603:4thナイトメア4thデイ・タルウィテラー・3-5
本日は五話更新になります。こちらは四話目です
「ギリギリ避け……」
八本の首が地中から空中に向かって勢いよく伸びて来る。
これだけならば、地中に潜んだワーム系のモンスターが良くとる行動の一つだ。
空中浮遊のせいで何時何処から飛び出してくるかは分からなかったが、地面からある程度離れていたおかげで、幸いにも避けることは出来た。
「「「ゲボシャアアァァ!」」」
「でも終わってない!」
が、多頭竜の攻撃はまだ終わってなかった。
八本の首が墨をゆっくりと吐き出す事で、黒い煙の壁がこちらに向かってゆっくりと迫ってくる。
触れればどうなるかはこれまでに見た通り。
私は素早く周囲の状況を確認すると、煙の壁に触れないようにしつつ、安全圏まで離脱する。
「ふんっ!」
「メッギャ!?」
ついでに攻撃。
鼠毒の竜呪の歯短剣を根元にまで刺し込む。
加えてネツミテを錫杖形態にして、遠心力を乗せ……
「おまけっ!」
「メンギャアアァァ!?」
短剣の柄を殴り付け、多頭竜の首のさらに奥深くへと刃を食い込ませる。
「メギャアアァァァ!」
「おっと、回収」
と、多頭竜の首が地中へと戻り始めたので、短剣に呪詛の鎖を巻き付けて回収。
私の手元に短剣が収まるころには煙の壁は収まり、多頭竜もそれまでと同じ状態に戻っている。
「「「メメメゲ……」」」
「さて、早いところ首の一本くらいは叩き落したいところなんだけど、今の装備で部位破壊は無理がありそうなのよねぇ……」
私と多頭竜の間に距離があるため、多頭竜は再び支援砲撃付きの墨カッター準備。
ただし、支援砲撃を行う首の数が二本に増え、上から降ってくる墨の密度が増している。
接近を試みるが、当然のように多頭竜は後退を始めるので、距離は詰められない。
だが、墨カッターを行う首の数は減るので、『熱波の呪い』による牽制にもならない攻撃を仕掛けつつも、私は接近をし続ける。
「……。ま、少なくとも10分くらいはこうして戦い続けるしかないでしょうね」
戦闘開始前の『貯蓄の呪い』の貯蓄状態はほぼMAXだった。
故に『熱波の呪い』の維持可能時間は『貯蓄の呪い』の分だけで考えても26分と少し。
『恐怖の邪眼・3』のCTが素で5秒。
恐怖の状態異常のスタック値が重症化ラインを割っている間にチャージが行われているが、普段の100倍以上はかかると予想した方がいいだろうか?
ならば、チャージ完了までかかる時間は500秒ちょっと。
うん、やはり、10分は今の状態を保つしかないか。
「「「メギャアアアァァァ!!」」」
「密度、足りてないんじゃなくて?」
冷静に計算を終えたところで、多頭竜からの墨カッターを紙一重で避けつつ接近。
短剣による攻撃を再び行う。
多頭竜が噛みつきを仕掛けて来るならば、軌道を読み切って反撃。
タックルが来るならば、自分から後ろに飛んで少しでもダメージを抑える。
首を地中に潜らせるなら宙に逃げ、距離を取られたら追いかける。
咆哮による恐怖のスタック値の更新狙いには咆哮中の首に呪詛の剣を叩き込む事で、僅かではあるが抵抗を試みる。
ダメージを受ければフェアリースケルズあるいは使い捨ての回復アイテムで回復する。
極めて地道かつ集中力を必要としつつも、中々希望が見えてこないような戦術ではあるが、他に手段がない以上は仕方がない。
私は地道に仕掛け続ける。
なお、持ち込んだ使い捨ての攻撃アイテムは位階が足りなかったのか、ほぼ効果を示さなかった。
「さてそろそろね……」
「メギョンガ!」
そうして10分後。
多頭竜はもう何度目になるかも分からないが、八本の首を地面に突っ込んだ。
この状態だと、胴体に攻撃を通せない私では、この後の為に宙に逃げる以外にやれることがない。
しかし、邪眼術を試みるなら、これほど都合のいいタイミングもない。
「evarb『恐怖の邪眼・3』」
「?」
胴体に接近した私は呪詛の剣を勢い良く振り抜き、胴体に呪詛の剣が食い込んでいるタイミングで『恐怖の邪眼・3』の使用を試みた。
結果、私の13の目は紫色に輝き、その輝きは多頭竜の体に吸い込まれていく。
それを確認したからこそ、私は多頭竜の胴体に背中を向け、目を瞑り、口を開く。
「さあ、逆転劇を始めましょうか」
「!?」
多頭竜の首が地上に姿を現わそうという瞬間。
私は目を開いた。
それにより、『呪法・増幅剣』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・呪晶装填』、『呪法・逆残心』、『呪法・感染蔓』の乗った『恐怖の邪眼・3』が発動。
多頭竜の全身を覆い尽くすように紫色の蔓が伸び、多頭竜は全身を震わせつつ、地中に潜ませていた首を地上に勢いよく出現させる。
与えたスタック値は分からないが……とりあえず四桁には確実に達しているだろう。
「「「メメメメメ……」」」
「ふふふふふ……」
その証拠と言えるかは分からないが、多頭竜の首がこちらに向ける視線……いや、目が何処にあるのかよく分からないので、視線のような物になるのだが、とにかくそれには怯えの感情が含まれている。
対する私は多頭竜の恐怖を増幅させるように、わざとゆっくりと動きつつ、両手で一本ずつ握った短剣に呪詛の炎を纏わせる事で炎の長剣のように見えるものを作り出す。
そして私の背後には大量の呪詛の剣と、背中の翅と一体化させるように呪詛を伸ばす事で炎の翼の様にも見える呪詛の翼を展開して、威圧感を増す。
なお、どちらもほぼ見た目だけなので、意味はない。
「メギャアッ!」
「ゲニャアッ!」
「メグロノマアアァァ!」
「メギョン!」
「メメガアアァァ!」
「ベゴッポ!」
「メギョォ!」
「メゲニャアアッ!」
「『虚像の呪い』」
多頭竜が動き出す。
だが、これまでのような統制の取れた動きではない。
私に噛みつこうとする首があれば、墨カッターや墨の砲弾を試みる首もあるし、地中に潜ろうとする首もあれば、咆哮を放とうとする首もあった。
そして、逃げ出そうとする首もあれば、タックルを仕掛けるべく体の向きを変えようとした首もあった。
「「「メギョガアッ!?」」」
「あはははははっ!」
結果、どの行動も取れずに、多頭竜の体は無様に転がり、全ての行動は中断されるか、見当違いな方向に飛んで行った。
だからこそ直撃した攻撃もあったが、『虚像の呪い』によってそれも無効化。
私は多頭竜の体に向かって一気に接近する。
「死ぬまで切り刻んで、貴方たちの中身を明かしてあげるわ!!」
「「「ーーーーー!?」」」
『虚像の呪い』の効果が終わり、剣を振り上げた瞬間、私の視界に見慣れたバーたちが戻ってくるのが見えた。
多頭竜に五桁の恐怖が入っている他、少なくない量の毒と、レベル低下(4)もあるのを確認した。
「ysion『沈黙の邪眼・2』! etoditna『毒の邪眼・3』! citpyts『出血の邪眼・2』! ezeerf『灼熱の邪眼・2』! pmal『暗闇の邪眼・2』! まだまだ行くわよ……」
「「「ーーーーー!?」」」
今ならば第二位階の呪術であっても問題ない。
私はそう判断すると多頭竜の八本の首の根元に潜り込み、両手に持った剣を当たるを幸いに近い形で振り回しつつ、剣で切りつけるのに合わせて邪眼術を発動。
多頭竜の体を切り刻んでいく。
私の猛攻に多頭竜の首は一本また一本と数度の痙攣の後に動きを止めていき、やがて最後の一本も動きを止める。
だが、まだ殺し尽くしてはいない。
多頭竜の中身は明かされていない。
「宣言する。太陽の下でぶった切ってやるわ。『太陽の呪い』、ezeerf、ezeerf、dloc、yllihc、eci、reicalg、wons、drazzilb、orez etulosba……『灼熱の邪眼・2』!」
「!?」
だから私は短剣を放り投げると、ネツミテを錫杖形態にし、ネツミテ全体を持ち手とするような形で、マントデアの体とほぼ同じ大きさの炎の剣を作成。
空に輝く偽物の太陽と同じように輝くそれを多頭竜の胴体に向かって振り下ろし、多頭竜の毛皮も肉も骨も内臓もを焼き切り、真っ二つにし、完膚なきまでに殺した。
≪称号『恐怖の達人』を獲得しました≫
「esaeler。ま、こんな物かしらね」
そして、多頭竜から離れ、『熱波の呪い』を解除したところで、多頭竜の体の焼け残りは風化、消滅していった。
07/24誤字訂正
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