613:4thナイトメア5thデイ-7
「いやぁ、いい経験だった。楽しかったぞ。タル」
「こちらこそ助かったわ。ヒトテシャの素材がどうしても欲しかったから」
さて、現在私が居るのは『官僚の乱雑な倉庫』の前であり、スクナたちと一緒に居る。
で、何をやったのかと言えば……。
「ドラゴン強い……でも、経験値美味い……」
「あんな苦戦したヒトテシャがあっさりと……」
私が目的とする素材を呼び出せるスクナに同行して、劣化ヒトテシャを討伐。
その後に対価として鼠毒の竜呪と戦いたいと言うスクナの要望を叶えたのである。
なお、『官僚の乱雑な倉庫』は他チームのプレイヤーが入ってこれないと言う制限だが、どうやらオーナーとなるチームが許可をして、倉庫内ではオーナーに対して不利益な行動をしないと言う契約を結ぶことによって、一時的に解除出来るらしい。
発見したのは検証班と交渉を専門とするプレイヤー数名の組み合わせらしいが、よくぞ見つけ出したものである。
と言うか、そう言う交渉が出来る辺り、この設備にも何かしらの偽神呪が関わっているのではないだろうか?
確認したくても、確認なんて出来ないが。
「じゃ、私は失礼させてもらうわね」
「竜呪の素材については予定通りで頼む」
「言われなくても」
ちなみにスクナが倒した鼠毒の竜呪の素材だが、私が預かり、呪詛濃度維持の宝箱に収めて、次回のイベントの賞品として大部分は回す事となった。
これは鼠毒の竜呪の素材は周囲の空間の呪詛濃度15以下だと消滅してしまうためだ。
今の私にとっては何という事の無い呪詛濃度15の維持だが、一般プレイヤーにとってはそうではないのである。
「これでよし」
と言う訳で、生産用エリアに戻った私は事前の取り決め通りに、鼠毒の竜呪の死体を加工。
鼠毒の竜呪の翼と爪を一つずつだけ加工費として手に入れ、他の素材は何かしらの樹呪の素材で作った宝箱の中に収納。
箱ごと呪って、周囲と中の呪詛濃度を18に保つ素材ボックスとした。
スクナたちが回収できるかは不明だが、そこはスクナたち次第である。
「さて次ね」
「あ、タルはん戻ってたんやな」
「お、タル。戻ってきてたか」
「ただいまでチュよ」
「お帰りなさい。ゼンゼ、マントデア」
「ざりちゅには無いんでチュか?」
「ザリチュの本体は私の頭の上にずっと居るじゃない。お帰りも何もないわよ」
「まあ、そうでチュよね」
では、次の作業。
ザリチュが作り上げた素材に組み込む心臓を作ってみよう。
「運営。見ているはずだから言うけど、これから作業終了までは放送なしでお願いするわよ」
「メッセージが来たでチュね。放送中断したそうでチュよ」
「ま、当然やねぇ。じゃあ、ウチも作るわ」
「俺もまあ、拙いなりに電源くらいは作るか」
「じゃあ、ざりちゅが全体の調整をするでチュ」
放送が止まったところで、ゼンゼとマントデアの二人も作業を始める。
ゼンゼは仕込み武器の類……ばね仕掛けの矢や飛び出す刃だけでなく、毒薬の噴霧器や使い捨ての身代わり機構を作っているようだ。
あ、黒穴の磯巾着呪の斬撃用の触手と鼠毒の竜呪の爪も渡しておこう。
マントデアは全身に帯電したり、各種機構を動かす動力にも使えそうな電源の作成。
上手くいけば、緊急時の再起動とかも出来るかもしれない。
ザリチュは本人も言ったとおりに全身の調整。
内側で削れるところを削ったり、パーツ同士を繋げたりといった感じだ。
「で、たるうぃはどんな物を心臓部にするんでチュ?」
「んー……疑似太陽のような物かしらね? 色々と引き寄せて焼いて、エネルギーに変える感じかしら」
「えぐい事になる予感がするわぁ」
「そんなの今更だろうよ」
私が心臓の作成。
素材は色々と使うが……
『焼捨の牛呪』ヒトテシャ・ウノフの胃と言う食べた物を焼き払い、呪詛を抽出する事でエネルギーを得る素材。
黒穴の磯巾着呪の心臓と言うあらゆるものを吸い込んで圧縮、破壊し、必要ならばビームとしてエネルギーの射出も行える素材。
この二つをメインとして、帯電の混虫呪の素材での反発防止、鼠毒の竜呪の翼による呪詛集めの促進、垂れ肉華シダによる効率的な呪詛からエネルギーへの変換を行える素材、当座のエネルギー源としての満腹の竜豆呪、他パーツとの組み合わせの為に共鳴の茸呪、暴走する人呪だったものの岩肌なども混ぜていく。
で、見た目としてはシダ植物の葉が表面に茂った球体を作り上げる。
「さて、とりあえずはこれ単体で呪いましょうか」
私は球体を呪怨台に乗せる。
そして、『七つの大呪』全てを活性化させ、ザリチュの作り上げた素体と合わせる事で、真価を発揮するように念を込めていく。
「htaed tnatsni ro erutrot degnolorp」
でまあ、これだけだとたぶんまだ足りないだろう。
と言う訳で、呪怨台へと顔を近づけた私はゼンゼとマントデアの二人に聞こえないように呟いた。
「よし、出来上がったわね」
そうして普段の数倍の呪いを吸い込んで、呪怨台の上にはシダ植物の葉を何重にも巻き付けたようにも見える球体が残された。
では一応、こっそりと鑑定。
△△△△△
呪喰の心臓呪
レベル:45
耐久度:255/255
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:25
『htaed tnatsni ro erutrot degnolorp』とシダの葉の下に刻まれている球体。
『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルが作り上げた周囲にある呪いを集めて食らう呪いであり、ただその場にあるだけでも心が弱いものならば、耐えがたい責め苦と死に精神が襲われる事だろう。
だがその真価は『竜鱗渇鼠の騎帽呪』ザリチュが作り上げた肉体に搭載されることで発揮される。
では、作り上げた以上は『幸福な造命呪』を自らの手で起動させたまえ。
▽▽▽▽▽
「うん、問題なし」
「問題しかない気がするでチュよ。たるうぃ」
「守護者としては十分強力だから問題なしよ」
「まあ、それはそうなんでチュが」
そうして呪喰の心臓呪はザリチュが作り上げた巨人型キメラの内部へと納められた。
既にゼンゼとマントデアの仕込みも終わっている。
最後の起動は……私が『七つの大呪』の活性を改めて心臓呪に注ぎ込めばいい感じか。
「外から見える仕込みもなし。運営、もう放送再開していいわよ」
「ん? 視聴者に見せていいのか?」
「姿形が分かっていた方が警戒をして、無暗な手出しは控えるじゃない」
「せやなぁ。で、そっちの方が無駄な消耗は避けられるやろな」
「そういう事ね。ま、ザリアなんかには仕込む前を見られているんだし、今更よ」
まあ、起動は念のためにイベント終了直前にしておこう。
起動したら私たちにも襲い掛かるだろうし。
ゼンゼ辺りは自分の仕込んだ武器は自分には効かないくらいの仕掛けは施しているかもだが、身長10メートルの巨体と、それに見合った大きさの腕と鉤爪があれば、仕込みを使うまでもなくプレイヤーの数人くらいなら殺せる。
「さて、残り時間で私は最後の呪術の強化でもしましょうかね」
「俺も出来るだけ足掻いてみるか」
「頑張ってなー。ウチは掲示板漁りと目録作りに励ませてもらうわ」
では、イベントの残り時間もだいぶ少なくなってきたが、『気絶の邪眼・2』の強化を狙ってみるとしよう。