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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
1章:『ネズミの塔』
6/1000

6:ファーストバトル-1

「よしっ、開いたあぁ!!」

 『ネズミの塔』の結界扉相手に奮闘する事、約10分。

 ようやく扉は全開となり、異様な弾力を持った白い霧の壁が無くなって通れるようになった。


「何と言うか、増えた目は使い物になるし、虫の翅は救世主だったけど、空中浮遊の足の引っ張り方が凄まじいわ……何処かでちゃんとメリットを見出したいところね……」

 私は扉の向こうに移動する。

 そして、私の体が完全に扉の向こう側に移動するのと同時に、扉は素早く横にスライドして閉まってしまう。


「後、効率のいい扉の開け方も考えておかないと……」

 どうやら開けっ放しは許してもらえないらしい。

 まあ、鑑定結果を見る限り、敵に追われていても中に入り込めれば安全が確立されるようだから、多少の開けづらさと合わせて仕方が無い事なのかもしれない。


「その為にもまずは探索ね」

 私は体の向きを変えることなく、全ての方向を同時に見る。

 今居る場所は丁字路の真ん中。

 通路や壁などの全体的な雰囲気を見る限りでは、ダンジョンと言うよりは放棄されたビルの中と言う感じ。

 背後にはセーフティーエリアに繋がる『ネズミの塔』の結界扉がある。

 右は直ぐに床が崩れる形で途切れていて、その先にはオフィスのようなものが見えている。

 正面は上層階からの瓦礫が積み重なっていて、上下方向含めて完全な通行止め。

 左は道はそのままで、右と同じくオフィスのようなものが見えている。


「左かしらね」

 8時間の訓練の結果、短時間ならば虫の翅を使って空を飛ぶと言うか、普通の人よりも滞空時間を長くする事は出来るようになっている。

 なので右に進むことも可能なのだが、そう言う普通でないルートを進むのは、最低限の装備が整ってからにするべきだろう。

 今の私には武器も何も無いのだから。

 と言う訳で、私は左の道を進み始める。


「何処かの大会社のオフィスでいいのかしら?」

 コンクリートむき出しの壁が途切れて、幅数十メートル、奥行に至っては100メートル以上ありそうな空間が広がる。

 私がこの空間をオフィスと判断したのは、この空間に置かれている物がプラスチックと金属で出来ている机や椅子、本棚が点在している事からだ。

 また、机の上などを細かく見てみれば、ペンや本と言った備品の類も散乱している。

 ただ、そうしてオフィス内に置かれている物の大半は壊れていて、使い物にならなさそうである。


「ん?」

 私の視界に動くものが見えた。

 原形を留めている机の影から影へと移動して、少しずつこちらに近づいてきている。

 ダンジョンと言う場所を考えたら、確実に敵だろう。

 なので私はバランスを崩さないように気を付けつつ膝を折り曲げて、何時でも大きく跳べるように備える。


「ネズミ……」

「ヂュウヂュウ……」

 やがて机の影から姿を現したのは一匹のネズミ。

 ただし、サイズは大型犬並みの大きさで、明らかにこちらを獲物として認識して、私の顔くらいはありそうな大きな前歯をこちらに見せている。


「ヂュアアアァァァ!」

「っつ!?」

 ネズミが飛び掛かってくる。

 私は慌てて飛び退いて、ネズミの攻撃を回避する。


「鑑定……」

 そして両手両足を床に着こうとして着けないまま滑っていく中で、私はネズミに対して『鑑定のルーペ』を使おうとした。


「ヂュア!」

「っつあ!?」

 だがそれよりも早くネズミが私に再度飛び掛かってきて、その大きな前歯で私の頭に噛みつこうとしてくる。

 私は渾身の力を込めてネズミの口を抑える事で攻撃を防いだが……。


「ヂュヂュヂュアッ!」

「ちょ、こっちは、踏ん張れ……」

 うん、駄目だこれ。

 口では諦めてないけど、内心ではもう悟った。

 空中浮遊の為に踏ん張れない私ではネズミの噛みつきを抑えられても、突進の勢いは一切削げなかった。

 そして私の背後には外が一切見えない曇り切ったガラス窓がある。

 私はネズミの突進によってスムーズに運ばれて行き……


「ごぶっ!?」

 ガラス窓に叩きつけられた衝撃で腕の力が緩む。

 衝突が分かっていても、耐え切れるようなものではなかった。


「ヂュアッ!」

 で、あっけなく頭を噛み砕かれて即死。

 私の視界は暗闇に包まれた。



----------



「祝、初リスポーン」

 視界が戻ってきた私の前に広がったのはセーフティーエリアの中の光景だった。

 まあ、他に復活する場所の候補など無いので、当然の光景である。


「はぁ、まさか探索開始から3分と待たずに戻ってくるとは思わなかったわね」

 で、とりあえず五体投地。

 空中浮遊の仕様を考えると、立ったり座ったりよりもこの姿勢の方が楽なのだ。


「デスペナルティが無くて、気軽に死ねるのが救いね」

 幸いにして『CNP』にはデスペナルティが存在しない。

 低レベルの内とか、ゲーム開始から何時間以内からと言う制限付きではなく、本当に一切のデスペナルティが存在しない。

 これは『CNP』の難易度、仕様、世界観だと、デスペナルティを付けて緊張感を出したり、落ち着くための時間を作り出したりするよりかは、ガンガン挑んでガンガン死ぬような目に遭った方が楽しいだろうと運営が判断したからであるらしい。

 まあ、どれだけHPがあっても脳がやられたら即死、心臓を破壊されたら数秒後に死亡と言う仕様なので、デスペナルティが軽いのはありがたい事である。


「で、あのネズミはどうしようかしらね……」

 デスペナルティの話はここまでにしておくとして、問題はどうやってあのネズミを倒すかだ。


「んー……とりあえず武器が欲しいわね。立派な物じゃなくてもいいから、とにかく殴る事が出来るぐらいに硬い物……」

 まず武器は欲しい。

 大型犬サイズのネズミを素手で殴り殺すのは、幾ら何でも無理がある。

 防具は……今の状況だと流石に無理か。

 当たらなければどうと言うことは無い、と言うのをやるしかない。


「硬い物、硬い物ねぇ……鉄、石、コンクリート、ガラス……ん?」

 私はセーフティーエリアからネズミが居た場所までにあった物を思い出しつつ、硬い物を思い浮かべていく。


「あったわ……硬い物あったわ……」

 そして思い出したのは、このセーフティーエリアから出て、正面の通路にあった大量の瓦礫。

 大半は砂や私では持ち運べないサイズの岩であるが、中には手ごろなサイズの石も混ざっている事だろう。

 場合によってはちょうどいい感じに鉄骨が刺さったハンマーのような石だってあるのかもしれない。


「よし、探してみましょう」

 『CNP』はアイテム作成の都合上、フィールド上に存在するあらゆる物体が入手可能であるらしい。

 であれば、私が考えた通りの物がある可能性は決して低くない。


「行く……わ……ああっ、忘れてた……」

 そうして私は慣れた動きで翅を動かして立ち上がると、部屋の外に向かって移動を始める。

 で、思い出した。

 目の前に立ちふさがる金属製の扉の重さを。

 二度目の扉の開閉は五分ほどかかった。

12/09誤字訂正

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[一言] 「で、あのネズミはどうしようかしらね……」  デスペナルティの話はここまでにしてくとして、問題はどうやってあのネズミを倒すかだ。のしてくをしとくの方がいいかなって思いましたので。m(._.…
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