582:4thナイトメア3rdデイ・フローダー-4
「『噴毒の華塔呪』からのnoitulid『石化の邪眼・2』」
私とザリチュの呪術によって、華塔呪がまた一本地面から姿を現わし、噛啜の蝗害呪の一匹が完全に石化した上で毒を撒き散らし始める。
で、伏呪付きの『石化の邪眼・2』のコストとして私は石化する。
「はい、治しますねー」
「ふぅ」
が、しばらく前にやって来たシロホワの回復呪術によって、私の石化は治される。
そして、満腹度回復の為に、満腹の竜豆呪を齧り始める。
なお、『噴毒の華塔呪』のコストである、HPや満腹度の最大値が低下する状態異常についても、近くに居る他の回復呪術持ちプレイヤーによって普段よりも素早く回復していく。
「これで13本でチュね」
「華塔呪についてはそうね。これでしばらくは様子見かしら?」
さて、欺瞞の蝗呪たちとの戦いだが……まあ、ある程度は順調に進んでいる。
華塔呪は無事に13本立って、噛啜の蝗害呪たちを地道に削っている。
『石化の邪眼・2』の伏呪も効果を発揮して、相手を削ってる。
他プレイヤーたちも、範囲かつ多段の置き攻撃を活用する事で順調に相手を叩いている。
寄ってくる雑魚カースの処理や、噛啜の蝗害呪の足止めも、被害者が出てはいるが、問題は無し。
「んー……」
「何か気になるんですか?」
「まあ、ちょっと気になる事はあるわね」
此処まで順調に進んでいるのは、この場に居るプレイヤーたちの実力が高いだけでなく、毒への耐性をほぼ全員が持っているのが大きいか。
どうして全員が毒耐性を持っているのかについては目を逸らす。
メジャーな状態異常だからとかだろうなー、凶悪な毒使いが居るとかではないだろうなー。
「気になる事ですか?」
「超大型ボスにしては弱すぎるとか、そんなところやないの? まあ、でも、その違和感は直に解消されると思うで」
「まあ、そうでしょうね。それにしても、噛啜の蝗害呪たちがダメージの押し付け能力を持っていなければ、もっと楽だったと思うんだけど……」
「せやなー」
それとどうして噛啜の蝗害呪たちがダメージの押し付け能力を持っているんだろうなー。
いったいどこの女狐さんが、そういう呪術の情報を提供したんだろうなー。
まあ、私の劣竜瞳を向けられた程度では、ゼンゼにとっては今更のようだが。
「っ!? コイツは!?」
「注意しろ! 相手の動きが変わるぞ!」
さて、そろそろ思考を真面目な物にした方が良さそうだ。
噛啜の蝗害呪たちは、その正体が明らかになった時よりも一回りか二回り小さくなる程度には数が削られている。
そんな噛啜の蝗害呪たちが奇麗な球体を形成した後に何度か震え……。
「「「分裂!?」」」
「「「ギブチチチッ!」」」
分裂した。
と言っても、噛啜の蝗害呪の集合体である球体から、同じ物で構成された球体が生まれるのではなく、球体から一体の大きな虎や鳥、亀のようにしか見えない個体が生じて駆け抜けていき、近くに居るプレイヤーに襲い掛かり始める。
「これはいったい……!?」
「オラァ! ん? こいつら普通に殴れるぞ!」
「普通に殴れる代わりに数がおかしいぞ!?」
「10……20……やべぇ! 早いところ、雑魚カース処理班だった連中を呼んで来い!!」
恐らくは欺瞞の蝗呪の能力。
噛啜の蝗害呪の集合体に、他のカースの皮を張る……だけではなさそうだ。
「キュオオオォォッ!」
「この鳥、火を噴いたぞ!?」
「ゲギャゲアガア!」
「こっちは毒のブレスだああぁぁ!」
「ヒュロゴロォ!」
「氷結武器の乱舞って、ちょっと待てぇ!?」
よく見れば、火を纏った真っ赤な鳥が炎のブレスを放っているし、岩のような鱗を持つトカゲが毒のブレスを吐き、氷で出来た武器を持った剣士の攻撃は切りつけたものを凍らせている。
つまり、欺瞞の蝗呪によって、見た目だけではなく能力もコピーしたと。
「うぉい!? 集まってくるカースの数が増えてんぞ!?」
「倒せ! とにかく敵の数を減らすんだ!」
「こうなれば、PTどうこうなんて言ってられないぞ!」
あー、もしかしなくても、これまでの戦闘中にこっちに仕掛けて来ていた雑魚カースたちも、正体は欺瞞の蝗呪の能力を受けた噛啜の蝗害呪だったのかも?
しかし、得られる素材はきちんとそのカース特有のものだったようだし……そうなると、こういう事かしら。
「っ!? 球体から出て来た雑魚カースを球体に戻らせるな! 出て行った時よりも大きくなってる!」
「「「!?」」」
欺瞞の蝗呪の能力は欺瞞の蝗呪の近くでないと解除できず、能力発動中はほぼ完全に化けているカースそのものになる。
で、噛啜の蝗害呪の能力は、与ダメージかキルスコアによって増殖する、と言うところか。
だから、球体から出てきたカースや、この場に寄ってくる雑魚カースは能力を行使し、こちらに被害を与え、ある程度稼いだら、欺瞞の蝗呪が居る集団に合流して、数を増やす……分かり易く言えば回復する、と。
「ま、地道に進めるしかないわね。etoditna『毒の邪眼・3』」
「せやなぁ。たぶんやけど、ある程度以上倒したら次の段階に進むんとちゃう?」
なお、雑魚カースたちの攻撃優先度はこれまでの行動に影響を受けるらしく、私の周りや華塔呪の周囲には敵が多い。
その分、他のプレイヤーも多いので、現状では戦力のつり合いは取れているが。
「本体に戻ろうとするカースは私が足止めします! なので、皆さんは攻撃に全力を!」
「おおっ!」
「流石は検証班の罠使い!」
「そっちが食い漁るなら、こっちは丸のみ!」
「すっげ」
「おっしゃ!トドメは任せろ!」
おや、I'mBoxさんとクカタチが本格的に暴れ始めたようだ。
アイムさんの罠によって、欺瞞の蝗呪に戻ろうとした雑魚カースは戻り切れず、処理されていく。
クカタチは……体を巨大化させて、カースを何匹も咥え、クカタチの体に入っていない部分を他プレイヤーが攻撃する事で、倒されていく。
「コケエエェェコオォォ!」
「ガンガン攻めていけ! これまでのうっ憤を晴らすようにな!」
「ふんっ! せいっ! 数が多いだけで斬り甲斐はないが……まあいいか」
そして、二人に影響されるように、実力のあるプレイヤーたちが暴れていき、雑魚カースの姿を取った噛啜の蝗害呪の数は確実に削られていく。
「「「ギチチュチュアアアァァ!」」」
やがて、これ以上数が減るのは耐えられないと判断したのだろう。
欺瞞の蝗呪を含むであろう球体に再び動きがあった。
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