598:4thナイトメア4thデイ-7
「助かったわ。聖女ハルワ」
「あら、不満、愚痴、恨み言の類じゃないのね。呪限無の化け物」
私は呪詛支配の範囲を自分の周囲だけにしていく。
噴毒の華塔呪が呪詛濃度不足で姿を消す事になってしまうが、この状況ならもう周囲の呪詛濃度を上げ続けておく必要はないだろう。
「見るからに急いできた様子だし、実際そんなに時間はかかっていない。これで愚痴るほど狭量じゃないわよ」
「そう」
さて、街角から現れた聖女ハルワは、普段居る場所である神殿から此処まで急いできたのだろう。
微妙にだが衣服が乱れているし、呼吸も心なしか荒い。
今の状況開始から数分しか経っていない事を考えると、ほぼ最速と考えていいだろう。
「で、何か手助けは必要?」
「そうね……私の浄化の範囲外のすぐ外で、新たな呪いが浄化の範囲内に入り込まないようにせき止めて」
「分かっ……冷たっ!?」
聖女ハルワに言われたとおりに呪詛支配をやったところ、手のひらが焼けるような感覚がした。
いや、実際に焼けたのだろう。
ダメージを受けているし、灼熱の状態異常も受けている。
だが、焼けた原因は火傷ではなく凍傷に近く、私の指先は氷水どころか、濡れた手でドライアイスを鷲掴みにしているような感覚を覚えている。
どうやら、聖女ハルワの浄化範囲と私の呪詛支配圏が接触した結果、能力の相性と強さから私の方にダメージが来たらしい。
「謝らないわよ。自分が支配している呪いが浄化されたらどうなるかという当たり前を考えなかった呪限無の化け物が悪いんだから」
「分かってるわよ」
私は軽く何度か手を振ってから、全身の目を閉じて劣竜瞳の発動条件を満たさないようにしつつ、聖女ハルワの浄化範囲に入らないように細心の注意を払いつつ、暴走した元プレイヤーの周囲の呪詛を支配し続ける。
「終わったわ」
「そう」
「おおっ……」
「流石は聖女様……」
「どっかの糞ビッチ似非聖女とは違って、本物はやっぱり実力があるでチュねぇ」
やがて浄化が終わったらしい。
光の柱が消えていき、表皮に岩石の皮膚が僅かに見える以外、異形の部分がなくなったプレイヤーの姿が見えてきた。
「で、あの人間は生きているのかしら?」
「死んでいるわ。『不老不死』の呪いはカース化した時点で失っていたもの。とは言え、今私たちが居るのは夢の中。多大な対価を支払うのであれば、元の世界に戻る事は可能でしょうね」
「具体的には?」
「そうね……これまでに積んできた全ての経験を失う。とかかしら」
「なるほど」
つまり、レベルは1に戻り、呪術や称号も恐らくは失う。
道具は残るかもしれないが、レベル制限によってほぼ使えなくなるだろう。
なので、どこの誰かは分からないが、このプレイヤーは実質的にはキャラロストした、と。
でもまあ、イベント外ならば、レベル1の体すら残らないのだろうから、それに比べればだいぶ温情があると言えるだろう。
「せいっ」
「は? え、ちょ、ま……」
「何やってんだ、あの邪眼妖精」
「……」
「実にたるうぃでチュねぇ」
とりあえず折角と言うか、タダ働きは御免なので、プレイヤーの死体に残っていた岩石のような皮膚については剥ぎ取っておく。
そして、私の行為が切っ掛けとなったのか、プレイヤーの死体は風化の呪いによって消え去った。
「一応聞いておくけど、何に使うつもりなのかしら?」
「何って……まあ、適当に使う予定ね。暴走してカースと化した人間の素材なんて珍しい物を見逃す気はないし。ああでも、呪詛薬や料理の類にはしないわ。そう言うのには向かなさそうだから」
「そう……」
えーと、名称は……暴走する人呪だったものの岩肌。
フレーバーテキストからして、最後の形態は屁泥の双頭呪と言う名前だったらしい。
含まれている呪いとしては、自己制御が利かず、暴走するような性質と、岩のような堅さ、油を含んだり透過する性質を合わせ持つようだ。
色々と呪いを持っているが、一番強いのが暴走する性質なので、使うならば私が作ったザッハーク向けの諸々を次のイベント期間中守護するカースに組み込むぐらいにしか使えなさそうか。
「普通に人間素材を使うと言ったぞ。アイツ……」
「ええっ、サイコパス過ぎないか……」
「まあ、カースだしな。仕方がない」
「それ、カース側が一緒にしないでくれって懇願する奴じゃね?」
「こういう時に言うべきなのがタルだから仕方がな……ひえっ」
外野についてはとりあえず劣竜瞳を向ける事で黙らせておく。
まだ聖女ハルワとの話が終わっていないので、少し黙っておいて欲しいのだ。
「さて、残る問題はどうしてあのプレイヤーがカース化したかだけど……」
「そちらについては私の方で調べておくし、注意勧告もしておくわ。同様の事例が今後も立て続けに起きたら、手が回らなくなるもの」
「じゃあ。お願いするわ」
まあ、今後同様の事態が起きないようにするのは、聖女ハルワに任せた方がいいだろう。
恒常的に異形度を上げる呪詛薬を作りまくっている私が言っても、説得力が欠片もないし。
「さて私は欺瞞の蝗呪の死体を求めて活動しましょうかね」
「あ、その前にざりちゅの化身ゴーレムの作り直しをお願いするでチュよ」
「はいはいっと」
その後、化身ゴーレムを砂に戻した私は数人のプレイヤーと交渉。
『皇帝中虫』の廉価版とでも言うべき香辛料を幾つか作り、その対価として一時的に異形度を上げ、呪いを得る呪詛薬を作成、配布した。
で、化身ゴーレムのデメリットが解消されたところで新たな化身ゴーレムを作成。
それからいくつかの素材を『官僚の乱雑な倉庫』の方で回収してきてから、次の作業……『恐怖の邪眼・3』の強化を試みることにした。




