614:4thナイトメア5thデイ・タルウィスタン・3-1
「えーと、材料はっと」
私は『気絶の邪眼・2』の強化をするための素材を並べていく。
具体的に言えば、迅雷の剣虎呪の眼球、黒穴の磯巾着呪の目玉、帯電の混虫呪の眼球、割込の灌木呪の葉、垂れ肉華シダの膨葉、『ダマーヴァンド』の毒液、乾電の鰻呪の骨だ。
なお、後ろ三つはヒトテシャの素材回収後に、『官僚の乱雑な倉庫』にて一人で集めたものである。
他にも幾つか調整用の香草も集めているが、メインはこれらだ。
なお、黒穴の磯巾着呪の目玉を使うのは、目玉繋がりで相性がいいと判断したためである。
「目玉だらけでチュねぇ……これ、料理になるんでチュか?」
「たぶん、料理にはならないわね。この感じだと……目薬じゃないかしら?」
「なんやて!?」
「料理じゃない……だと……」
何故かゼンゼとマントデアがこの世の終わりのような顔を浮かべているが、私はそれを無視して作業を開始する。
と言っても、作るのが料理ではなく薬である以上、手順はかなり簡単だ。
「いや、目玉だらけの料理が最後の料理にならなかったと思えば助かったのか? だがタルの料理ならなぁ……」
「どうなんやろなぁ……てか、ウチはイベント終了後に普段の残念な携帯食に戻って耐えられるんやろうか……」
「二人とも胃袋を掴まれ過ぎじゃないでチュかね……」
まずは保持する呪いを保ったまま、毒液と骨以外の素材を細かく刻んでいく。
次に刻んだそれらを毒液に投入して、加熱。
ドロリとした液体になるまで煮つつ、呪詛支配と『七つの大呪』を活用して、有用な呪いだけを残していく。
「骨を削ってと」
「そしてたるうぃはガン無視でチュか」
「最後の夕飯なら、適当なカース食材を呪詛抜きして作った焼きものがあるから、それを食べればいいじゃない」
「あ、ほんまや。うわ、これ、鰻やないか……」
「何時の間に……いや、本当に何時の間に……」
毒液を煮詰めている間に、乾電の鰻呪の骨を加工。
中を空洞にすると共に、外側を適当な素材でコーティングして、中に入れた液体が漏れ出ないようにする。
「はい、投入っと」
そうして十分煮詰まった毒液を骨の容器へ投入。
栓をして……そこで容器が一度放電、レモン色のトラペゾヘドロン型の容器になった。
まあ、問題はないので、後は呪怨台で呪うだけっと。
「あ、逃げておいた方がええな」
「だな」
「まあ、好きにすればいいんじゃない」
では、乾電の鰻呪の肉に涎を垂らしそうになっていたゼンゼとマントデアが生産用エリアの外に出たので、レモン色のトラペゾヘドロンを呪怨台に乗せるとしよう。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
いつものように赤と黒と紫の呪詛の霧が呪怨台へと集まっていく。
その呪詛の霧への干渉もまたいつも通りだ。
「得るを望むは、目にも留まらぬ速さで放たれる雷。虚を生み、刹那の停滞をもたらす稲妻。虚空に座して手招く閃光。あらゆる事象に割り込まんとするもの。その全てを含む輝きである」
呪詛の霧がレモン色に変化し、立体的な幾何学模様が呪怨台を中心として展開されていく。
同時に幾条もの閃光……否、放電現象が発生し、空気が弾ける音を響かせる。
「私の気絶をもたらす鮮やかなる黄の目よ。深智得るために正しく啓け」
展開された幾何学模様が集束、レモン色の結晶体に変化し、それを何度も繰り返して、結晶体による幾何学模様が構築されていく。
そうして、百を超える数の結晶体によって巨大な幾何学模様が描かれたところで、放電現象は止み、結晶体の出現も止まる。
「望む力を得るために私は稲妻を目に注ぐ。我が身を以って与える雷を知り、空白なく見届け、切り裂いて、己の力とする」
そこからの変化は殆ど一瞬の事。
気が付けば結晶体は呪詛の霧と共に呪怨台の中心に向かって飲み込まれ、後にはレモン色のトラペゾヘドロンの容器の周囲に、僅かな量の呪詛の霧が残されるだけとなっていた。
だが直感的に分かる。
まだ、呪怨台で呪う作業は終わっていない。
「ekawa『気絶の邪眼・2』」
直感は正しかった。
『気絶の邪眼・2』を撃ち込んだ瞬間、一瞬だけ大量の呪詛の霧が容器から放出され、次の瞬間には呪詛の霧の欠片も容器の外に出ていない状態になったのだから。
「鑑定ね」
「でチュね」
では、いつものように鑑定から。
△△△△△
呪術『気絶の邪眼・3』の目薬
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:21
呪われた液体が詰まった容器。
覚悟が出来たならば、13の目に注ぐといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
刹那の見極めを十全に行使する事を前提として、門は聳えているのだから。
さあ、貴様の力を私に見せつけてみよ。
▽▽▽▽▽
「ふむふむ。戦闘準備は……問題ないわね」
「ざりちゅ含めて、武器も防具も万全でチュよ。まあ、前回のように今回もざりちゅは呼ばれないかもでチュが」
「普通にあり得るのが怖いところね」
戦闘準備は問題なし。
ザリチュ無しだったら……まあ、その時はその時だ。
「お、出来たみたいだな。応援してるぞ、タル。」
「頑張ってなぁタルはん。ウチらは鰻を食いながら、タルはん専用チャンネルでじっくり鑑賞させてもらってるわ」
マントデアとゼンゼも帰ってきた。
二人とも完全に観戦コースである。
「じゃ、挑みましょうか」
「でチュね」
そうして私は化身ゴーレムの手も借りて、全身にある13の目に目薬を差していく。
で、最後に鎖骨の間にある目に目薬を注いだ時だった。
「やっぱりでチュかぁ」
「まあ、頑張ってくるわ」
私の頭の上のザリチュは回収、足元には大穴が開いて、私は落ちて行く。
ただ落ちて行く際にマントデアの眼前に見慣れないウィンドウが出現しているのがやけに気になった。