628:タルウィスコド・3-6
「はああぁぁ……いい加減に終わって欲しいところだけど……」
「ブムウウゥゥドオオォォカアアァァ!」
戦闘開始から40分ほど経ったところだろうか?
牛ドラゴンに与えた灼熱のスタック値からの計算だが、そう間違ってはいないだろう。
なお、牛ドラゴンには自然回復能力を大幅に高める技もあったようで、途中、1秒間に1,000以上のペースで灼熱のスタック値が減った時は、頬が引きつるかと思った。
「ぐっ……悪臭は……問題なし」
また、戦闘開始時に放った熱波と異臭を撒き散らす攻撃も、牛ドラゴンも戦闘開始時だけの行動ではなかったようで、何度か放たれている。
この攻撃はダメージはなく、灼熱の付与もなんとかはなるのだが、回避が不可能であるため、悪臭のスタック値が増えるのを止められず、そういう面で厄介なのだ。
タイミングによっては強制的に吐かされて、その間に次が来てしまう。
「デスロオオォォル!」
「ブミャウッ!?」
「ぴゃあああぁぁぁっ!?」
「アレももう何度目かしらね……」
と、牛ドラゴンの首に噛みつき、素早く回転する事でダメージを与えたクカタチが、牛ドラゴンの体内から噴出した溶岩によって吹き飛ばされる。
クカタチももう何度吹き飛ばされたのか、今では空中で姿勢を整え、難なく着地し、即座に牛ドラゴンの方へ戻ってはまた吹き飛ばされるまで攻撃すると言うシャトルランを難なく繰り返せるようになっている。
「まあいいわ。40分経ったなら、『呪法・感染蔓』がまた使える」
「ブモオオォォカアアァァドラアアァァ!」
牛ドラゴンの次の行動は尻尾の叩きつけからの溶岩柱と雨か。
だいぶHPが削れてきたからなのか、牛ドラゴンの行動のペースはかなり速くなってきており、使う攻撃の種類にもよるが、一つ前か二つ前の攻撃の影響が残っている間に次の攻撃を仕掛けてくるようになっている。
おかげで気を抜ける時間は殆どなくなっている。
「ブリュウウゥゥ……」
「む……」
「わわわっ」
溶岩の雨が降り注ぐ中で牛ドラゴンがこれまでにない動作を始めた。
前足を振り上げるだけでなく、頭と尻尾も背中の方へ反るようにし、仮に真横から見ることが出来れば、円形を描いているように見える形になったのだ。
そして、牛ドラゴンの頭の太陽はひと際大きく輝き、背中に頭の太陽よりもさらに大きい太陽が形成されたのだ。
私は直感する。
これが牛ドラゴンの最大の攻撃であり、対処に失敗すれば確定で死亡する攻撃である、と。
「まずは接近!」
その証拠に牛ドラゴンの太陽からは少しずつ光球が周囲に放たれており、闘技場の端はまだ火球に変化していないにも関わらず、既に壁の方が少ないような状況になっているのだから。
で、これまでの戦闘経験から、振り上げている前足が振り下ろされれば、衝撃波によって私は闘技場の端……火球で埋め尽くされた空間に叩きこまれるに違いない。
実際、『死退灰帰』をそれで一度使わされている。
他にも溶岩の柱と雨が生じるだろうし、頭が赤く光っている点から溶岩の海も形成されるだろう、いや、単純な頭突きだけでも危険な事になるだろう。
つまり、結論は変わらず、この攻撃は絶対に防がなければいけない。
ではどうやって防ぐのか?
「宣言する。私の炎でアンタをスっ転ばせてやるわ。牛ドラゴン」
「ドオオォォラアアァァ……」
幸いと言うか、即死確定に近い大技であるためなのか、牛ドラゴンの動きは非常にスローモーであり、私は難なく牛ドラゴンの足元に接近することが出来た。
「ezeerf、ezeerf、dloc、yllihc、eci、reicalg、wons、drazzilb、orez etulosba……『灼熱の邪眼・2』!」
そして、戦闘開始の頃に放ったものに似た、けれど『呪法・感染蔓』の効果範囲を牛ドラゴンの片足に絞り、『呪法・貫通槍』ではなく『呪法・増幅剣』を使った『灼熱の邪眼・2』を叩き込む。
「ゴミャアッ!?」
結果、攻撃範囲を絞ったことによって爆発のような燃焼が発生。
牛ドラゴンの足がほんの僅かにだが浮き上がり、蹄の内側に隠れた太い根が見えた。
だがそれだけだ。
撃破どころか、倒すにも威力が足りていない。
しかし、私には追撃手段も回避手段もない。
これは詰んだかと思った。
「せりゃああぁぁっ!」
「クカタチ!?」
「ブカウッ!?」
そう思った私の横を通り抜ける形でクカタチが駆けていく。
そして、高速かつ低空のタックルによって、牛ドラゴンの浮いた方の足の根を断ち切り、もう片方の足に傾きを後押しするような衝撃が与えられた。
「ブモッ、モウッ、カウッ!?」
それによって牛ドラゴンの体は戻せない角度に至ったようだ。
ゆっくりと牛ドラゴンの体は倒れていき……
「ーーーーー!」
「!?」
「わわっ!?」
轟音、爆発、閃光、衝撃、熱、再びの衝撃。
意識が遠のき、HPが削れて行って、残り1割を切る。
「ぐっ……」
「あたた……」
そして気が付けば自分の攻撃が暴発したらしい牛ドラゴンの巨体はバラバラになって静かに横たわり、『風化の呪詛』によって少しずつ分解されて行っているようだった。
とりあえずゾンビ化して復活しないように呪詛支配はしておく。
「勝った……んですよね?」
「恐らくはね」
私は油断なく周囲を警戒しつつ、クカタチにそう返す。
「あ、『竜狩りの呪人』の称号が来ました。後、変な呪いの追加も」
「そう。だったら勝利は確定ね」
どうやら勝利はしたようだった。




