588:4thナイトメア3rdデイ・タルウィボンド・2-1
「さて、まずは私の強化からね」
「何をするんでチュ?」
「邪魔にならんように隅で練習しつつ、見させてもらうわー」
さて、まずは私の強化からだ。
ゼンゼは生産エリアの隅で尻尾を一本ずつ伸ばしては縮め、曲げては戻している。
うん、邪魔にはならなさそうだ。
「えーと、これとこれと……」
材料の準備。
まずはメインの素材として、余韻の馬呪の肉、投縄の蜘蛛呪の糸と体液と肉、萎縮の蛸呪の墨、カロエ・シマイルナムンの触手。
それにサブの素材として、垂れ肉華シダの膨葉、『ダマーヴァンド』の毒液と各種毒草。
「馬と蜘蛛の肉を短冊状に切り出して、膨葉を擦り込んでから、一本の太い柱にしてっと」
作業開始。
余韻の馬呪の肉と投縄の蜘蛛呪の肉を切り出し、垂れ肉華シダの膨葉と各種毒草を擦り込んでから、切り出した肉を張り合わせて、直径数センチ、高さ十数センチの円柱状の肉塊にする。
「触手と糸を巻き付けてー」
肉塊にカロエ・シマイルナムンの触手を巻き付ける。
そして、触手の上から投縄の蜘蛛呪の糸を巻き付け、縛り上げ、固定する。
「体液、墨、毒液、毒草を投入して煮立たせて……」
適当な大きさの鍋に液体状の素材と毒草、調味料を投入、煮立たせ、スープのようにする。
で、ある程度灰汁を取り除いてから、一度冷ます。
「はい、肉を投入して、『灼熱の邪眼・2』」
冷めたところで糸で縛った肉塊を投入。
『灼熱の邪眼・2』も使いつつ、煮込んでいく。
「……。これ、チャーシューやな」
「使っているのは豚じゃなくて、馬と蜘蛛でチュし、煮立たせるのに使っている液体は普通のものとは程遠いでチュけどね」
「ちなみにゼンゼとマントデアの夕飯用に、毒液を含まず、適当なカース肉で作ったバージョンも同時進行で製作中よ」
「ジュルリとしか言えへんわぁ……」
と言う訳で、今回の『淀縛の邪眼・1』を強化するための料理の元はチャーシューである。
いい感じに呪詛を肉の方へと集められているので、たぶん、上手くいくだろう。
「ではっと」
さて、いい感じに煮えた。
なので、私は適当な皿に肉塊を乗せると、紐を切って外し、触手も切って中の肉が見えるように開く。
うん、色々と吸い取ったためか、肉塊は若干黒めであると共に、プルプルとした感じになっている。
「私は第一の位階より、第二の位階に踏み入る事を求めている」
では、呪って行こうか。
私は呪怨台に料理を乗せる。
「私は、私がこれまでに積み重ねてきた結果生まれてきたもの、力を淀ませ、縛り上げる力を扱う生ける呪いたちの断片、己の行動の軌跡を残す呪い、それらを知り、統べる事で歩を進めたいと願っている」
黒色の幾何学模様が生じると共に、四方八方へと蜘蛛の糸のような物が伸びていく。
誤って触れてしまったらしいゼンゼがへたりこんでいるのは……まあ、どうでもいいか。
「私の淀みをもたらす黒の眼に変質の時よ来たれ。望む力を得るために私は淀みの呪いを食らう。我が身を以って与える淀み、苦難、束縛を知り、喰らい、己の力とする」
それよりも仕上げだ。
私は『七つの大呪』にも干渉して、目的の物が出来上がるように念を込めていく。
「どうか私に機会を。漆黒の視線を糸とし、縛り上げ、切り払われてもなお残って縛り続ける。終わらぬ輝きを得た淀みの邪眼を手にする機会を。raelc『淀縛の邪眼・1』」
最後の言葉と共に、私は各種呪法を乗せた『淀縛の邪眼・1』を撃ち込む。
思えば、『呪法・方違詠唱』付きの『淀縛の邪眼・1』を撃ち込んだ機会はそんなになかった気もするが……まあいいか。
で、そんな私の思考とは関係なしに、邪眼術の発動に合わせて周囲の呪詛の霧も呪怨台の上に向かって流れ込んでいく。
「出来たわね」
「でチュねぇ」
「見学が毎度ながら命がけやなぁ……」
そうして出来上がったのは……うん、成形肉で作られた黒っぽいチャーシューと言う表現が一番合っているだろう。
では、いつものように鑑定をしてみる。
△△△△△
呪術『淀縛の邪眼・2』の黒煮肉
レベル:35
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:19
大量の呪いが詰められた肉の塊。
覚悟が出来たならば、食べて胃に収めるといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、試されるのは覚悟だけではなく、君自身の器もである。
さあ、よく噛みながら食べるといい。
▽▽▽▽▽
「では、いただきます」
私は箸を手に取ると、黒煮肉を割るために、軽く力を込めて閉じていく。
するとそれだけで肉の内側から大量の肉汁と良い香りを撒き散らしながら、ほとんど抵抗なく割れていき、少し白っぽいが鮮やかな桜色の肉が姿を見せる。
「モグモグ」
味は極上。
舌に乗せただけで溶けるなんて事はないが、噛めば噛むほどに口の中が肉の旨味とそれを引き立たせるような香草の味わいで満たされて行く。
そして、飲み込み、胃に収めれば、呼吸の度に胃の中から沸き立つ香気が嗅覚を奥から攻め立て、体の外へと突き抜けていく。
ああ、これは拙い。
実に拙い。
あまりにも美味しすぎて、私の思考が淀み、縛り上げられていく。
美味しすぎるが故に考えが鈍るとは、なんて罪な味なのだろうか。
「モグモグモグモグ」
本音を言えば、この味を何時までも味わっていたい。
が、私の目的は賞味にあらず。
故に私は黒煮肉を食べ続け……気が付けば精神世界へと移動していた。
07/12誤字訂正
07/13誤字訂正




