635:コントラクト-5
「普通にショートカットが出来ていくわね……」
「『恐怖の眼宮』に行くのは距離的に大変だろうと話をしつつ『虹霓鏡宮の呪界』に入ったら、出来上がっていた」
「なるほどねぇ……」
ライトリの提示した動画は四つ。
内三つは毒の眼宮以外の眼宮の様子である。
で、残る一つがショートカットが出来る光景だ。
『これ、後で鼠毒の竜呪の死体一つくらいは捧げた方が良いんじゃないでチュか?』
「……」
ザリチュが私にだけ聞こえるように囁く。
私もそう思う。
このショートカットの作成はほぼ間違いなく火酒果香の葡萄呪と千支万香の灌木呪がライトリたちの想いを忖度して作成したものだ。
ただ、あの二体のカースが何の対価もなしにやるとは思えないし、こちらも忖度してお礼の一つでも渡しておかないと、後が怖い気がする。
と言うか、意識をしたからなのか、既に庭の方から二体のカースの『分かっているよね?』的な気配が漂っているように感じてしまう。
うん、レベハラではあるが、助かったのも事実なので、後で渡しておこう。
「で、本題の方は?」
「そうね……」
では本題に移ろう。
私はまずライトリたち以外のプレイヤーへ目を向ける。
ザリアたちは……とても分かり易く悩んでいる感じだった。
うん、話に付いていく為に私も残り三つの動画を見よう。
「灼熱の眼宮は一戦目は仕方がないとして、二戦目からは隠れるのもありかしらね。見ての通り、恐ろしくタフなのがこのカースだから」
「ふむふむ」
一つ目、灼熱の眼宮。
出現するのは首を上げた際の体高が50メートル以上ある超大型、だがオリジナルに比べれば縮んだカース、牛陽の竜呪。
地形は凹凸の激しい荒れ地であり、一番低い場所は真っ赤な溶岩が流れている。
気温は100度前後で、場所や牛陽の竜呪の行動によってはさらに上がるので、高温耐性は必須のようだ。
なお、鑑定結果はこんな感じ。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・灼熱の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、灼熱の眼宮、そこは熱波に満ちた世界であり、着実に手傷を負わせていく世界でもある。
ひしめくは牛と熱波の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは炎が荒れ狂う場でも構わず闊歩する。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
▽▽▽▽▽
「気絶の眼宮は……ガチ戦闘するしかなさそうね」
「私も同感」
二つ目、気絶の眼宮。
出現するのは襟巻と角を生やした虎柄のティラノサウルス、虎絶の竜呪。
地形は灼熱の眼宮に似ているが、若干凹凸が少なくなった荒れ地であり、隠れる場所は殆どない。
気温は普通だが、空が濃い黒雲に覆われており、時折だが落雷ならぬ落火が発生。
落火は落雷ほど速くはないが、着弾地点とその周囲に極めて大きな破壊を撒き散らすようだ。
鑑定結果はこんな感じ。
ちなみに開幕の邪眼による引き寄せはランダム方向に生じるとの事。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・気絶の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、気絶の眼宮、そこは一瞬の判断を求められる世界であり、判断が遅れた者には死が与えられる世界でもある。
ひしめくは虎と瞬断の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは落ちる火を見てから避ける。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
▽▽▽▽▽
「恐怖の眼宮は……情報が足りないわね」
「UI消失状態は現状防げないし、治す暇もなかった」
三つ目、仮称だが恐怖の眼宮。
出現するのは蛸のようにも見える多頭竜。
地形は一見するならば墓場で、墓石のようにも見える岩が幾つも立ち並んでいる。
だが、私の『深淵の邪眼・3』には鑑定結果が表示されなくなるUI消失状態の効果があり、その効果は侵入時に照射されたライトリたちにもしっかりと発揮されている。
そのため、多頭竜や眼宮の正式名称やフレーバーテキストの類は不明である。
「でも、見ている感じだと、灼熱と気絶よりは探索が簡単そうに見えるわね」
「たぶんだけど、此処が毒の次に楽な眼宮だとは思う。対策済みなら毒の眼宮よりも楽な可能性もあるかも」
ライトリの毒の眼宮よりも楽な可能性もあると言う言葉には私も同意する。
多頭竜は二体同時にしか出てこない様だし、見通しもそんなに悪くはない。
事前の対策と準備が十分ならば、勝機は十分にあるだろう。
ただ、灼熱の高温や気絶の落火のようなギミックがライトリの動画には映っていない。
そのギミックの内容次第では毒の眼宮と比較した場合の難易度は変わってくるかもしれない。
「んー?」
「……。妙なものが映ってるな」
「なんだろう、これ」
と、動画を見ていた何人かが声を上げ始める。
どうやら何かを見つけたようだ。
私もレライエが見せた静止画の拡大映像で、その何かを確認する。
「タル、これが何か分かるか?」
「流石に分からないわ。でも、周りから浮いているのは確かね」
動画は恐怖の眼宮のもの。
その動画の遠くの方に映っているのは、這いずり回る多頭竜の影と……塔状の緑色の何か。
緑色の何かが塔状の何かに巻き付いているようにも見えるが……流石に詳細は分からない。
「ふむ、確認する価値はありそうだな。まあ、多頭竜の事を考えると、最低限武器の更新は終えておきたいところだろうが」
「スクナの言うとおりね。これは確認する必要がある。でも、今の私たちだと力不足。今日のところは装備更新のための素材集めに専念するべきでしょうね」
一番あり得そうなのは、これがギミックに関係する何かであり、これの破壊によってギミックが解除されると言う物だろう。
まあなんにせよだ。
「じゃあ、休憩が終わったらもう一度毒の眼宮に突入。一人につき一体くらいの気持ちで、鼠毒の竜呪の死体を確保しましょうか」
まずは鼠毒の竜呪を十分な数だけ狩る事を目的として動くとしよう。
と言う訳で、私たちは再び毒の眼宮に入り、際限なくリポップする鼠毒の竜呪を狩り続け、無事に脱出、分配したところで今日の活動は終わった。
08/24誤字訂正