608:4thナイトメア5thデイ-2
「まずは鑑定っと」
私は素早くイソギンチャク型のカースへと『鑑定のルーペ』を向けると、鑑定を行ってみる。
で、鑑定結果が表示されるよりも先に、鑑定の際に普段よりも多くのHPを持っていかれた事で気付く。
コイツは鼠毒の竜呪と同格かそれ以上のカースであると。
そして、鑑定結果は私の認識が正しい事を示していた。
△△△△△
黒穴の磯巾着呪 レベル41
HP:???/???
有効:乾燥
耐性:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、巨人、干渉力低下、恐怖、UI消失状態、暗闇、魅了、石化、質量増大、重力増大
▽▽▽▽▽
「完全に格上ね」
レベル41は特殊ポップかつノンアクなので納得。
問題はHPが鑑定されない程に多い事と、乾燥以外の状態異常全てに耐性を持っている事。
これは戦闘が長引きそうだ。
「イッ……」
「むっ」
そう思っている間に黒穴の磯巾着呪が動き出す。
触手の一本を長く、後方に向かって弧を描きつつ伸ばした。
明らかに攻撃の体勢であるそれを見た私は咄嗟に斜め上方向に跳躍した。
「ソォ!」
「!?」
直後、黒穴の磯巾着呪の触手が横一文字に振るわれた。
進路上にあったものは全て、一瞬の抵抗もなく切り裂かれて分割され、私も片足を切り飛ばされた。
だが何よりも恐ろしいのはその範囲と速さ。
黒穴の磯巾着呪が居る場所から岩のドームの壁までの距離は長い場所で十数メートルあったはずだが、ドームの壁面には深い傷跡が切り刻まれていた。
そして、私が黒穴の磯巾着呪の動きで認識できたのが、一連の動作とほぼ始めと終わりだけだったという点だ。
恐ろしい、通常攻撃であるはずのこの技一つだけでも、対策なしで挑めば何千人プレイヤーが居ようが、一瞬で壊滅する事だろう。
「『熱波の呪い』!」
『マントデアたちには来ないように伝えたでチュ。これはただ人数が居ても無駄でチュよ』
「アネネネネネェ!」
私は頭の中でザリチュに感謝を伝えつつ、『熱波の呪い』を発動。
呪詛の鎖を生み出して、切り飛ばされた片足を回収し、切断面を合わせ、繋げる。
同時に呪詛の剣による攻撃も開始するが、黒穴の磯巾着呪は無数の触手を的確に振り回す事で、呪詛の剣を一本残らず叩き落している。
「アアアァァァァァァ……」
「っ!?」
『なんでチュかこの吸い込み!?』
いや、呪詛の剣を叩き落すだけではない。
黒穴の磯巾着呪はこちらの方へと口を向け、強烈な吸い込みを開始する。
その吸い込みの勢いは全力で羽ばたかなければ、あっという間に飲み込まれそうなほどだった。
「ネエエエェェェェェェ……」
「この場所との相性が……いえ、この勢いだと、何処でも、ヤバいわね!」
『ざりちゅは食われるのは御免でチュよおおおぉぉ!』
それほどの吸い込みであるため、周囲に存在する固定されていない物……最初の攻撃によって切られた、刃のように鋭い岩も吸い込まれていく。
当然、進路上にあるものを切り裂きながらだ。
なので私はザリチュを抑えつつ急いで上昇し、黒穴の磯巾着呪が生み出す破壊的な吸い込みから逃れる。
では、此処で問題です。
「モオオオォォォォォォ……」
「げっ」
『アカンでチュよ。これは……』
そうやって吸い込んだ物はどう処理されるでしょうか?
なお、黒穴の磯巾着呪の口内は名前通りに真っ黒な穴となっており、口からは僅かだが非常に高濃度の呪詛がまるでマーカーのように私たちに向けて漏れ出ているものとする。
「ネエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェ!!」
「ラエ……回避ぃ!?」
『チュアアアアァァァァッ!?』
私は殆ど反射的に下方向に向かって羽ばたき、呪詛の鎖によって体を引っ張り、重力加速も合わせる事で、最高速で下降していた。
同時に黒穴の磯巾着呪の口から、赤と黒と紫の奔流に細かい固形物が混ざる形で発射された。
発射されたそれは私の翅の一つを掠めつつ、岩のドームの壁面に直撃。
そして、勢いが衰えることもなく奔流は直進し続け……
「いやいやいや……」
『規格外にもほどがあるでチュよ……』
「ギチャチャチャアッ……」
奔流が過ぎ去った後には、大穴が開き、外からの光が射しこむようになった岩のドームの壁があった。
「でも、相応のリスクもあるようね。ytilitref『飢渇の邪眼・2』!」
『でチュね。明らかに動きが鈍ったでチュ』
「アネネネネネェ……」
だが、あれだけの攻撃をノーリスクで撃てるわけではないらしい。
黒穴の磯巾着呪は攻撃を終えた直後からぐったりとして、呪詛の剣を弾く触手の動きが明らかに悪くなった。
それでも十本中七本くらいは弾かれているが、チャンスであることに違いはない。
だから私は伏呪付きの『飢渇の邪眼・2』を撃ち込んで、乾燥(700)を与えた上で、呪詛の剣による攻撃を叩き込み続ける。
「イッ……」
「またく……」
だがチャンスタイムはそう長くは続かない。
黒穴の磯巾着呪は私が次の邪眼術を撃ち込むよりも早く復帰し、触手を伸ばしながらしならせる。
「ソソソォ!!」
「るさんぼん!?」
『チュアッ!?』
そして進路上にあるもの全てを切り裂く触手が振るわれた。
三本も。
私は奇跡的に回避に成功していたが、地面、天井、壁面には深い傷跡が刻まれていた。
「ギンチャアアアァァァッ!!」
「!?」
その結果に私が驚いている間にも黒穴の磯巾着呪は動き続けていた。
奴はあろうことか……跳んでいた。
跳んで、触手を振りかぶりつつ、私の方へと口を向けながらやって来ていた。
回避可能性はない。
あまりにも相手の方が速く、近い。
「せいやっ!」
「ギチャク!?」
「っ!?」
だが、黒穴の磯巾着呪が攻撃するよりも早く、人影が黒穴の磯巾着呪の上に乗り、刃を突き刺し、その衝撃によって黒穴の磯巾着呪は怯んだ。
そして、間一髪と言うところで難を逃れた私の目に映ったのは、地面に墜落した黒穴の磯巾着呪から素早く細剣を引き抜くと、切断されて平らになった元岩の棘の上に立つザリアの姿だった。




