611:4thナイトメア5thデイ-5
「「アンネモオオォォネエェェ!」」
「タル、攻撃のサイクルを上げていくわよ!」
「言われなくても。etoditna『毒の邪眼・3』!」
岩のドームの崩落は近い。
そう判断したザリアは黒穴の磯巾着呪の下に戻ろうとする真っ白の女を追いかけるように、黒穴の磯巾着呪に向かって駆け、勢いそのままに攻撃を開始。
私はその場に留まり、乗せられる呪法を乗せた上で『毒の邪眼・3』を発動して、少しでもダメージを稼いでいく。
勿論、呪詛の剣による攻撃も間断なく続けていく。
「イッソォ!」
「ふんっ!」
「ギンチャアァッ!?」
と、ここで黒穴の磯巾着呪がまた触手による攻撃を……同じ軌道で二本の触手を連続して振るうと言う攻撃を仕掛けるが、ザリアは細剣といつの間にか持っていた短剣で見事に弾いた。
そして、反撃を仕掛けた。
ザリアの反撃は奇麗に決まり、黒穴の磯巾着呪にダメージを与える。
「……」
『どうしたでチュか? たるうぃ』
「いえ、だいたいの攻撃は割れたと思うのだけど……」
此処までで黒穴の磯巾着呪の戦闘能力はだいたい割れたと思う。
UI消失状態のおかげで真っ白の女と黒穴の磯巾着呪の連携は取れなくなっているし、状態異常も色々と乗せた。
加えてザリアが攻撃を弾いて防げるから、このままいけば倒せるとは思う。
思うのだが……まだ何かありそうな気がする。
「なんだあのイソギンチャク……」
「アレがさっきのビームの出元か……」
「よし、タルとザリアの邪魔にならない程度に仕掛けるぞ!」
声が聞こえた。
見れば、二つの大穴、二つの正規ルートから、何人かのプレイヤーが姿を現わしていた。
そして、レライエほどではないだろうが、遠距離攻撃に自信があるであろうプレイヤーはその場から、近接戦闘をする気のプレイヤーは黒穴の磯巾着呪に向かって駆け出す。
援軍自体はあってもいい。
黒穴の磯巾着呪の攻撃で一掃されるかもしれないが、それまでに何かしらは出来るはずだ。
「せいや!」
そうして、ザリアが攻撃を仕掛け、遠距離攻撃を仕掛けたプレイヤーの攻撃が届き、黒穴の磯巾着呪の目が怪しく光った時だった。
「ネッ」
「ごふうっ!?」
「なっ!?」
遠距離攻撃を仕掛けたプレイヤーがザリアの目の前に出現し、ザリアの細剣は黒穴の磯巾着呪ではなくプレイヤーの体を貫いていた。
「超遠距離からの攻撃は止めなさい! 黒穴の磯巾着呪の壁にされるわよ!」
「「「!?」」」
何が起きたのかは理解した。
恐らくだが、一定距離以上……恐らくは100メートル前後離れて、攻撃を仕掛けたプレイヤーに対するカウンターを黒穴の磯巾着呪は持っている。
そして、そのカウンターの内容は、攻撃を仕掛けたプレイヤーを自分の目の前に転移させるというものだ。
此処に来て、厄介なものを出してくれたものである。
「ネッネッネッ」
「なっ!?」
「ひえっ!?」
「んなっ!?」
残念ながら私の注意は間に合わなかった。
多くの遠距離攻撃は既に放たれており、命中する度に黒穴の磯巾着呪の目が光って、プレイヤーが目の前に転移される。
そして、多数のプレイヤーが集まってしまえばザリアは攻撃を仕掛けることが出来ず、私の『熱波の呪い』による牽制も密度を下げない訳にはいかなくなる。
「アネネネネネネッ!」
「「「ギャアアアアッ!?」」」
「これは酷い……」
「これで強化されたりしなければいいんだけど……」
結果。
黒穴の磯巾着呪は触手による連打を仕掛け、何人ものプレイヤーが粉砕されていく。
「アアアァァァァァァ……」
「吸い込まれ……」
「ニギャアアァッ!?」
「くわ、食われ……!?」
「「げっ」」
『うわっ、またでチュか』
それどころか、黒穴の磯巾着呪は再びの吸い込みを開始。
粉砕されたプレイヤーも粉砕されていないプレイヤーも飲み込まれていく。
私の気のせいでなければ、プレイヤーが吸い込まれる度に黒穴の磯巾着呪に溜まる呪詛の量が爆発的に増加しているように見えるので、相当ヤバい気がする。
「イッソォ!!」
「なんか白いのが来たぁ!?」
「ギャアッ!?」
「あーもう、一気に大混乱ね……」
「これ、次がヤバいわね……」
おまけに気が付けば真っ白の女がザリア以外の近接プレイヤーに襲い掛かっており、そこで倒されたプレイヤーも黒穴の磯巾着呪に吸い込まれていく。
此処まで来てしまうと……もはや、あっちを狙った方が生きる目はありそうか。
「モオオオォォォォォォネエエェェ……!」
「全員伏せなさい! ekawa『気絶の邪眼・2』」
私は黒穴の磯巾着呪がビームを発射する直前を狙って呪詛の槍を飛ばす。
そして、呪詛の槍が黒穴の磯巾着呪に重なった瞬間、『気絶の邪眼・2』を発動。
レモン色の輝きが私の目から放たれる。
「「「!?」」」
次の瞬間。
黒穴の磯巾着呪の口から放たれようとしたビームは、黒穴の磯巾着呪の制御を外れ、黒穴の磯巾着呪の体内で大爆発を起こした。
指向性を持たせれば分厚い岩の壁すら貫通するビームが、制御を失って爆発すればどうなるか?
それも、吸い込んだ物の影響で、これまでのビームよりも強化されたであろうビームがだ。
その結果が私の視界に映り込んでいく……余裕はなかった。
「くうっ……」
『痛い痛い痛い痛いんでチュけどぉ!?』
私は出来るだけ体の多くが岩の刃の隙間に潜り込むように身を伏せた。
それでもなお、体が浮き上がりそうになり、視界は閃光で埋め尽くされ、私の翅が吹き飛び、背中が焼け、HPが削れて行く。
「酷い目に……あったわ……」
「それは……私のセリフよ……タル……」
爆発が止んだ後、私のHPバーは1割も残っていなかった。
ザリアも各種防御用の装備品が全部消し飛んだ上に瀕死の状態なのだろう、全身ボロボロで血まみれである。
「青空が奇麗ねー」
「そうねー……」
そして岩山は……消し飛んでいた。
「とりあえず『埋葬の鎖』」
「後で素材の一部くらいは貰っていい?」
「勿論よ」
とりあえず僅かに残っていた黒穴の磯巾着呪の死体と真っ白の女の長刀は回収し、『愚帝の暗き庭』から私たちは脱出した。




