599:4thナイトメア4thデイ・タルウィテラー・3-1
「さて、『恐怖の邪眼・3』の強化のためにも気合を入れましょうか」
「でチュねぇ。強化だけなら大丈夫かもでチュが、ほぼ確実にアレが来ると思うでチュし」
生産用エリアにはマントデアとゼンゼの姿はない。
どうやら二人ともまだ帰ってきてないようだ。
まあ、二人が居ても居なくてもやることに変わりはないのだが。
「じゃ、まずは肉からね」
「でチュか」
と言う訳で、まずは萎縮の蛸呪の足、恐慌の羊呪の肉、ザッハークの料理に使った余りだが破接の幻惑蟲呪の肉をミンチ状にして、混ぜ合わせる。
そして、幾らか混ざったところで、垂れ肉華シダの膨葉と幾つかの香草、野菜型カースを刻んだり磨り潰したものを混ぜ合わせて、肉だねを作る。
これはしばらく置いておいて、味を馴染ませる。
「次に破接ギニアの頭部を開いてっと」
「あ、牙の中身がゼラチン状なんでチュね」
次に破接の幻惑蟲呪の頭部を割って、無数の牙を回収。
この牙の中には石榴のような味がするゼラチンが入っていたので、これをほじくり出して、ボウルに集めていく。
で、十分な量が集まったところでカロエの声帯を刻んだ物、萎縮の蛸呪の眼球を刻んだ物、『ダマーヴァンド』の毒液、香草と垂れ肉華シダの膨葉を投入して混ぜ合わせ、こちらも暫く放置、味を馴染ませる。
「肉を焼いて……呪詛を集めておきましょうか」
「呪詛を抜いた肉の行き先は何処でチュ?」
「勿論、マントデアとゼンゼの腹の中よ」
はい、肉だねがいい感じに馴染んだようなので、油を引いたフライパンに投入。
まずは強火で外側を一気に焼き上げて、出来るだけ肉汁が外に逃げ出さないようにする。
と同時に、呪いを一つの肉だねに集中させて、呪術習得用と夕飯用で分けてしまう。
「『灼熱の邪眼・2』」
「もはや調理用途の方が使用率、高いんじゃないでチュか? これ」
そして、外側に焦げ目が軽く付く程度に焼けたところで、『灼熱の邪眼・2』を使って、内側から直接焼いて、ふんわりとさせつつも、火もしっかり通す。
で、マントデアとゼンゼの分は取り分けてだ。
「出てしまった肉汁とボウルの中身を一緒にして……」
フライパンに色々と混ぜ合わせて置いておいたものを投入。
軽く火を通す事で香りを立たせつつ、若干のとろみを持つソースとして仕上げていく。
「はい、完成」
で、ソースの一部に呪いを集中させ、呪術習得用のハンバーグにかけたところで完成である。
なお、フライパンに残ったソースは、マントデアとゼンゼの分として残しておく。
「石榴餡のハンバーグと言うところでチュかねぇ……」
「そうなるかしらね」
「普通に美味しそうな料理が出来とる……あ、ただいまや」
「材料に見当がつかないが、すごくいい匂いがしてるな……あ、今帰った」
「お帰りなさい二人とも」
と、マントデアとゼンゼの二人が帰ってきたようなので、呪詛を抜いて安全にしたハンバーグにソースをかけ、出しておく。
「あ、俺らはこれを外で食べておくわ。巻き込まれたくねぇし」
「せやな。使っとる素材的に、昨日までよりも危険そうやから、逃げとくわ」
「そう? まあ、止めないけど」
「賢明な判断だと思うでチュアアアァァァァァ!?」
で、マントデアとゼンゼの二人は自分の分のハンバーグを持って、交渉用エリアに戻っていった。
後、ザリチュは抓っておく。
「さて、本番ね」
「ある意味そうでチュね」
さて、気が付けば私のハンバーグの中心には、紫色のトラペゾヘドロンが埋め込まれており、ハンバーグ、ソース、紫色のトラペゾヘドロンの組み合わせは不思議と調和が取れている見た目となっていた。
どうやら、極めて高い濃度の呪詛を集めた結果として、結晶が出来てしまったようだ。
まあ、問題はない。
と言う訳で、私は呪怨台にハンバーグを乗せる。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと到達した恐怖を与える眼に変革をもたらす事を望んでいる」
赤、黒、紫、いつもの呪詛の霧が呪怨台へと集まっていく。
含まれている『七つの大呪』には当然干渉済みで、含まれている呪いをさらに高めていく方向で働かせている。
「魂の底から縛り付けるような恐怖だけではなく、この世を現実と見間違う物へと変え、世界から孤立していると感じるような恐怖を秘め、伏せ、芽生えさせる事を求めている」
呪詛の霧が紫色に変化。
生産用エリア全域に幾何学模様が展開されて行く。
だが、ある程度広がる度に、まるで圧縮が行われるように小さく萎み、次なる幾何学模様を構成する一部となり、それからまた幾何学模様が広がっていく。
「私の恐怖をもたらす紫色の目よ。深智得るために正しく啓け」
展開されていた幾何学模様が集束、紫色の結晶体に変化。
これを何度も繰り返していき、私の周囲は紫色の煌めきに包まれていく。
「望む力を得るために私は恐怖を食らう。我が身を以って与える恐怖を知り、胃腑を収め、打ち勝ち、己の力とする」
やがて結晶体の数が13個となり、溶け、一つにまとまり、呪詛の霧の中に飛び込んでいって、呪怨台に集まっている呪詛の霧ともどもハンバーグへと飲み込まれていく。
「宣言、紫の恐怖をもたらす呪詛の剣と蔓よ。道を切り拓き、明かし続けろ。evarb『恐怖の邪眼・3』」
そして、乗せられる全ての呪法を乗せた『恐怖の邪眼・3』がハンバーグに撃ち込まれ、さらに大量の呪詛を飲み込んでいくようになる。
やがて霧は晴れ、現れたのは、紫色の宝石が填め込まれた皿の上に乗せられた、奇麗な切れ込みから肉汁を滴らせ、周囲一帯に適度に酸味を利かせた芳醇な肉の臭いを撒き散らすハンバーグだった。
私は皿を手に取ると、鑑定をする。
△△△△△
呪術『深淵の邪眼・3』のハンバーグ
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:21
呪われた肉の塊
覚悟が出来たならば、よく味わって食べるといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
限られた力を十全に行使する事を前提として、門は聳えているのだから。
さあ、貴様の力を私に見せつけてみよ。
▽▽▽▽▽
「戦闘準備は?」
「ざりちゅはばっちりでチュよ。たるうぃは?」
「私も問題ないわ」
恐怖から深淵になったか。
蛸やハルキゲニアの素材を使ったからだろうか?
「では、行きましょうか」
私はハンバーグを食べ始める。
分かってはいた事だが、とても美味しい。
肉そのものがとにかく美味しい。
そこへ適度な酸味を持つソースがアクセントとなる事で、更に味を引き立たせている。
これならば、幾らでも食べられそうだ。
「さあ、来るわよ!」
そして食べ終わると同時に呪限無の門が開いた。
「あ、今回はたるうぃ単独みたいでチュね」
「ちょ、まっ……」
私の足元だけに。
さらに言えば、ザリチュの方は本体である帽子も、化身ゴーレムも見覚えのある誰かさんの手で摘まみ上げるように持たれていた。
「ザリチュ無しは想定してなかったんだけどおおぉぉぉ!?」
「頑張るでチュよおおおぉぉぉ……」
そして、ザリチュの声が遠ざかる中で、私は呪限無に向かって落ちて行った。