609:4thナイトメア5thデイ-3
「タル。思わず助けちゃったけど、問題はない?」
「問題ないし、助かったわ。特殊ポップかつノンアクの相手なんだけど、こっちの想像以上に強いから」
「アンネモオォネエェ……」
ザリアがこちらに近づいてくる。
黒穴の磯巾着呪は呪詛の剣を弾きつつ、その場で態勢をゆっくりと整えている。
ザリア以外のプレイヤーが援軍としてくる様子は……ないか。
まあ、ザリアのように飛び降りても大丈夫な備えを全員が出来ているとは思えないし、数が居ても悲惨な事にしかならない相手だろうから、問題はないか。
「ちなみにレベルや弱点は?」
「レベルは41。HPは読み取れず。私の鑑定だと弱点は乾燥のみ」
「じゃあ、火炎じゃなくて電撃。湿気よりも乾気かしらね」
私の近くにやってきたザリアは黒穴の磯巾着呪がどう動いてもいいように構えを取る。
黒穴の磯巾着呪は……呪詛の剣を弾いている触手の何本かが動きを止めて、その先端をこっちに向けた?
「ザリアっ!」
「っ!?」
「シーアッ!」
私は横に跳んだ。
ザリアも私とは逆方向に跳んだ。
黒穴の磯巾着呪から放たれた針状の物体は私たちが居た場所を通り抜け、壁面にぶつかり、ぶつかった場所を中心として黒い球体が発生、球体内のものを圧縮して破壊していく。
「ちょっ、タル!? 何あれ!? ブラックホール!?」
「そう言えば、こいつの名前、黒穴の磯巾着呪だったわねー……吸い込みだけじゃなかったか。etoditna『毒の邪眼・3』」
『完全消滅じゃないから、圧壊するだけで済みそうではあるでチュね』
幸いかは不明だが、球体が晴れた後には瓦礫が存在している。
なので、圧力に耐えられれば、即死はしないで済むだろう。
で、こんなやりとりをしている間に私は『毒の邪眼・3』を発動、黒穴の磯巾着呪に毒を与えるが……スタック値は200もない。
『呪法・貫通槍』ではなく『呪法・増幅剣』を使ったとは言え、殆ど入っていないも同然だ。
「くっ、接近戦は厳しいわね……」
「アネネネネネェ!」
ザリアが接近戦を試みるが、黒穴の磯巾着呪は触手を振り回す事で、ザリアの接近を許さない。
しかもよく見れば黒穴の磯巾着呪が振り回している触手は、黒い球体を発生させる針を生やした棘付きこん棒のような状態。
万が一あれに触れれば、どうなるかは考えるまでもないだろう。
「イッソォ!」
「ふんっ!」
「弾いた……」
『ザリアも割とこっち側でチュよねぇ』
と、ここで黒穴の磯巾着呪は触手を長く伸ばしつつ、大きくしならせ、私とザリアを横薙ぎでまとめて切り裂こうとした。
が、ザリアは呪詛を纏った細剣を振るい、触手をかち上げる事によって攻撃を弾いた。
すると、黒穴の磯巾着呪の攻撃がそういう性質を持っていたのか、ザリアの弾きにそういう効果があったのか、黒穴の磯巾着呪の攻撃は弾かれた時点で完全に止まり、合わせて全ての触手と本体の動きも止まった。
「raelc『淀縛の邪眼・2』!」
「チャンス……ねっ!」
私は呪詛の槍を作り出すと、『淀縛の邪眼・2』を撃ち込む。
入った干渉力低下は……20程度か。
同時にザリアが呪詛を纏った細剣による連続攻撃を開始。
刺突と斬撃を間断なく続けるだけでなく、攻撃した回数が増えれば増えるほどに細剣が纏う呪詛の量が増していく。
「せいやっ!」
「アンネモオォォネェ!?」
そして最後の一撃と共に黒穴の磯巾着呪の体が大爆発。
爆炎と共に黒穴の磯巾着呪はその巨体に相応しい音と振動を撒き散らしつつ、たたらを踏む。
恐らくだが今のが連呪。
複数の呪術を連続して使用する事で、その威力を高めるものであり、今のは攻撃の威力そのものと付与する出血の状態異常のスタック値を飛躍的に高めたのだろう。
私が入れた乾燥と干渉力低下の効果もあって、相当のダメージにはなっただろう。
「はぁはぁはぁ……あー……これだけやっても死なないのね……流石はHP鑑定不可」
「それでも今のでだいぶ削れたとは思うわ。で、たぶんだけど、攻撃弾き……パリィからの反撃が、この戦闘での正着手だと思うわ」
「ぐいっと。まあ、そんな感じはあるわね……」
「アネモエェ……」
しかし、黒穴の磯巾着呪は死んでいない。
巻き上げられた砂ぼこりの向こうからゆっくりと、しかし確実にこちらへと向かってくる。
ザリアの状態は……今飲んだ薬の効果によって、連呪を含む攻撃のコストはだいたい回復したようだ。
「アアッ、アアッ、アネネネネ……」
「ん?」
「震え出した?」
『これは……嫌な予感がするでチュよ』
黒穴の磯巾着呪が震え出す。
それを見た私は呪詛の剣での攻撃を、ザリアは細剣による攻撃を試みるが、どちらも弾かれた。
ついでに言えば『毒の邪眼・3』も撃ち込んでみたのだが、これもまた完全に弾かれた。
この時点で私もザリアもザリチュも、何をしてくるのかはだいたい察した。
「『噴毒の華塔呪』」
「役に立つの?」
「無いよりはマシだと思うわ」
『まあ、あの触手が来たら一刀両断だとは思うでチュ』
私は現地での砂作成用にと用意しておいた腕ゴーレムによって必要な量の砂を生み出すと、ザリチュを介して『噴毒の華塔呪』を作成。
岩の殻に包まれた円錐が出現する。
こうしている間も黒穴の磯巾着呪は震え続けていたが……やがて動きを止める。
「アネモオオォォネエエェェ!!」
そして、黒穴の磯巾着呪の口の中から、全身真っ白の女の上半身が出現。
その両腕には、その身の丈に相応しい長さを持つ、何かしらの結晶をそのまま削り出して作ったような見た目の長刀が一本ずつ。
真っ白の女は私たちに青白い目を向け、黒穴の磯巾着呪の触手に付いている目も私たちの方へと向けられている。
『生えたでチュ』
「そう、そういう形の変形をしてくるの」
「あっちがメインになるなら、かえって楽そうだけど……」
「「アネモネェ……」」
黒穴の磯巾着呪の声が二重音声になって聞こえた。
私はその事実に嫌な物を感じ、一歩斜め後ろの方向に退いた。
「「イッソォ」」
「っ!?」
「なっ!?」
『たるうぃ!?』
次の瞬間。
黒穴の磯巾着呪は触手を長く伸ばし、大きくしならせ、周囲のもの全てを切り裂く体勢に入り、真っ白の女は先程まで私が居た場所の目の前に出現して、剣を振り下ろしていた。
私の右腕は真っ白の女によって既に切り飛ばされていた。




