638:テラーパレス-2
本日二話目です。
「ふんっ!」
「おらぁ!」
「骨まで潰せぇ!」
「メギャアッ!?」
多頭竜……正式名称、恐羊の竜呪との戦闘は割と順調に進んでいる。
今も片方の首の一本をスクナが切り飛ばし、他のプレイヤーが切り飛ばされた首を問題なく処理したところだ。
そして、マントデアたちが抑え込んでいるもう片方の恐羊の竜呪は、その体格差もあって、逃げる事も攻撃する事も出来なくなっているようだ。
「ま、当然と言えば当然の流れではあるのよね」
「まあ、恐羊の竜呪は特定の相手が少数の場合には強いでチュけど、それ以外の相手は苦手と言うタイプでチュよね。ある意味、たるうぃの『恐怖の邪眼・3』そのままな気がするでチュ」
ザリチュの言う通り、恐羊の竜呪は得意不得意がはっきりしているタイプのカースだ。
具体的に言えば、恐怖とUI消失状態が有効であったり、素早い移動に追いつけない程度の速さしか持っていなかったり、囲い込んで移動を制限できるような数や体格がない、この辺のプレイヤー相手には圧倒的な強さを持つかもしれないが、それ以外には……今回の私たちのように近接戦闘かつ呪術を使わないプレイヤー集団相手ではちょっとタフなカース止まりになってしまうのである。
まあ、墨カッターのように潰すのに失敗した場合には危険な攻撃もあるので、油断は出来ないのだが。
「メメメメメ……」
「タル! そろそろだ!」
「分かったわ!」
さて、そろそろスクナたちが攻撃している方の恐羊の竜呪が倒れそうだ。
と言う訳で、私は既に準備は終えている『埋葬の鎖』の狙いを定める。
「せいやっ!」
「メドラァ……」
「『埋葬の鎖』!」
ストラスさんの攻撃が恐羊の竜呪の胴体に突き刺さり、恐羊の竜呪の体から力が抜けていく。
と同時に私は呪詛の鎖を恐羊の竜呪に突き刺して、『埋葬の鎖』を発動。
回収は……成功したようだ。
「よしっ」
「これで後は一体だ。マントデア!」
「おうっ! 言われなくても!」
「メンギャアアァァ!?」
その後、もう片方の恐羊の竜呪は問題なく討伐された。
討伐はされたが……『埋葬の鎖』が回収を失敗したせいで、ゾンビ化。
ゾンビ恐羊の竜呪を倒す羽目になってしまった。
『反魂の呪詛』の抑制? 間に合わなかったよ。
「しまらねぇな……」
「レベル不足のせいで、確定回収になっていないのよね……」
「ちなみに必要レベルは?」
「40。ちなみに今の私は38」
「気軽に上げてとは言えないレベルだな……」
まあ、確率なので仕方がない。
「なんにせよ。戦闘終了だよな? ちょっと周囲の探索をしてくるぜ」
「俺も付いていく」
「気を付けろよー」
とりあえず戦闘は終わった。
と言う訳で、消耗が激しいプレイヤーは回復を、そうでないプレイヤーは周囲の警戒と探索をする。
検証班のプレイヤーも居るので、色々と有用な情報は手に入るだろう。
「あ、スクナ。ちょっと確かめたい事があるから、構えて貰っていい?」
「分かった。何をする気かは分からないが、何時でもいいぞ」
では、恐怖の眼宮の仕様をちょっと確認しよう。
「よっと」
私は袋からゾンビ恐羊の竜呪の頭を取り出してみる。
すると、ある程度出てきたところでゾンビ恐羊の竜呪の頭は口を開き、暴れ出そうとした。
「ふんっ!」
「……。完全に潰すぞ」
それを見たスクナは素早く恐羊の竜呪の頭を切り飛ばした。
そして、刎ねられた頭はゾンビからスケルトンに変化し、そこでロックオによって叩き潰された。
「なるほど。恐怖の眼宮の仕掛けが働いている間は、死体の移し替えをするのも危険みたいね」
「そのようだな。念のために聞いておくが、袋の中にある他のパーツは大丈夫か?」
「感じ取る限りは大丈夫よ」
私の『反魂の呪詛』の抑制が間に合わなかった件からも分かっていた事だが、この場のゾンビ化は本当に早い。
もしかしたら、さっきの戦闘で『埋葬の鎖』が失敗したのも確率で失敗したのではなく、あの時点で既にゾンビ化が完了していて、単純に間に合っていなかったのかもしれない。
「あ、今の内にこっちも確認しておこうかしら」
「あ、そっちは流石に戦闘中に見てはいなかったんでチュね」
私は恐怖の眼宮の鑑定結果を見てみる。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・恐怖の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、恐怖の眼宮、そこは恐れに満ちた世界であり、誰もが孤独に陥る世界でもある。
ひしめくは羊と恐怖の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは一度や二度の死では果てることなく進む。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「さて、事前の予定通りなら、やはり遠くに見えるあれを目指す事になるか? タル」
「そうなるわね。他に目印になりそうな物もないし、仕掛けが解除可能かどうかを確かめるためにも目指すべきでしょう」
「問題はあそこに辿り着くまでに何度か戦う事になる点だが……」
「んー、先手を取って沈黙とかを撃ち込めれば、だいぶ楽にはなりそうだよな」
「そうですね。ブラクロ様の言う通り、恐怖を受けなければ、戦闘の難易度は大きく下がるでしょう」
と、周囲の探索に出かけていたプレイヤーたちが帰って来たか。
だが、これと言った収穫はなかったらしく、駄目でしたと言う顔をしている。
「タル。死体の回収はあとどれぐらい出来る?」
「んー……相手のサイズがサイズだから、一体が限度かもしれないわね」
「つまり、今後の戦闘は骨になった恐羊の竜呪まで叩き潰す前提で行くべきだな」
埋葬袋の容量を一応確認。
うん、余裕はもうないだろう。
「じゃ、可能な限り先手は狙ってみるわ」
「そうだな。頼んだ」
では、状況を把握したところで、進むとしよう。
08/27誤字訂正