595:4thナイトメア4thデイ-4
「さて帰ってきたわね」
「俺らは物を置いたら、また『愚帝の暗き庭』に行ってくるか」
「せやな。まだまだ慣れが足らへん」
「行ってらっしゃいでチュ」
生産用エリアに戻ってきた私は、出発前に放置していたものの状態を確認。
それから今回の活動で手に入れた物を袋の外に出して、整理していく。
で、マントデアとゼンゼの二人が生産用エリアの外に出て行ってから、次の作業を開始する。
「じゃあ、全部粉状にしていきましょうか」
「頑張るでチュよ。たるうぃ」
私は余韻の馬呪の肉、共鳴の茸呪の傘、仇討の呪いを含んだ磔刑の樹呪の果実を並べると『飢渇の邪眼・2』によって乾燥させた上で、『風化-抑制』を用いて消失と劣化を防ぎつつ、磨り潰して粉状にしていく。
さらに、昨日粉末にした欺瞞の蝗呪の死体も取り出す。
そうして粉末状になっている四つの素材を同じ量だけ量り取り、一つの容器に入れ、よく混ぜ合わせる。
加えて、幾つかの『ダマーヴァンド』産の香草も少量混ぜ合わせて、味と香りを整える。
「そしてこれを呪怨台に乗せて……統合っと」
で、呪怨台に乗せたら、『七つの大呪』も利用して、私が望む形へと仕上げていく。
呪詛の霧の中から現れたのは、何かしらのスパイスのようにも見える、赤、黄色、黒、桃色の粒子が混ざりあった粉末。
では、鑑定してみるとしよう。
△△△△△
『虹霓竜瞳の不老不死呪』の香辛料・『皇帝中虫』
レベル:35
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:10
『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルが調合した香辛料。
香り高く、味よし、適量用いれば、如何なる料理であってもワンランク質を上げる事が出来るだろう。
また、本来ならば食用には適さないカースの素材であっても、問題なく食べる事が出来るようになるだろう。
同時に、薬の類もデメリットを和らげ、質を向上させる事に繋がるだろう。
注意:『ユーマバッグ帝国』皇帝ザッハークがこの香辛料を混ぜた物体を体内に取り込んだ場合、その物体が有する呪いは1週間、体内に留まり続ける。そして、この香辛料を含んだ別の物体を体内に取り込んだ時、両方の物体が宿す呪いを増幅して発現させる。
注意:この香辛料が混ざった物体を鑑定しても、デメリットに関係する部分の鑑定結果が正しく表示されるとは限らない。
▽▽▽▽▽
「ふむふむ」
「普通に使えるアイテムを作ったでチュね。これは」
「そうね。普通に使えると思うわ」
これは……汎用のカース肉を食べられるようにするためのアイテムになるかもしれない。
いや、呪詛薬に混ぜ合わせるのもありだろうか。
とにかく使い道は多そうだ。
では、実際に量産するとしたらだ。
使った素材的に、仇討の呪いを含んだ磔刑の樹呪の果実の再入手は面倒だから省くとして、残りの三つの素材がメインか。
余韻と共鳴で隠す事によって、欺瞞の効果を上げているから、省く訳にはいかない。
んー、欺瞞の蝗呪の死体をもう一度何処かで入手する必要がありそうか。
再戦をするのは面倒だから、昨日の戦闘に参加していたプレイヤーと交渉する方が早そうか。
「とりあえず料理を仕上げましょうか」
「でチュね」
まあ、その交渉は後回しで。
とりあえず今は鼠毒の竜呪の翼などを使った料理に香辛料を混ぜ合わせ、料理と呪詛薬を完成させていく。
料理は肉料理中心で、多少脂っこくはあるかもしれないが、それ以上に美味しく、体力と活力が付くようなものを揃えていく。
呪詛薬はそれに対処するように胃腸薬、風邪薬、それと需要があるかは怪しいが、精力剤や解毒薬、少々怪しげな薬も作っていく。
で、そのいずれにも肉体を変異させ、異形度を上げ、カースにするための呪いを仕込んでいく。
「これ、普通の鑑定では分からない感じでチュか?」
「ええそうよ」
料理と呪詛薬の異形度上昇効果はデメリットの枠に入るものだ。
つまり、この香辛料が混ざると、鑑定出来なくなる。
とは言え、答えを知っている私には効果がないようなので、後でマントデアにでも鑑定してもらって、ちゃんと隠せているかの確認はしておくべきだろう。
「で、ざっはーくはどうなりそうなんでチュ?」
「そうねぇ。今作った物で見た感じだと……一番、効率よく呪いを集めていくパターンなら、竜の要素は持つと思うわ」
これで料理と呪詛薬の作成は完了。
鼠毒の竜呪の翼入りの料理が上手く発動してくれれば、ザッハークは自然に呪詛を集めて、私が作った料理と呪詛薬を次から次へと喰らい、あっという間にカースになってくれることだろう。
「さて、欺瞞の蝗呪の死体を持っているプレイヤーが居ないか探してみましょうか」
「持っているプレイヤーを探すのはいいんでチュが、死体を貰う代わりに何を渡すんでチュ?」
「そこは交渉次第ね。呪詛薬を作るのが一番楽で、相手の利益も大きいかしら」
戸締りと言うか、ものの整理を終えた私は掲示板で欺瞞の蝗呪の死体を求めている書き込みをした上で、生産用エリアから外に出る。
さて、誰か乗ってくれると嬉しいのだが……。
≪サプラアアァァイズ! イレギュラーなカースが現れました!! 一定時間経過で消滅しますが、放置していると街が壊されてしまいます。協力して街を守りましょう!≫
「はい?」
「チュア?」
そんな事を考えつつ交渉用エリアに出た私の耳に届いたのは、イレギュラーを告げるアナウンスと、遠くの方から聞こえて来た破砕音。
そして、身長10メートルちょっとはある、岩石の表皮の隙間からヘドロと油がとめどなく溢れ続ける巨人の姿だった。