633:コントラクト-3
「侵入は問題なし、と」
「よかった……」
シロホワの呪術は無事に効果を発揮。
全員、目一つ分の『毒の邪眼・3』を凌いで、深緑色の円の先、鼠毒の竜呪が現れるエリアに入ることが出来た。
「さて……」
「此処は……ジャングル?」
「結構気温が高いな。後、草とか木がヤバい気配を漂わせてる」
「いや待て、それだけじゃなさそうだ」
「全員警戒態勢! 早速来るわよ!」
熱帯のジャングルのような風景は前回見た通り。
初見と言う事もあって、一部のプレイヤーは浮足立ちそうになったが、ザリアの言葉で直ぐに周囲を警戒し始める。
同時に草木の向こうから、こちらにやってくる音が五つ。
早速戦闘が始まるようだ。
「「「ヂュアアアァァァッ!」」」
「鼠毒の竜呪!」
「いきなり五体か!」
「やるぞっ!」
と言う訳で、鼠毒の竜呪五体との戦闘が始まる。
始まるが……まあ、この面子ならばどうとでもなるだろう。
「ふんっ!」
「ヂュアッ!?」
まずマントデアが五体の鼠毒の竜呪の先頭に一撃当てて吹き飛ばし、そのまま一対一の状態に持ち込んだ。
数人のプレイヤーが付いているし、鼠毒の竜呪との戦闘経験もあるマントデアなら、どうとでもなるだろう。
「はっ!」
「せいやっ!」
「やあっ!」
「ヂュゴッ!?」
続けてスクナたちが鼠毒の竜呪の一体を吹き飛ばし、一対多の状況を作り出す。
ここもスクナが鼠毒の竜呪と戦闘経験あり。
クカタチたちも居るし、此処も問題なしか。
「アオオオォォォン!」
「私、ブラクロ、ロックオ、ライトリの四人で盾役は代わる代わるやるわよ!」
「あ、ざりちゅも加わるでチュよー!」
で、残りの三体は残りのメンバーで対処する……いや、検証班の何人かは戦闘をせずに、周囲の状況を確認しているか。
戦闘メンバー的に戦いの面では問題ないし、この後の探索を考えると、むしろありがたい話か。
では、そろそろ私も動くとしよう。
あの、一歩引いて、次の行動を考えている奴が良さそうか。
「『熱波の呪い』、『気絶の邪眼・3』」
「ヂュオッ!?」
「うおっ!?」
と言う訳で、私はザリアたちが相手をしている三体の内の一体を狙って、伏呪付きの『気絶の邪眼・3』を目二つ分で発動。
鼠毒の竜呪の一体を2メートル、私の方へと引き寄せる。
「ezeerf『灼熱の邪眼・3』」
「!?」
そうして引き寄せた鼠毒の竜呪の喉に呪詛の剣を突き刺し、『灼熱の邪眼・3』を発動。
鼠毒の竜呪の体を内側から焼く。
で、直ぐに錫杖形態にしたネツミテの打撃部に呪詛を纏って、鼠毒の竜呪の頭を殴り飛ばし、距離を離す。
「えっ、タル、何今のエグイ動き……」
「ただの引き寄せからの攻撃だから大丈夫よ」
私の離脱直後に他のメンバーの攻撃が、私の一撃を受けた鼠毒の竜呪に殺到。
そのまま打ち倒された。
「ちなみにいつもの毒は使わないの?」
「初戦闘だから、今後も踏まえて今回は無しかなと」
「なるほどね。じゃあ、戦線に戻るわ」
一体倒されれば、これまで拮抗していた天秤はこちら側に大きく傾く。
残りの二体もそう長くはないだろう。
マントデアたちとスクナたちも、見た限りでは大丈夫だろう。
「ヂュアアアァッ!?」
「はぁはぁ……狩ったぞおぉ!」
「堅いわ! 竜呪本当に堅いわ!」
「いやこれ、装備更新しないとキツイな……」
「でもまあ、何とかなったな」
そして、私の見立て通り、残り四体の鼠毒の竜呪も暫く経ったところで始末された。
「さて、この場に居る全員に言っておくことがあるわね」
「え?」
「はい?」
「うん?」
つまり、此処からが問題である。
「このダンジョン、倒したカースのゾンビ化が異様に早いのよ」
「ヂュアアアァァァッ!?」
「「「はあっ!?」」」
「……」
と言う訳で、私が手傷を負わせた鼠毒の竜呪がゾンビ化して復活。
大きな声を挙げながら、手近なプレイヤーに襲い掛かる。
が、何か察していたのか、素早く動いたロックオが攻撃を防ぐ。
「えと、タル様。これはどうすれば……」
「私の場合は呪詛支配を使うか、毛皮袋に収納するかして、ゾンビ化を防いだわね」
「おいっ、他の四体も復活しそうになっているぞ!?」
「本当に早いなおい!?」
「誰かインベントリ持ち! インベントリ持ちを!!」
さて、残念ながら今回は二回戦をする事になるようだ。
まあ、ゾンビ化したところで痛覚がなくなって、積極的に攻撃を仕掛けてくる程度。
生きている時の竜呪が倒せたなら、どうとでもなるだろう。
「はぁはぁ……酷い目にあった……」
「タル。これを事前に口で伝えておくのは?」
「言っても信じがたいかなと。後たぶんだけど、リポップとかも早まっているわよ」
「「「!?」」」
「ほう、無限湧きか……」
「へぇ、それはそれで面白いな……」
「はい! 一部の戦闘狂が反応していますが、撤退を提案します!」
「……。賛成」
「戦闘能力の低いものから順に撤退を!」
「これは事前準備と打ち合わせが要るわね……」
「まあ、こうなるわよね」
と言う訳で無事にゾンビ化した鼠毒の竜呪は撃破され、その死体はインベントリに回収されるか、ゾンビ化できない程に破壊された。
で、五体の鼠毒の竜呪が居なくなったことで、五体の鼠毒の竜呪がリポップ。
草木をかけ分けて、直ぐに襲い掛かってくる。
とは言え、こちらには十分な人数が居るし、スクナとブラクロがとてもやる気に溢れているので、撤退だけならば問題はないだろう。
「脱出完了ね」
「「「はぁはぁ……」」」
「さて、どうした物かしらね……」
「おー、やっぱり武器がボロボロになったな」
「ブラクロ、もう少し武器の振るい方を意識してみるといい。私の武器は見ての通り、まだまだ使えるぞ」
「ああ本当だ。ちょっと考えてみるよ。スクナ」
そうして私たちは何体かの鼠毒の竜呪を倒しつつ、深緑色の円の外に脱出した。




