637:テラーパレス-1
本日より数日間。一日二話更新になります。
こちらは本日一話目です。
「さて、今日も頑張っていきましょうか」
「だな」
「おうっ」
「実に楽しみだ」
「……」
「何と言いますか、面子が濃いですね」
「それ、すとらすもでチュよ」
火曜日。
ザリアたちが鼠毒の竜呪の素材を加工する為に必要な設備を得るために、鼠毒の竜呪を狩って素材を回収すると言う作業を繰り返している中、私含めて一部のプレイヤーは別行動する事にした。
と言う訳で、今回の面子。
「向かう先は恐怖の眼宮。目標は多頭竜の討伐、素材回収と恐怖の眼宮の情報収集よ」
「要するに開幕一戦して、可能なら遠くの方に見える塔状の緑色の何かを探る、でチュね」
まずは私とザリチュ。
格好はいつも通りであるが、私は眼宮侵入時の邪眼照射を考えて、ブースターや『死退灰帰』の類は一応使っていない。
「とりあえず一体は俺が受け持つ感じか?」
「だろうな。よろしく頼むぜ」
「……。そうだな。呪術なしでは任せるしかないだろう」
次にマントデア、ブラクロ、ロックオの三人に、『ガルフピッゲン』の巨人が二人。
「逆に私たちの側は火力を集めて、速攻を狙う事になるだろう」
「そうですね。やらせてもらいます」
続けてスクナ、ストラスさん、それと『光華団』と検証班から物理寄りのプレイヤーが数名。
「じゃ、シロホワからバフを貰ったら行きましょうか」
「「「おー!」」」
要するに恐怖やUI消失状態を受けても問題がない、あるいは少ないプレイヤー10名ちょっとでPTを組んで行動すると言う事だ。
なお、彼らの武器の一部は鼠毒の竜呪製になっているが、作った職人たちにしてみれば仮に作った急ぎの品であるらしい。
そして、その言葉が正しい事を示すように微妙に粗があると言うか、含まれている呪いに洗練され切っていない感じがある。
まあ、今回多頭竜を狩りに行くぐらいならば問題はないだろう。
と言う訳で、私たちはシロホワから眼宮突入時の邪眼対策となるバフを貰うと、恐怖の眼宮に突入した。
「「メエエェェゲエエェェニャアアァァッ!!」」
「さあ、戦闘開始よ。『熱波の呪い』!」
「やってやるでチュよー!」
で、眼宮突入直後に多頭竜が私たちを挟み込むように左右から二体出現。
直後に恐怖とUI消失状態を付与する叫び声が放たれた。
「うおっしゃああぁぁ! アオオォォン!!」
「ふんっ!」
「さて、どの程度の堅さを持つか……!」
此処までは予定通り。
私は多頭竜目掛けてダメージ判定を有する呪詛の剣を放つ横で、マントデアが片方の多頭竜を殴り飛ばして注意を惹き、もう片方の多頭竜にブラクロやスクナたちが向かっていく。
では、攻撃を凌ぎつつ、周囲を見てみようか。
「ふむふむ。確かに墓場みたいな感じね」
恐怖の眼宮は昨日のライトリの動画で見た通り、一見するならば墓場のようにも見える場所だ。
理由としては、墓石、あるいは石碑の類に見えるような、板状の岩が何本も立ち並んでいる事や、空や空気がどんよりとしている上に湿っている感じがあるからだろう。
次に多頭竜だが……試練で戦った物よりは若干小さい。
具体的に言えば、胴体の直径が試練の時は5メートルほどだったのに対して、今私たちが戦っているのは胴体の直径が3メートルほどしかない。
「おらぁ!」
「ふんぬ!」
「せいっ!」
「メギャン!?」
「巨人組強いな……」
「体のサイズがそのまま強さだからな。アイツらは」
その為か、マントデアたちが相手をしている方の多頭竜は、さっきから碌な行動を取れなくなっている。
まあ、マントデアたちが使う武器は鼠毒の竜呪製ではないし、多頭竜の防御力は極めて高いので、ダメージはほぼ入っていない様だが。
「で、アレが例の塔状の緑色の何か、ね」
私は遠くに目を向ける。
遠くの方に見えるのは、這いずり回る多頭竜の影が幾つか、それに塔状の緑色の何かだ。
距離があるので正確なサイズは分からないが、あの塔状の緑色の何かのサイズは……高さ5メートルから10メートルは確実にありそうだ。
なお、こうやって周囲を見ている間にも私は多頭竜に攻撃し、多頭竜からは時々墨カッターや墨砲弾による攻撃が飛んできているが、呪術が使えない今の私が稼ぐヘイトは微々たるものなので、特に問題はない。
「ふん!」
「メギョ!?」
「あらっ」
と、ここでスクナが多頭竜の首の一つを切り飛ばす事に成功する。
これによって攻撃の密度が下がり、攻略が容易になる。
斬り飛ばされた多頭竜の首が地面に着くまでは私はそう思っていた。
そう、地面に着くまでは。
「メメメメメ!」
「む……」
多頭竜の首が地面に着いた瞬間、多頭竜の首の肉は腐り、首だけで這いずり回って、近くに居るプレイヤーに襲い掛かったのだ。
幸いなのは襲われたのがロックオであったことだろうか。
ロックオは盾で多頭竜の首ゾンビの攻撃を防ぐと、反撃で多頭竜の首ゾンビを吹き飛ばした。
「ーーーーー!」
「あー、なるほど。そういう事ね……」
だがそれだけでは終わらなかった。
ロックオに吹き飛ばされた多頭竜の首ゾンビは、吹き飛ばされた先で肉が削げ、骨だけとなり……再び近くに居るプレイヤーへと襲い掛かったのである。
この時点で全員理解しただろうが、私は声を張り上げる。
「全員に通達! 恐怖の眼宮の仕掛けは即時ゾンビ化よ! 撃破する前に私に声を掛けて! ゾンビ化を凌ぐ試みをしてみるわ!」
毒の眼宮の高速リポップに相当する恐怖の眼宮の仕掛けは即時ゾンビ化だと。
そして私は『埋葬の鎖』の準備の為に呪詛の鎖を準備すると共に、ゾンビ化に関わる『反魂の呪詛』を抑制する準備を始めた。
08/26誤字訂正