634:コントラクト-4
「さて、全員揃っているわね」
「はい、大丈夫みたいです。誰も欠けてないですよ」
回廊に戻ってきた私たちは、深緑色の円に触れないように注意しつつ車座になり、半数ぐらいのプレイヤーは休息の態勢に入る。
ザリアとシロホワが確認したとおり、人員の欠けはなし、と。
「では、戻ってこれたところで一先ずの感想会と今後どうするかについてでしょうか?」
「そうね。これからどうするにしても、まず必要なのは情報の共有だと思うわ」
そして、ストラスさんの言葉を切っ掛けとして、情報の共有が始まるようだ。
ただ、実際に始まる前にライトリが手を挙げた。
「すみません。何人か残しておくので、私たちは他のマップに入ってみようと思います。他がどうなっているのか気になりますし、基本的な仕様が共通なのかも現状では不明なので」
「分かったわ。行ってらっしゃい」
と言う訳で、ライトリと『光華団』のプレイヤー2名が『灼熱の邪眼・3』に対応しているであろう鏡の扉がある方に向かって移動を始める。
ちなみにライトリたちは私の許可を得た上で自分たちの主観映像を生放送で配信している。
なので、これを見れば他の場所がどうなっているかを私たちも知る事が可能である。
「じゃあ改めて感想会。鼠毒の竜呪そのものについては……まあ、何とかなったわね。何人か攻撃が通らずに大技を使ったり、手痛い反撃を食らったりもしたようだけど、それについては今さっき得た鼠毒の竜呪の素材を使って装備を更新するなりなんなりすれば、たぶん次回以降はもっと簡単に倒せると思うわ」
「俺もザリアの感想に同意だな。一戦だけに限って見れば、全員自分の役割を果たして、問題なく戦えていた。余力もある程度は残せていたしな」
ザリアとマントデアの感想にだいたいのプレイヤーが頷きを返す。
「となれば問題は異常な早さのゾンビ化とリポップか」
「だな。そこを何とかしないと、進むどころじゃない」
「……。ゾンビはインベントリで防げる。問題はリポップだな」
スクナ、ブラクロ、ロックオの言葉にも同意の意見が多い。
なお、ゾンビ化をインベントリへの収納で防ぐ場合、後の処理をどうするかを予め決めておかないとPTブレイクに繋がるだろうが……まあ、そこは各自で何とかしてもらおう。
「タル様。リポップを防ぐ手段などはありますか?」
「流石に持っていないわね」
ストラスさんの言葉に私はリポップ対策を考える。
一応『七つの大呪』の一つ、『再誕』の呪いを抑制する方向で呪詛支配をすれば、ある程度のリポップ抑制は出来るだろう。
が、反動も凄まじい事になるだろう。
しかも、その反動が私自身が被るタイプならまだいいが……鼠毒の竜呪が超強化されて復活するとかもありそうなので、手段として取るのは最後の手段に近いだろう。
「次は気絶」
「はい」
「付いていきます」
あ、死に戻ったらしいライトリが戻ってきて、そのまま『気絶の邪眼・3』に対応するエリアに向かって行った。
「そもそも、あのリポップ速度は此処が呪限無の中層であり、リポップに関係している呪いが活性化されているにしても早すぎると私は思うわ」
「じゃあ、何処かに早くなっている原因があるかも?」
「それはあるかもだな。となると、最初は鼠毒の竜呪四体を落としてから、残りの一体を拘束して時間を稼ぎ、原因の排除か」
「まあ、原因があるなら、そういう事になるでしょうね」
ザリアの言葉が正しいかは分からない。
なにせ、異常か正常かは比較してみなければ分からない事で、比較対象が今は存在しないのだから。
「で、ストラスさんと言うか検証班? そろそろ情報を出して欲しいんだけど? 貴方たちは私たちが戦闘中に色々と調べていたみたいだし」
「そうですね。全部出します」
要するに今は情報不足なのだ。
と言う訳で、検証班の出番である。
「まずそうですね。そこの深緑色の鏡の扉を抜けた先のエリアについてですが、正式名称は『虹霓鏡宮の呪界・毒の眼宮』と言うそうです」
そう言うとストラスさんはエリアの鑑定結果を私たちに見せる。
△△△△△
虹霓鏡宮の呪界・毒の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、毒の眼宮、そこは熱病に満ちた世界であり、着実に力を削り取っていく世界でもある。
ひしめくは鼠と疫病の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは底なしの巣から幾らでも這い出てくる。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
▽▽▽▽▽
「底なしの巣……これが異常なリポップの原因か?」
「そう考えるのが妥当そうだけど……これは現物を見ないと分からないわね」
ふむふむ。
それぞれの眼宮ごとにフレーバーテキストが違うのか。
じゃあ、座標コード取得のためにも、後で私も鑑定をしておかないといけないな。
うん、未知が楽しみだ。
「それと眼宮のサイズですが、入り口から左右1キロメートルほどに進むと壁があり、そこからは奥に進むしかないそうです。そして奥の方ですが……最低でも10キロメートルは続いているとの事です」
10キロ……戦闘と探索をしつつ、あのジャングルの中を進むと考えると、中々の距離である。
「そう言えば、ジャングルの植物とかって採取できたのか?」
「出来なかったそうです。どうやら、眼宮内の植物は一見すると植物に見えますが、実態は中身が定まっていない不安定な呪いの塊の様で、切り離したりすると、切り離した部分が直ぐに霧散した後、再生、元通りになるようです」
ふむふむ。
「とまあ、検証班があの中で得られた情報は今はこの程度ですね」
「なら、追加情報を出す」
と、ここでライトリが戻ってきた。
そして、四つの動画を私たちの前に表示した。
そこに映っていたのは、三つの眼宮の内部の様子と、東屋から恐怖の眼宮へのショートカットが形成されていく姿だった。
08/23誤字訂正