622:4thナイトメアアフター-2
「んー、久しぶりの『ダマーヴァンド』ね」
「本当は一日も経っていないんでチュけどね」
「主観的には五日経っているから久しぶりよ。ハオマ、イベント中の食事ありがとう」
「ーーー……」
イベントとメンテナンスは無事に終わり、私たちは『ダマーヴァンド』に戻ってきた。
とりあえずハオマに適度な量の呪詛をあげて、イベント中の労をねぎらっておく。
「さて確認ね」
「でチュね」
では、イベント中に『石化の邪眼・2』『淀縛の邪眼・2』『深淵の邪眼・3』『気絶の邪眼・3』の強化をしたことによる影響が『虹霓鏡宮の呪界』以外で出ていないか確認していこう。
特に『熱樹渇泥の呪界』の飢渇の泥呪の海の中はよく確認しておく。
『石化の邪眼・2』獲得の影響で造石の宿借呪に似たカースが出現している可能性があるからだ。
「ふむ。現状では見慣れぬ物は発生してないようね」
「みたいでチュねぇ」
と言う訳で一通り見て回ってみたのだが、現状では『虹霓竜瞳の不老不死呪』の毒杯に付いている宝石が増えた事を除けば、特に邪眼強化の影響は出ていないようだ。
まあ、造石の宿借呪の生態的に私の目が届かなかった場所で群生地を築き始めており、今はまだその影響が出ていないだけ、という可能性は否定できないのだが。
『CNP』内の時間で言っても、一日もまだ経っていないはずだし。
「じゃ、熱拍の樹呪の果実を回収したら戻りましょうか」
「分かったでチュ」
と言う訳で、私たちは熱拍の樹呪の果実を回収すると、荒れ始めた『熱樹渇泥の呪界』を後にして、私個人のエリアに戻る。
「で、早速『灼熱の邪眼・2』の強化でチュか?」
「その前にエリアの整備ね。明日以降の為に、色々と弄らないと」
熱拍の樹呪の果実を回収した私は、第五階層……『ダマーヴァンド』内に存在している私の工房で、久しぶりに『ダマーヴァンド』の構造を弄る。
つまり、これまで私専用だった第五階層を私が許可したプレイヤー限定で侵入可能にし、第四階層と第五階層の間を空を通れなくても移動出来るようにする。
マントデアが行き来できるように天井と横幅も広げて、仮称アジ・ダハーカの縦穴に可能な限り接触しなくても『虹霓鏡宮の呪界』に入れるようにした。
「あ、メッセージでチュよ。たるうぃ。まんとであからでチュ」
「何かしら?」
「えーと……」
と、ここでマントデアからメッセージが。
内容はイベント中に私の『気絶の邪眼・3』獲得を手伝った対価としてもらった素材について。
素材の名称は虎絶の竜呪の鱗や襟巻など。
通常のものよりも多少上質であるらしい。
ほぼ間違いなく、『気絶の邪眼・3』習得によって入れるようになった鏡宮に出現するカースの素材だろう。
と、此処までならいい話なのだが……。
「加工が出来ないか。まあ、分からなくもないわね」
「レベル不足、鑑定出来ない、迂闊に呪詛濃度が低い空間に出すと消滅する。三重苦みたいなものでチュからねぇ」
残念ながらマントデアとマントデアが管理者であるダンジョン『ガルフピッゲン』と、そこに所属するプレイヤーたちでは虎絶の竜呪の素材は扱いきれないらしい。
まあ、鼠毒の竜呪と同じで、推奨レベル40、異形度19以下のプレイヤーが鑑定した際のペナルティ持ち、周囲の呪詛濃度が15以下だと消滅する、という特性を持っている上に、竜呪の素材なのだ、そう簡単に扱えるわけがない。
「それでマントデアたちはどうしたいの?」
特に厳しいのが周囲の呪詛濃度制限だろうか。
現状の呪詛濃度過多対策で最も広く使われているのは、周囲の呪詛濃度を自分の異形度に適した濃度にまで下げる方法であるが、異形度15以下のプレイヤーがこの方法を使ってしまうと素材が消滅してしまう可能性があるのだから。
つまり、呪詛濃度過多を受け入れるか、呪詛濃度過多を別の方法で耐える手段を模索する事を求められるのだ。
うん、いきなりやれと言われても、無理に決まっている。
「んー、たるうぃの手を何かしらの形で借りるか、『熱樹渇泥の呪界』の隅で加工する事を許してほしいそうでチュ」
「つい先ほど、『熱樹渇泥の呪界』は三日ほど立ち入り厳禁になったのよねぇ……」
「実に間が悪いでチュよねぇ……」
さて、マントデアの返事はどうしようか?
まあ、一番簡単なのは、第五階層を利用してもらう事か。
私が工房にしている影響で、ここも呪詛濃度は20以上あるから、此処で作業すれば、素材が消滅する事はないだろう。
というわけで、マントデア本人には『虹霓鏡宮の呪界』攻略を手伝ってもらいつつ、お抱えの職人には此処で作業する事を提案しておこう。
「さて、こんな物かしらね?」
「でチュかね」
「ーーー……」
「心配しなくても此処に立ち入る事を許した私の知り合いなら、攻撃されなければ、貴方に仕掛けたりはしないわよ」
はい、とりあえずの作業完了。
これで第五階層に外からプレイヤーが入ってこれるようになった。
許可を出すのは……まずはザリア、マントデア、ストラスさん、I'mBoxさん、スクナ、クカタチ、レライエ、ライトリカブト……結構多いわね。
同伴者については、許可を出した人たちがやって来た時に、許可を出した人と一緒に通る事を前提にした形で許可を出せばいいか。
あ、契約が必要なのね。
じゃあ、明日リアルでザリアに相談しよう。
「じゃ、『灼熱の邪眼・2』の強化に移りましょうか」
「でチュねー」
では、『灼熱の邪眼・2』を強化するための料理を作ろう。