587:4thナイトメア3rdデイ・トランス-3
「さて、早速始めましょうか」
「やり方はさっきのマントデアはんの時と同じやな」
「ええそうよ」
私はザリチュのつばを掴んで軽く引っ張る。
そして、ザリチュは化身ゴーレムを操って、ゼンゼの呪詛薬として作成中の液体が入った容器をゼンゼの呪怨台へと持っていく。
既にゼンゼは呪怨台の前に真剣な表情で正座しているので、後は私の技術とやる気次第だろう。
「では……」
「置くでチュ」
「ん。しっかり念じるわ」
化身ゴーレムの手で呪怨台に容器が置かれた。
すると直ぐに呪詛の霧が集まってきたので、私はマントデアの時と同じように『七つの大呪』の活性化と制御、ゼンゼの意思を反映させやすいように工夫をしていく。
「xif、pots、dloh、peek、tnatsnoc、ytinrete、nwonk、edepmats、hturt」
ゼンゼの呪詛薬になる液体の中には、幻惑の狐呪の尻尾が複数本入っている。
だからそれを七本の尻尾になるようにまとめ上げていく。
そして、その七本の尻尾に呪いを付け加えるように、鼠毒の竜呪の尾と欺瞞の蝗呪の死体に含まれている呪いを抽出して、注ぎ込んでいく。
で、そうして作り上げた七本の尻尾の呪いを今のゼンゼに合うように、すり合わせていく。
まあ、マントデアと違ってゼンゼの呪いは分かり易いし、ゼンゼ自身も呪いの扱いに長けている方なので、この部分については私は本当に補助をするだけだった。
「さあ、一時ではあるが、我が友人となったゼンゼの魂に相応しき新たな呪いを授ける結晶よ。我が熱を以って、我らの前に来たれ!」
「……」
「完成でチュ」
「外から見ているとこうなるんだな」
やがて呪詛の霧は呪怨台の中心へと飲み込まれていく。
そして、霧の中から現れたのは、七つの尾を有している金色の勾玉だった。
纏っている呪詛の濃ささえ考えなければ、宝飾品としても通用しそうな見た目である。
「出来たわね。じゃあ、鑑定しましょうか」
「せやな」
「ちゃんと鑑定しないと、何があるか分からないでチュからねぇ」
「まあ、俺のも使い方を間違えたら、効果を発揮しない奴だったしな」
では、鑑定である。
ゼンゼが手に取ったものに全員で『鑑定のルーペ』を向ける。
△△△△△
『虹霓竜瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『九尾新手魔纏』
レベル:35
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
『虹霓竜瞳の不老不死呪』が作り出した、自在に動く七つの尾の力を得ることが出来る呪詛薬。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
胸元に押し付ける事で使用できる。
使用すると、呪い『九尾新手魔纏』を恒常的に取得し、異形度が9上昇する。
呪い『九尾新手魔纏』:狐の尻尾×7、尻尾の伸縮と操作、異形偽装のメリットを有するが、相応のデメリットも存在する。
注意:服用では効果を示さない。
注意:プレイヤー名『ゼンゼ』以外のプレイヤーが使用しても、効果は示さない。
注意:使用した場合、『不老不死』の呪いを喪失し、キャラクターをロストする可能性がある。
注意:使用したプレイヤーはリアル時間で24時間の間、『虹霓竜瞳の不老不死呪』の呪詛薬と付くアイテムを使用する事が出来なくなる。
▽▽▽▽▽
「何でやろう。名称に微妙に不穏な気配があるんやけど……」
「くびあらってまて、とも読めるな。俺の『大雷卵頼来太』はよく見ると回文だったが……」
「あー、なんでかしらねー……名称には特に拘りはないから、自動生成に任せているはずなんだけど」
「邪念でも混ざったんじゃないでチュアアアアァァァァァ!?」
とりあえずザリチュは抓った。
で、鑑定結果だが、名称以外は問題なしだろう。
その名称にしても、そうとも読めるだけで、普通に読むなら、『きゅうびあらてまてん』だ。
何処も問題はない。
無いと言えば無いのだ。
「ま、使うわ」
ゼンゼが自身の胸元をはだけさせ、勾玉を押し付ける。
すると勾玉はゼンゼの中に抵抗もなく沈んでいった。
「ぴょっ!?」
「「「ぴょっ?」」」
「ちょま、なんやのこれ、苦痛系やと思っていたのになんか変な感覚が……!? アカッ、これはアカンて!? ウチはそういう身なりやけど、そっち方面の趣味はな……アッーーー!?」
そして、妙な声と共にゼンゼの尻から新たに七本の狐の尻尾が勢いよく伸びてきて、形容しがたい顔をしているゼンゼは前のめりにへたれこんだ。
「ぴょご……おごっ……これ、色々アウトやろ……」
「残念ながらセーフなんでチュよねぇ。は、ざりちゅは何を!?」
「運営ぇ……首洗って待ってろや」
「フラグ回収乙?」
「そうなる……のか?」
マントデアと違って随分あっさりと終わったが、まあ、マントデアと違ってゼンゼの異形度上昇はカース化を伴わないもの。
簡単に終わってもおかしくはないのだろう。
「ちなみに新たに加わった呪いの調子は?」
「……。使いこなすにはそれなりの時間がかかると思うわ。ちゃんと意識せえへんと、混線してまう」
で、肝心の新たな体の調子だが……悪くはないようだ。
ゼンゼの背後になびく九本の尻尾が、ゆっくりと伸び縮みをしたり、腕あるいは鞭のように曲がったりしている。
使いこなすには時間がかかりそうだが、まあ、自分で望んだ物なので、そこは自分で頑張って欲しい。
「異形偽装ってのは?」
「んー……ああなるほど。尾を絡めて縮めると、勝手に一本の尾に見えるように偽装してくれるみたいやな。これでNPC相手には異形度が下がったように見えるんやな」
「へー、なるほどね」
なお、正体を知っているのもあるだろうが、私の目には尻尾九本分の呪いに別の呪いが混ざっているのが見えている。
偽装は偽装であって、絶対に誤魔化せると言う訳ではないと言う事だろう。
「さて、これからどうするでチュ?」
「んー……ウチはちょっとこの場で尾の扱いの習熟に専念するわ。慣れんと、歩くのも大変そうやし」
「俺もちょっと外を歩いてくるか」
「これはもう、今日は戦闘は無しと考えた方が良さそうね。じゃ、そういう事で各自動きましょうか」
これでマントデアとゼンゼに対する私の手助けは終わり。
では、此処からは私の強化と、ザッハークに盛る呪詛薬の作成に専念するとしよう。
07/11誤字訂正
07/15誤字訂正