596:4thナイトメア4thデイ-5
「イレギュラーなカースねぇ……」
「イレギュラーなカースでチュかぁ……」
私の視線の先には、身長10メートルちょっと、岩石の表皮の隙間からヘドロと油がとめどなく溢れ続けている巨人が居る。
よく見れば、その巨人は普通の人間サイズの短剣や勾玉を取り込んでいたり、ヘドロの中から複数の眼球が浮かんでは沈んでいたりもする。
で、ヘドロを纏っているので、それなりに距離がある私たちの位置でも臭う程度には臭い。
「とりあえず鑑定っと」
「まあ、そうでチュよね」
さて、現状では巨人の周囲に居るプレイヤーがどうした物かと言う顔をして、相手の様子を窺っている。
巨人も巨人で、現状では周囲の状況を確認しているような感じだ。
なので私は邪眼術のチャージを始めつつ、鑑定を仕掛けてみる。
結果は?
△△△△△
暴走する人呪 レベル25
HP:62,000/62,000
有効:灼熱
耐性:毒、出血、小人、巨人、乾燥
▽▽▽▽▽
「ふむ」
うん、だいたい分かった。
たぶんだが、異形度を20まで上げたが、制御できなかったプレイヤーの成れの果てだ。
何と言うか、全体的にスペックが控え目な感じがする。
後、カースの癖に纏っている呪詛の濃度が15前後と低い。
「ーーーーー!」
「っ!?」
「暴れ出すぞ!」
「くそっ、どうしてこんな!?」
と、私の鑑定によって攻撃されたと思ったのか、それとも状況確認が済んだのか、暴走する人呪は片腕を大きく上げ、何処かのPTの生産用エリアであろう目の前の建物に襲い掛かろうとする。
えーと、暴走するなんて名前に付いている事からして、元となったプレイヤーの意識が現状ないのは確定でいいだろう。
現状から戻ってこれるかは不明。
でもまあ、不老不死の呪いを失っている可能性が高そうだから、今の状態で倒されれば、完全にロストすると思っていいだろう。
しかし、その件については、どういう流れでこうなったのかは分からないが、ほぼ間違いなく自業自得の類だろうから、私が気にする必要はなし。
私が気にするべきなのは、暴走する人呪が暴れる事によって、街に被害が生じる事、これだけだろう。
はい、と言う訳でだ。
「よっと」
「!?」
「「「雷!?」」」
まずは『気絶の邪眼・2』で相手の動きを止める。
「evarb『恐怖の邪眼・3』、ysion『沈黙の邪眼・2』、raelc『淀縛の邪眼・2』、esipsed『魅了の邪眼・1』、noitulid『石化の邪眼・2』」
で、相手がプレイヤーなのは姿を目にした時点でちょっと思っていた事なので、プレイヤー相手として組んでいた邪眼術を『呪法・貫通槍』と共に撃ち込んでいく。
具体的には、目5つ分の『恐怖の邪眼・3』、目2つ分の『沈黙の邪眼・2』、目3つ分の伏呪付き『淀縛の邪眼・2』、目1つ分の『魅了の邪眼・1』と『石化の邪眼・2』だ。
これで暴走する人呪は恐怖によってマトモに動く事も呪術を使用する事も出来なくなり、沈黙によって叫び声を上げることも出来ず、干渉力低下で立つことも難しくなり、魅了で敵対行動が封じられ、石化によって両足のヘドロの一部が固体化して動けなくなった。
「ーーー!?」
「『熱波の呪い』」
「おいおい」
「容赦ねぇ……」
「ええぇ……」
で、これだけだと拘束が不完全なので、『熱波の呪い』を発動。
ダメージ判定を有するようになった呪詛の鎖でもって、暴走する人呪の全身を縛り付け、地面に縫い付ける。
勿論、いつものように二重三重に鎖を巻き付けていき、拘束をより強固なものにしていく。
「くっさ!?」
「油とヘドロが燃えて……うえっ……」
「オロロロロ……」
「!?」
「たるうぃ、結構臭うんでチュけど」
「知らないわよ。我慢しなさい」
なお、『熱波の呪い』によって暴走する人呪の体のヘドロと油が燃えたためか、周囲一帯には酷い臭いが立ち込め始めている。
いや、もしかしたら臭いだけでなく毒も混ざっているのかもしれないが、その辺は毒耐性を有する私には分からない事である。
それよりもだ。
「誰か聖女ハルワをこの場に呼んでくれないかしら? このカース、ほぼ間違いなくプレイヤーなんだけど、このまま殺処分していいのか分からないから、判断を仰ぎたいの」
問題は此処からどうするかである。
「プレイヤーってマジか」
「マジだよ。こうなる前になんか変な液体を飲んでた」
「周りの奴ら、止めておけって言ってたよな。確か」
「俺、聖女様呼んでくるわ」
「俺も手伝うぞ!」
「助けられるなら助けたいものな!」
それにしても、元プレイヤーにしては、暴走する人呪は随分とあっさり捕縛されたものである。
私などの一部例外を除いて、だいたいのプレイヤーは身代わり人形の類を持っていて、一度か二度の状態異常くらいなら防げるものなのだが、カース化に伴って効果を失ったとかだろうか?
まあ、楽な分には構わないのだが。
「いずれにしても後は聖女ハルワの判断に従って処分すればいいだけ。状態異常の維持をしつつ、このまま待っていれば……」
「そうもいかないようでチュよ。たるうぃ」
「ん?」
「ーーー……」
化身ゴーレムの言葉に私は暴走する人呪の様子をしっかりと観察する。
「なんか鎖が軋んで……」
「状態異常のスタック値が急激に減ってる!?」
「なんだ……中だ! ヘドロの中に何か居るぞ!!」
呪詛の鎖が軋み、千切れ始めていた。
私が与えた状態異常のスタック値も急激に減っていっている。
暴走する人呪の全身が震え出し、何かをこらえるようにしている。
そして……
「ーーーーーーー!!」
「チュア!?」
「ザリチュ!?」
周囲にヘドロと岩石を撒き散らしつつ、暴走する人呪の頭部周辺から出て来た何かは私に襲い掛かろうとし、ザリチュに攻撃を受け止められ、ザリチュは攻撃の勢いを殺しきれずに近くの建物に叩きつけられた。
「lptpぢ、じえいあy……pzsr、いんlw、lptpぢ、じえいあy」
「まさかの第二形態持ち……いえ、それよりも、復活の目はもうなさそうだし、遠慮なくやって良さそうね」
そいつは先程までの暴走する人呪を人間サイズにまで縮めたような姿をしていた。
だが、暴走する人呪との違いが三点。
一つは頭が二つある事。
一つはヘドロと油が溢れ続けるのではなく、岩石の表皮の隙間で膜を張るように留まっている事だ。
一つはプレイヤー時代に身に着けていたであろう装備品が、体のサイズに合っていて、ザリチュを吹き飛ばすべく振り抜いた剣を構え直し、その切っ先を私に向けている事だ。
「どmr、あうbw!」
そして、そいつ……第二形態に入った暴走する人呪は、剣の切っ先を私に向けたままこちらへと突っ込んできた。
07/20誤字訂正