607:4thナイトメア5thデイ-1
「五日目やなぁ」
「五日目だなぁ」
「五日目でチュね」
「そうね。五日目よ」
さて、イベント最終日である。
えーと、私たちの主観で日付が変わるタイミングでイベントが終了。
条件を満たしているアイテムは全部回収され、私たちは交流用エリアに戻される、だったか。
「今日は次回イベント後にザッハークに使わせるアイテムを守護するためのカースを制作する。やったっけ?」
「ええそうよ。と言う訳だからザリチュ」
「まあ、素体については出来上がっているでチュよ」
「そう言えば、ザリアたちが帰った後に何かしていたみたいだったな……」
私たちの視線が生産用エリアの片隅に腰掛けている巨大な人形へと向けられる。
様々なカースの素材を組み合わせて作られており、巨人型のキメラと称するのが正しい見た目をしている。
立ち上がった時の身長は約10メートル。
能力は現状不明。
ザリチュ曰く、今は素体であり、動き出すためには心臓部に当たる何かを設置する必要があるらしい。
「となると、心臓部に当たる何かを考えて、見つけて、作り、設置するのが今日の目標か?」
「普通ならそうでチュね。でももう候補はあるんでチュよ」
「ぶっちゃけ、そっちは一時間もあれば余裕で回収出来るから、問題はないのよね」
「あ、そうなんか。ちなみに何を使うん?」
「ヒトテシャの適当な素材。色々と都合が良さそうなのよね」
「なるほどなぁ」
まあ、動き出さないために、わざと設置していないのだが。
と言う訳で、後でヒトテシャの素材を何かしら回収、加工して、心臓部を作って設置すれば、守護者ゴーレムは出来上がりである。
「そんなわけだから、先にやっておきたいことがあるのよ」
「昨日、『悪創の偽神呪』が言っていた見落としと言う奴でチュね」
「ええそうよ。ザリアたちと喋りながら色々と確認したんだけど、一つだけ心当たりがあったわ」
なので別の事を優先する。
具体的には、『悪創の偽神呪』に言われた見落としだ。
「見落としの内容、聞いてもええか?」
「問題ないわ。自前の転移能力で交流用エリアや生産用エリアから『愚帝の暗き庭』へと直接転移するだけだから」
「知ってても真似できへん奴やぁ」
見落としの内容は転移侵入に伴う特殊ポップのカース。
「二日目の時点では気づかなかったのか?」
「気づかなかったわね。あの時飛んだ先に居たのが、ノンアク系のよく探さないと見つからないタイプのカース……造石の宿借呪の群生地だったのよ。で、あの時の私は造石の宿借呪たちが特殊ポップだと暗に考えていたのよね。おまけに、その後すぐに呪詛の柱を立てて迅雷の剣虎呪を呼び出して、色々あってその場から直ぐに離れてしまったから、気づけなかったのよね」
「なるほどなぁ」
転移侵入はマントデアの言ったとおり、二日目にやった。
ただ、あの時の私は特殊ポップのカースには気づけなかった。
だが、その後『愚帝の暗き庭』から生産用エリアに転移で直接戻った際に導渡りの蝋燭呪が出現したことから考えて、飛び込んだ時に何も出現していないと言うのは、やはりおかしいだろう。
「と言う訳で今から私は『愚帝の暗き庭』に飛び込んでくるわ」
「俺らも手伝った方がいいか?」
「あー、厳しいと思うわ。転移をすると言っても、『愚帝の暗き庭』の何処に出るかは今の私だと選べないから」
「じゃあ、ウチは合流出来たら合流して協力する。ぐらいの気持ちで動かせてもらうわぁ」
「俺もそうなるな」
「ちなみにザリチュも化身ゴーレムはそうなるでチュ」
では、戦闘準備を開始。
必要なアイテムと装備品を取り揃え、HPと満腹度に問題がない事を確認。
「じゃ、行ってくるわ」
「気を付けるでチュよー」
「おうっ」
「頑張ってなー」
そして私は呪詛を集めてゲートを作り出し、『愚帝の暗き庭』へと直接飛んだ。
「到着っと」
転移した先は……何処かの洞窟のようだ。
見回す限りでは、直径が100メートルくらいあるドーム状の空間であり、天井も地面も壁面も石筍と言うには少々鋭すぎる剣山のような岩が生え揃っている。
出入り口は……壁面に二か所か。
「これ、私みたいに空を飛べなければ、転移した直後に串刺しになりそうね」
うん、本当に鋭い岩だ。
よく見たら針のように細いだけでなく、刃が付いているし、更に細かく見て行けば刃の表面はノコギリ状になっている。
えーと、鑑定結果は……ただの岩なのか。
「周囲の呪詛を確認。カースは……小さい虫みたいなのが幾らか居るわね」
転移してから一分ほど。
私に襲い掛かってくるカースは居ない。
となれば、この場にはアクティブなカースは居ないと判断していいだろう。
ノンアクのカースは……岩の隙間に小さい虫型の何かが居て、私の支配している呪詛に干渉しようとしているのは感じる。
いや、本当にカースなのか? この小さな虫。
何となくだが、造石の宿借呪の谷の底に居た油と砂のカースと同じで、呪限無に居るからカースなだけで、実質地形の一部であるように思える。
「……。呪詛支配範囲を縮小。探査開始」
いずれにせよ特殊ポップのカースは見つからない。
なので私は呪詛支配の範囲を絞り、高さ200メートル、底の直径が10メートルほどの円錐にする。
そして、スポットライトのようになった呪詛支配圏を私の頭上から螺旋軌道を描きつつ、少しずつ降ろしていく。
「何か居たわね」
そうして探査開始から数分。
私の呪詛支配圏にある呪詛からほんの少しだけ、けれど明確に呪詛を取り込んだ何かが居た。
それは私が認識したことで、あちらも認識したのだろう。
虚空から現れるように、その場にあった剣山のような岩をへし折りながら現れた。
「こいつは……」
「ーーー……」
敢えて分類するならば、特殊ポップかつノンアク系カース。
そいつは高さ10メートル、直径数メートル程度の円柱状の胴体を持ち、複数の足を底部から生やし、上部から数百本の触手を伸ばし、触手の内側にあるであろう口は周囲の呪詛を貪欲に取り込んでいた。
そして、数百本の触手の中から視覚を有するのであろう、先端に目玉を付けた触手を私の方へと向けた。
「イソギンチャクのカースと言うところかしらね」
「アンネモオオオォォネエエェェ!!」
イソギンチャク型のカースは洞窟中に響くような叫び声を上げた。