625:タルウィスコド・3-3
「とりあえず接近します!」
「分かったわ!」
とにもかくにも戦闘そのものは始まってしまった。
接近しなければ相手にマトモに攻撃できないクカタチは四足獣の姿を取ると、牛ドラゴンに向かって真っ直ぐに向かって行く。
対する私は自分にかかっている状態異常をまずは確認。
かかっているのは……悪臭(10)と灼熱(1)、灼熱については増えたり減ったりを繰り返しているので、耐性で防げている範囲。
高温の環境によるダメージは現状ではなし。
「動きは見えない……etoditna『毒の邪眼・3』」
「……」
まずはダメージ源として呪詛の槍を飛ばし、毒を付与してみる。
咆哮を上げて以降、身動きを取る様子が見られない牛ドラゴンに入った毒のスタック値は……1,927。
使っていない呪法も多いが、『呪法・貫通槍』込みでこれとなると、毒耐性はかなり高そうか。
「せいっ!」
「……」
牛ドラゴンに十分接近したクカタチが短剣で脚を切りつける。
だがこちらにも無反応。
サイズがサイズなだけに、皮膚が恐ろしく分厚いとかだろうか?
「ブムゥドォ」
「ん?」
「へ?」
牛ドラゴンが短く鳴いた。
そして、牛ドラゴンの胴体が赤く輝き始め、輝きは首を通って口の方へと向かって行く。
私はその動きに身構え、クカタチは牛ドラゴンの巨体ならばと判断したのか、足にしがみ付き、胴体に向かって登り始める。
「ブ……」
「せいっ!」
輝きが牛ドラゴンの頭に達し、口から何かを吐き出そうとした。
私はその直前に『気絶の邪眼・3』を放つ。
「モモモモモモモオオオオオオオオォォォォォォォ!!」
「またそう言うのなの!?」
「うわぁ……」
が、牛ドラゴンはその巨体故にか気絶の効果はほぼ無かったようで、口から光輝くものを吐き出し始める。
その姿にヒトテシャの素材を使ったのは失敗だったかと私は一瞬思い……直ぐにそんな余裕はなくなった。
「溶岩!?」
「うえっ!?」
牛ドラゴンが吐き出したのは溶岩だった。
それは真っ直ぐ私の方へと向かって来て、私は慌てて溶岩を避けた。
そして地面に付いた溶岩は冷えて固まる事も、闘技場の地面に吸い込まれることもなく、溶岩の海を牛ドラゴンの足元に形成し、広がっていき、闘技場の四分の一程度を高温を保ったまま埋め尽くした。
空を飛ぶことでだいぶ距離を保っているにも関わらず、私に灼熱の状態異常と環境によるダメージが入っている事を考えると、この溶岩の海に飲み込まれれば、私程度の火炎属性耐性ではどうにもならないだろう。
「つまり、こいつは溶岩を吐くドラゴンなのね」
「うえっ!? なにこれ!?」
私が牛ドラゴンの性質を考えている間に、クカタチは牛ドラゴンの背中に到達していたらしい。
よく見れば僅かに……いや、サイズ比がおかしいだけで一般的なサイズなら十分な大きさを持って生えている翼の辺りで、攻撃をしていた。
だが直ぐに驚きの声を上げた。
「何があったの?」
「タルさん! 攻撃しても攻撃してもすぐに傷跡が無くなっていきます! それも回復していく感じに!」
「ああなるほど……」
クカタチの報告に私は自分の口の端が引きつるのを感じる。
つまり、牛ドラゴンはその巨体に相応しい量のHPを持っているにも関わらず、かなりの自然回復能力を持っていると。
たぶん、植物部分の光合成能力とか、そんな感じのものだ。
で、これまでに私とクカタチがやった攻撃はほぼ無意味で、だから反応が薄かったと。
「つまり、まず第一に入れるべきは灼熱の状態異常って事ね」
となれば、牛ドラゴンの撃破には灼熱の状態異常による回復の阻止が必須。
まあ、これまでの第三位階の試練を思えば、そう妙な話でもないか。
「クカタチ! 回復はこっちが抑えるわ! そっちは急所を探してみて!」
「分かりましたー!」
「ブ……」
クカタチが虱潰しに近い形で攻撃を始める。
幸いにして、全身スライムのクカタチならば、牛ドラゴンの体に張り付くことで、何処でも攻撃する事が出来るはずだし、不安定な場所でも落下してマグマダイヴするのは避けられるだろう。
「宣言す……まずっ」
「モ……」
「キャアッ!?」
なので私も自分の役目を果たそうとしたが……牛ドラゴンが尻尾を振り上げているのを見て、攻撃を中止。
その場からの移動を開始する。
クカタチもその場に張り付くことを優先した。
「ウウウゥゥゥ!」
「「!?」」
尾が振り下ろされた。
地面に当たり、衝撃波が撒き散らされ、地面の複数箇所から溶岩の柱が勢いよく立ち昇って、溶岩の雨が柱の周囲で降り注ぎ続けるようになる。
同時に最初に生じた溶岩の海は消えてなくなっているが、そんなのがどうでもよくなるほどに溶岩の雨の密度が濃い。
おまけに体が燃えかねない程に大気も熱くなっている。
「はぁはぁ……環境変異特化のカース、という認識の方が近いのかしらね。相手のサイズも敵と言うよりは環境そのものという感じだし」
それでも私は何とか安全圏にまで逃げる事に成功。
多少のダメージと、300を超える灼熱の状態異常だけで済ませた。
いや、いつの間にか悪臭の方もスタック値が30を超えているか。
とにかく今の攻撃からは生き延びた、牛ドラゴンの攻撃間隔はかなり長めなようなので、これでしばらくは大丈夫だろう。
クカタチも……大丈夫そうか、背中に張り付いている。
「さあ、まずは必要な状態異常を入れましょうか」
私は『灼熱の邪眼・2』を撃ち込むための体勢に入った。
08/15誤字訂正




