617:4thナイトメア5thデイ・タルウィスタン・3-4
「サンダーブレスなら想定内……っ!?」
「ダイガァ!」
口から雷ブレスを放った虎ティラノが帯電状態のまま、こちらに向かってくる。
だが、その軌道は直線ではなく、稲妻のように折れ曲がったものであり、その速さは目にも留まらぬものではないが、並外れて速いものだった。
「ドラアアァァッ!」
「回避っ!」
そして、三歩のステップで私に近づいて来た虎ティラノは私にタックルを仕掛ける。
私は咄嗟に地面を蹴り、その後を考えない前方への飛び込みと言う回避によって、寸でのところでタックルを避けた。
「おらあっ!」
そのタイミングでマントデアが虎ティラノに向かって武器である棒を振り下ろす。
「ダイ……」
「んなっ!?」
「ガァ!」
「うおっ!?」
だが虎ティラノは俊敏なバックステップでマントデアの一撃を避けると、避けた軌道を逆になぞりつつ前足を振るい、マントデアの巨体を何ともないかのように吹き飛ばす。
「ダダイガァ!」
「へぶっ!?」
攻撃はそれで終わらず、虎ティラノはサイドステップで私に接近し、そこで一回転して、尻尾を体勢を立て直す途中だった私の腹へと叩きつけ、吹き飛ばす。
どうしてか既に帯電状態は終わっていたが、それでも私は半分以上のHPを失う事になっていた。
「はぁはぁ……これ、俺抜きだったらどうなってたんだ? 今の一発でHPが一割は持っていかれたんだが……」
「マントデアの一割って、普通のプレイヤーなら即死ラインじゃない……それはそれとして、マントデア抜きなら、それに合わせた調整がされただけじゃない? つまり、気にする必要はないわ」
「そうかい……ああそうだ。虎ティラノは帯電が終わって、待ちの姿勢だ」
私はマントデアの背後に移動。
虎ティラノの視界に入らないようにすると、フェアリースケルズを使って、最低限必要であろうHPを確保していく。
虎ティラノは……マントデア曰く待ちの姿勢、こちらを気絶させて引き寄せるモードに入ったと見ていいのだろう。
「相手は二形態持ち。今の待ちと気絶引き寄せ状態と、それを破られた後に少しの時間だけ入る帯電しつつ暴れる状態。たぶんだけど、普通の攻撃が入るのは暴れる状態だけね」
「だろうな。尤も、その暴れ状態にしても、生半可な精度と速さの攻撃は入らない移動速度な訳だが」
「そこはまあ、私の邪眼術とマントデアの先呪の使いどころでしょ」
「それもそうか」
マントデアの体がゆっくりと横に移動していくので、私もそれに合わせてゆっくりと横に動く。
恐らくだが、虎ティラノが私の事を視界に収めるべく、マントデアを中心とした円周に沿って、ゆっくりと動いているのだろう。
「宣言する。虎ティラノ、次の早撃ち勝負と行きましょうか。また私が勝たせてもらうけど」
「ダイガァ……」
「宣言と言うか、挑発を含んでないか、今の」
私は呪法込みで『気絶の邪眼・2』の準備を開始。
ただ、『気絶の邪眼・2』を使う目は一つだけで、他の目は竜呪相手でも通せるはずの『毒の邪眼・3』と『深淵の邪眼・3』を構えておく。
「まあいい。行くぞ!」
マントデアが動き出し、私と虎ティラノ、両者の視界に相手の姿が収まる。
見えた虎ティラノは既に襟巻を光らせており、何時でもこちらを気絶させられる状態だった。
「っ!」
「ー!?」
だがそれでも私が一瞬早かった。
『気絶の邪眼・2』のエフェクトと共に虎ティラノの全身が硬直する。
「追撃!」
「おらぁっ!」
「ダガアッ!?」
私の『毒の邪眼・3』と『深淵の邪眼・3』が発動、毒(215)と恐怖(234)を入れる。
同時にマントデアの攻撃が直撃し、たたらを踏ませる。
「もう一発……」
「ダイガアッ!」
マントデアは更に攻撃を加えようとする。
だがその前に虎ティラノは自分の周囲に放電し、マントデアを近づけさせない。
「ダイガアッ!」
「来るかっ!」
「『灼熱の呪い』!」
その放電中に虎ティラノは小刻みなステップを開始し……マントデアに向かって稲妻のような動きでの移動を始める。
私は『熱波の呪い』によって攻撃判定を持つようになった呪詛を鎖や剣の形にして虎ティラノの動きを抑えようとするが、虎ティラノの動きは一切緩む事無く、ダメージも微かにしか与えられない。
そして虎ティラノはマントデアの眼前に迫り、前足が振り上げられ……
「コウコウライライ!」
「!?」
マントデアの電気を纏った拳が、振られ始めたばかりだった虎ティラノの前足を捉え、弾き、虎ティラノの全身を紫電が包み込んで焼いていく。
「ドラァ……」
「知ってたが効果薄い!」
「でしょうね! etoditna『毒の邪眼・3』!」
が、マントデアの切り札、鼠毒の竜呪をほぼ即死させる攻撃であっても、見るからに同じ電撃属性である虎ティラノ相手ではほぼ効果がなかったようだ。
怯ませる以上のことは出来ていないように見える。
だからこそ私はCTを貯め終えると同時に『毒の邪眼・3』を発動。
今度は『呪法・逆残心』以外の乗せられる呪法を乗せ、12の目で撃ち込む。
深緑色の蔓が虎ティラノの全身を覆い、与えた毒は……先ほどのに合わせて10万にギリギリ届かない程度か。
「ぐっ……感染蔓が蔓延するのを待つのですら命がけね……」
「こんなにキツイ12秒は初めてだ……」
「ドラガアアアァァァァッ!!」
そしてこの『呪法・感染蔓』が虎ティラノの全身を対象に効果を発揮する12秒間。
虎ティラノは蔓を振り払おうとするように暴れ回り、雷ブレスを吐き、放電を繰り返しつつ、闘技場全体を走り回り、私とマントデアの二人に出来る事は逃げ回る事だけだった。
私は必死にマントデアの体にしがみ付き、マントデアはしがみ付く私の事など気にしてないようなレベルで激しく動かなければ、命がないような猛攻だった。
私のHPもマントデアのHPも削られて行き、二人とも残り一割を切るような状態だった。
「ダイガアアァァッ……」
だが、そうして暴れ回ったことによって、虎ティラノの全身に毒が回ったのだろう。
暴れ終わり、再び待ちの姿勢に入った虎ティラノの体は見るからにふらついていた。
「最後の一勝負ってところか?」
「ええそうね。けれど油断は出来ないわ」
しかし、虎ティラノの目は死んでいない。
私を殺せば自分の勝ちであると知っているのだろう。
襟巻をゆっくりと光らせ始めている。
ならば、私も逃げるのではなく、挑むべきだろう。
「宣言する。さあ、早撃ち勝負よ。虎ティラノ」
「おうっ」
「ダイガァ……」
襟巻が完全に光らなければ、呪法込みでも『気絶の邪眼・2』は恐らく通らない。
だから私は右手を前に伸ばし、その時を待つ。
「ダッ……」
「ふんっ!」
私は『気絶の邪眼・2』を撃った。
虎ティラノは……平然としていた。
襟巻は完全に光る直前で止められていた。
フェイントだ。
「イ……」
虎ティラノの襟巻が改めて光り、目が輝こうとしている。
「あはっ」
だから私は笑った。
フェイント程度は想定済みだと言う思いを込めて。
一発目を撃ち込む直前にチャージを開始し、一発目の起動トリガーを動作キーで引いた時にはまだチャージが終わっていなくて発動していなかった『気絶の邪眼・2』を、虎ティラノに見えないように背中側に回していた左手で動作キーを引き、発動。
「ガアッ!?」
虎ティラノ目が光るよりも一瞬早く、私の二発目の『気絶の邪眼・2』が発動、虎ティラノの全身を硬直させる。
「トドメだ」
「ーーー……」
そうして動きが止まった虎ティラノの頭部にマントデアの武器が振り下ろされ、その頭部は粉砕された。