586:4thナイトメア3rdデイ・トランス-2
「さて、一応鑑定ね」
「そうだな」
「せやなぁ」
「さて、どうなっているでチュかね?」
マントデアが白く細い枝に付いた、電光を纏うカマキリの卵のような物体を手に取る。
そして、その物体に対して私たちは揃って鑑定を行ってみた。
△△△△△
『虹霓竜瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『大雷卵頼来太』
レベル:35
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
『虹霓竜瞳の不老不死呪』が作り出した、雷の巨人の力を得ることが出来る呪詛薬。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
枝先についているメレンゲ状の物体が呪詛薬の本体となる。
服用すると、呪い『大雷卵頼来太』を恒常的に取得し、異形度が7上昇する。
呪い『大雷卵頼来太』:巨大化、皮膚強化、筋肉強化、骨格強化、劣竜肉、電撃属性強化、虹霓竜瞳の呪血盾のメリットを有するが、相応のデメリットも存在する。
注意:メレンゲ状の物体を一口で食べなければ、効果を示さない。
注意:プレイヤー名『マントデア』以外のプレイヤーが使用しても、効果は示さない。
注意:服用した場合、『不老不死』の呪いを喪失し、キャラクターをロストする可能性がある。
注意:服用したプレイヤーはリアル時間で24時間の間、『虹霓竜瞳の不老不死呪』の呪詛薬と付くアイテムを使用する事が出来なくなる。
▽▽▽▽▽
「は? なんか変なのが……いや待って、それ以前に今のマントデアの異形度は……」
「なるほどな」
鑑定結果を見る限り、ほぼ予定通りのものが出来た。
だが、予定通りにいかなかった部分が一つだけあり、しかもその一つに問題しかない。
とにかくマントデアがこのまま服用するのは拙い。
そう判断した私はマントデアが服用するのを止めるべく、顔を向けようとした。
「よっと」
「!?」
「あ、食べたでチュ」
「躊躇いなく行ったなぁ」
が、その前にマントデアは枝ごと口の中に呪詛薬を入れて、まとめて噛み砕き、飲み込んでしまっていた。
「マントデア!? ちょっ、想定外の呪いが含まれていたから、私としては止めたかったんだけど!?」
「虹霓竜瞳の呪血盾って奴だな。名称からしてタルに関わりがありそうな呪いだが、さてどんな呪いなんだろうな?」
「確定カース化とキャラロストの危険性は!?」
「前者は別に問題があるものじゃないだろ。後者は元から覚悟の上だ。そろそろ来そうだな」
くっ、マントデア自身が覚悟を決めてしまっているのなら、私にはもう黙って見守るしかないか。
こうなれば、マントデアが自分を保ったままカースと化すか、自分を失うか、どちらにせよ未知なる光景を見る事に専念する他ない。
楽しみではあるが、それと同じくらい不安でもある。
まさか、熱された容器を運ぶ際に僅かに受けたダメージと、それに伴う血の付着を原因として、こんな事になるとは……万が一を考えてゼンゼの呪詛薬を後回しにしたのが裏目に出たと見るべきか、いやまだ虹霓竜瞳の呪血盾がマントデアにとって極めて有用な呪いであるかもしれない。
そうであることを、不甲斐ない製作者である私としては願う他ない。
「むっ……これは……ぬぐう……ぐぐぐ……」
「さてどうなるんやろな」
「……」
巨人化に合わせて、マントデアが装備を緩める。
それと同時に一瞬マントデアの体が大きく震え、片膝をつく。
そして、手の一つを自分の胸に当てて、何かをこらえるようにしつつ、うめき声を漏らし続ける。
「ぐおっ!?」
次の瞬間。
マントデアの体が一周り膨れ上がった。
だが、体の中で肉だけが膨れ上がり、その全身の皮膚は裂け、骨は折れ、甲殻は弾け飛び、見るからに痛々しい。
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
マントデアが痛みをこらえるように絶叫する。
合わせて、裂けた皮膚の間を埋め合わせるように新たな皮膚が生じて、マントデアの全身を覆い尽くす。
崩れた骨が正しい位置に移動して、伸長し、より強固な形でくっついていく。
背中の触手が伸びると同時に、先端から放たれる電光は大きく輝きを増していく。
そして微かだが、私とマントデアの間に繋がりが生じたように感じた。
私が否と言えば、直ぐに切れてしまいそうな繋がりだが、確かに存在している。
恐らくだが、これが虹霓竜瞳の呪血盾とやらに関わるものだろう。
「ふうううぅぅぅ……ほおおおおぉぉぉ……はあああぁぁぁ……」
やがて変化が終わったのだろう。
身長が10メートル近くなったマントデアがゆっくりと立ち上がる。
「気分はどう?」
「全身に力が漲る感じはあるな。何と言うか生まれ変わったような気分だ」
立ち上がったマントデアはゆっくりと体を動かし、調子を確認していく。
「目的は果たせた感じなん?」
「果たせてるな。最大HPは大きく伸びているし、他の強化もいい感じだ。それと想定外のものについてもいい感じだな」
マントデア曰く、劣竜肉の効果で最大HPが2.5倍になったらしい。
私の劣竜肉よりも効果が落ちているのは、素材の質、入手過程、処理、その他諸々の影響だろう。
デスペナも少なくなっているので、問題はないようだが。
で、虹霓竜瞳の呪血盾だが……簡単に言えば、私の所有する邪眼術で与えられる状態異常に対して、耐性を得られるようだ。
私の味方であるときにしか効果を発揮しない、そこまで効果が高いわけではない、という欠点はあるが、私の邪眼術が強化される度にマントデアも強化されるのだから、相当強力だろう。
「ちなみにカース化に伴う称号はなんでチュか?」
「称号? ああ、強制表示になってるな。えーと、『大雷の不老不死呪』だそうだ」
「らしいと言うか、まんまと言うべきか、どっちやろなぁ」
「カース称号はそういう物よ」
なお、マントデアの称号『大雷の不老不死呪』の特徴として表記されたのは、圧倒的巨体と身体能力、それを補助する雷との事。
「さて、次はウチのやな」
「そうね。次は妙なのが付かないようにしないと」
いずれにせよマントデアの異形度向上は成功した。
次はゼンゼの呪詛薬だ。
07/10誤字訂正