、恐怖の眼宮に行っていないプレイヤーと視線が合う。
「検証班で検証した限りでは、恐怖のスタック値が貯まっても身動きが取れなくなるだけで、即死するような話は聞いた事がありません。ただ、検証班で検証できない範囲の恐怖もありますから……」
「実験台志願者が居るなら私が試しましょうか?」
「じゃあ、自分が」
「分かったわ。宣言する。貴方を蔓に覆われた恐怖の坩堝に星と一緒に叩きこんであげる。evarb『深淵の邪眼・3』」
「!?」
視線が合ったプレイヤーが志願してくれたので、呪法マシマシの『深淵の邪眼・3』を発動。
与えた状態異常は恐怖(999,999)。
無事に『深淵の邪眼・3』で与えられる範囲でのカンスト到達である。
「ーーーーー!」
「おっと」
恐怖したプレイヤーは意味不明な叫び声を上げ、頭を抱えて蹲ったかと思えば、その場で突然暴れ出す。
そこでマントデアによって地面に押さえつけられたのだが……そうしたら、首を動かし、頭をすさまじい勢いで床に叩きつけることで、自らの頭を粉砕、死んでしまった。
「おいすー、戻りましたー。いやぁ、体が勝手に動いて、酔いそうでした」
「中々にスプラッタな光景でしたね。スタック値約百万の恐怖になると、あんな事になるんですか」
「興味深い事例でしたね。後でちゃんと報告に上げておきましょう」
はい、恐怖したプレイヤーが万全の状態でセーフティーエリアから戻ってきたので、話し合い再開。
「あー、あー、恐怖で死ぬこともあったようだけど……収奪の苔竜呪のそれと今のは別物よね?」
「完全に別物ね。恐怖の咆哮を食らった直後に死んだプレイヤーは心臓が止まったような感じだったから」
「そうだな。今のは恐怖から逃れるための自殺だったが、あの時のは別の要因で死んでいたように思える」
「恐怖のスタック値的にも精々四桁、百万どころか六桁にも届いてませんでしたよ」
「つまり、そういう能力って事ね。タルとの繋がりを考えると、伏呪の一種と言う事になるのかしらね」
これで収奪の苔竜呪の能力が一つ判明。
恐らくだが、あの咆哮で千以上の恐怖を受けてしまうと、伏呪が発動し、即死の効果が発生するのだろう。
「となると恐怖対策が必須になる訳だけど……これは私の疑問点その2でもあるけど、無効化はどうだったの?」
「身代わり人形は全滅でした」
「咆哮を受ける直前に短時間の状態異常無効化を張ってましたけど、貫通されました」
「生き残りが居た事からして、装備の耐性や無効化は有効よ。ただ、元の数値が数値だから、問題のないレベルに抑えるには恐怖防御に特化する必要があると思うわ」
「そう言えば、一時的に耐性を上げるタイプは?」
「回数制の完全無効化があるのに最初から使うプレイヤーなんて居ないさ……つまり未検証」
そして、収奪の苔竜呪の能力が完全ではないが、もう一つ判明。
どうやらあの咆哮にはバフ剥がしや身代わり貫通……いや、回数制の無効化を抜いてくる効果があると考えるべきだろう。
耐性上昇なら効くとは信じておきたい。
「攻撃の範囲は少なくとも数十メートル。やはり対策をしなければどうしようもないだろうな」
「そうね。まあ、対策装備を生み出すための素材を何処で回収するべきかはとても分かり易いけど」
「恐羊の竜呪か……」
「ま、そうだよなぁ……」
つまり、真っ当な手段で戦うのであれば、恐怖耐性を上げることに特化した装備やアイテムを、恐羊の竜呪の素材から作成するのが必須と言う事である。
なお、素受けで四桁の恐怖をその後の戦闘が可能なレベルにまで抑えるとなると……相当の耐性と無効化能力が要求されることは間違いないだろう。
「じゃあ、疑問点その3。収奪の苔竜呪はどうやって鑑定結果を誤魔化したの?」
では、反省会を続けよう。
08/28誤字訂正




