631:コントラクト-1
「お邪魔するわね。タル」
「タルさんお邪魔しまーす」
「今回は招いてくれてありがとうな。タル」
「……。こんばんは」
「今日はありがとございます。タル様」
「今日は来てくれてありがとうね、皆」
「おおっ、結構集まったでチュね」
夜。
『ダマーヴァンド』の第四階層には合計30名近いプレイヤーが集まっていた。
具体的に言えば、ザリアが率いるいつものPT、クカタチとスクナたち、マントデア率いる『ガルフピッゲン』の面々が何人か、ライトリと『光華団』のメンバー数人、ストラスさんと検証班数名、それから各グループが連れて来た契約呪術の使い手であるプレイヤー数名である。
「じゃあ早速契約からしていきましょうか。これが私から提示する契約の条件よ」
「拝見させてもらいますわ」
私の出した契約書をヤモリの手足をしたプレイヤー……あ、この人ノーマキさんか、かなり久しぶりに見た気がする。
と、ノーマキさんが契約書を受け取り、一読、その後ザリアたちも順々に見ていく。
「契約内容に問題はないわよね?」
「問題はありまへんな。ただ、タルさんが制限を掛けようと思ったら、もっと色々とかける事は可能やとは言っておきますで」
「それは要らないわね。入れるのは私の友人と、友人が認めたプレイヤーだけ。問題は起こすな。問題を起こしたら処分する。そういう話をシステム的にも確定させておきたかっただけだから」
「だったらこちらからは手を加えることはありまへん」
と言う訳で、特に問題ない事を確認した上で、私とザリア、クカタチ、マントデア、ライトリカブト、ストラスさんの五人で契約を交わしていく。
なお、この五人は自分が認めたプレイヤーを同行させられるのだが、一人で最大九人まで同行させられる。
よって、本人含めて十名で『虹霓鏡宮の呪界』に挑んでもらう事になるわけである。
「じゃ、ワイらはこれで失礼させてもらいますわ」
「ありがとう。助かったわ」
そして契約が終わったところで、ノーマキさんたち契約呪術の使い手たちは帰っていった。
なお、彼らは商人プレイヤーでもあるのだが、『虹霓鏡宮の呪界』の素材については、当面、素材の状態では扱う気はないとの事。
どうやら素材の能力的に自分たちでは扱いきれないと判断したようだ。
「じゃ、『虹霓鏡宮の呪界』に案内するけど……迂闊に周囲のものを調べたり、鑑定したりしないように。何かがあっても、私は守れないわ」
「「「……」」」
「えっ、何で全員揃って俺の方を向くんだよ」
「だって今までが今までじゃない。ブラクロ」
私の注意事項通達と同時に、全員の視線がブラクロに向く。
理由は言うまでもない。
ブラクロだからである。
まあ、行動によっては即死どころか、何かしらの呪いを背負わされたり、場合によってはキャラロストもあるだろうから、流石のブラクロも今回は大丈夫だとは思っているが。
「では出発よ」
「「「おー」」」
私たちは第四階層から第五階層、今まで私のプライベートエリアだった場所に他のプレイヤーが入っていく。
で、まず広がったのが作業場として丁度良さそうな広場。
「まず此処が素材処理の場所として使う事も考えている広場ね。呪詛濃度は20あるわね」
「へ、と言う事は此処なら……」
「そうね。マントデアが受け取った素材も外に出せると思うわ」
用途は『虹霓鏡宮の呪界』で得た素材の処理をするためである。
結界扉も設置してあるし、幾らかは道具もあるので、ここで一通りの作業は出来るだろう。
と言う訳で、マントデアたちが連れて来たプレイヤーの一部は此処に残って、色々と作業する事になるだろう。
「次にここが広間ね」
「ーーー……」
「普通にカースが居る」
「確かハオマだったか。元気そうだな」
次は『満腹の竜豆呪』ハオマが居る噴水広場だ。
此処にはハオマが居るだけでなく、『ダマーヴァンド』の核である『虹霓竜瞳の不老不死呪』の毒杯が噴水に隠されているのだが、そちらはしっかりと隠されている上にシステム的に手を出せないようにロックもかけてあるので、問題はない。
「ーーー」
「あれ? えっ!?」
「どうかしたの? シロホワ」
「いえその、HPと満腹度が少しだけ減っていたんですけど、それが今回復しまして……」
シロホワの視線がハオマに向く。
視線を向けられたハオマは静かに一礼。
「ハオマ、HPと満腹度の回復をした?」
「ーーー」
「貴方や『ダマーヴァンド』に負担は?」
「ーーー」
「ふむ、だったら問題なさそうね」
ハオマの身振り手振りや何となく伝わってくる意思から、この場に居るプレイヤーの中で、ハオマよりも異形度が低いプレイヤー限定でHPと満腹度を全回復させる事が出来るようだ。
『ダマーヴァンド』への負担は特に無し。
ハオマへの負担も問題ない程度と言うか、一種のストレス解消になるようだ。
当然ながら、回復したプレイヤーにも問題が生じることはない。
「タル、説明をお願い」
「そうね。異形度20のプレイヤーまでなら、ここに来ればHPと満腹度を回復してくれるそうよ。ハオマがやりたいと言う範囲で、だけど」
「なるほど分かったわ。頼りにさせてもらうわ」
と言う訳で、ハオマは一種のヒールスポットとして働いてくれるようだ。
「じゃ、次の説明ね。こっちは私の私的スペースだから立ち入り禁止」
さて、このハオマが居る噴水広場から行ける場所は三つ。
一つはさっきまで居た入り口。
もう一つは私の私的スペース……私の解体場や作業場、アジ・ダハーカの縦穴に続く通路などがある方で、ここはザリアたちでも立ち入り禁止。
「で、こっちが……『虹霓鏡宮の呪界』に続く道よ」
「「「……」」」
そして最後の道が『虹霓鏡宮の呪界』に繋がる呪限無の石門に続いている。
特にこれと言った装飾の類は施していないのだが、それでも不穏な気配が漂って来ているのか、何人かが息を呑む音が聞こえた。
「さあ、『虹霓鏡宮の呪界』に入りましょうか」
私たちは『虹霓鏡宮の呪界』へと入っていった。