581:4thナイトメア3rdデイ・フローダー-3
「蝗害……っ!?」
欺瞞の蝗呪と噛啜の蝗害呪、その名前が告げられた瞬間、プレイヤーたちの動きは大きく二つに分かれた。
「これはアカンわぁ……」
「ヤバいでチュね」
「マジかよ……」
私、ゼンゼ、化身ゴーレムと言った、蝗害に対する知識を有するであろうプレイヤーたちは大きく退いた。
知識がなくても、私たちの動きを見て何かを察したプレイヤー、慎重に事を進めようと考えたプレイヤーたちも同様に退いた。
「虫だと分かれば怖くなんざねえぇんだよおぉぉ!」
「ヒャッハー!」
「ぶちかましてやらぁ!!」
逆に、相手の正体が割れたのを好機だと見たプレイヤー、何も考えていなさそうなプレイヤー、あるいは危険であると理解しつつも情報収集の為に敢えて前に出る事を選んだプレイヤーたちは、球体のような形でまとまって、宙に浮かんでいる蝗の群れに向かって突っ込んでいった。
「「「ギブチチチチッ!」」」
「「「ギャアアアァァァッ!?」」」
結果は暗澹たるものだった。
こちらからの攻撃はまるで闇に飲まれるかのように蝗の群れに飲み込まれ、効果を示したようには見えなかった。
そして、蝗の群れに飲み込まれたプレイヤーは一瞬で全てのHPを奪い取られ、死に戻ったのだから。
「まったく、蝗害とはとんでもない物をモチーフにしてきたわね……納得は行くけど」
何が起きたのか?
恐らくだが、こちらからの攻撃はヒトテシャとの戦いで『ユーマバッグ帝国』が使っていた呪いと同じような物を利用する事で、噛啜の蝗害呪を構成する蝗の一体に集中させる事で、ほぼ無効化しているのだろう。
そして、攻撃面では、噛啜の蝗害呪による攻撃が全方位から多段ヒットして、襲われたプレイヤーのHPを削り取ったのだろう。
マントデアの皮膚を齧り取れる攻撃力と、基本的に千ちょっとしかないプレイヤーのHPを合わせて考えれば、これは当然の結果だろう。
ついでに言えば、相手の正体は確かにバレたが、それで相手の能力が下降したわけではない。
むしろ、正体を隠す事を考えずに能力を行使できるようになった分だけ凶悪化するかもしれない。
攻め方は結局分からない訳だし。
「まあ、『ユーマバッグ帝国』自体は確かに蝗みたいな連中やからなぁ……本当に納得は行くわぁ」
なお、何故蝗害をモチーフにされると危険なのかと言えば……蝗害は、生物が引き起こす現象でありながら、地震や津波と言った純粋な自然現象と同等に語られるだけでなく、黙示録のアバドンのように神話でも災害の類として語られるような存在だからだ。
ぶっちゃけると、個人的な意見としてはドラゴンよりも遥かに厄介な存在なのだ。
「で? どうやって攻めるでチュか?」
「そうね……」
現状では噛啜の蝗害呪は近づいたプレイヤーを一人ずつ襲って、死に戻りさせている。
つまり、遠距離攻撃の類は持っていない、と。
まあ、危険なので、私たちはゆっくりと後退しているのが現状だが。
「欺瞞の蝗呪だけ別枠でカウントされとる辺り、それがコアと言うか、そいつを倒したら終わりになりそうな気配はあるなぁ」
「だが、あいつらへのダメージは一体の蝗にまとめる事で、無かったことにされるんだろ? アレを全部削り取るまで攻撃し続けるってのはちょっと考えたくないんだが……」
マントデアがザリアたちと言うか、私の顔見知りが半分以上を占めるような集団を連れて、近づいてきた。
で、ゼンゼの言葉はたぶん正しい。
恐らくだが、欺瞞の蝗呪がザッハークに対応する個体であり、司令塔なのだと思う。
つまり、欺瞞の蝗呪を倒せば少なくとも、群れで活動する事は出来なくなるのではないかなと思う。
「と、鑑定っと」
「鑑定しても、噛啜の蝗害呪の方しか見れんけどなー」
「でしょうね」
情報が少しでも欲しい。
と言う訳で、噛啜の蝗害呪の鑑定を私は試みた。
結果はこんな感じ。
△△△△△
噛啜の蝗害呪 レベル30
HP:666/666
有効:毒、灼熱、出血、小人、巨人、石化
耐性:沈黙、干渉力低下、恐怖、乾燥、暗闇、魅了
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
HPが獣の数字なのはまあいいとしてだ。
耐性は割と極端な感じか。
後、私の『鑑定のルーペ』では仕様上見えないが、クカタチの話からして地形ダメージは無効化されるはず。
となると……毒と石化が効くなら、試してみるか。
「ザリチュ」
「準備は完了しているでチュよ」
「じゃあ、やるわよ。『噴毒の華塔呪』」
「「「!?」」」
「普通にカースを呼び出したわね……」
「今朝習得した奴や」
「毒と乾燥に耐性がない奴は離れておけよー」
地面から華塔呪が出現し、周囲の空間に呪いを放ち始める。
噛啜の蝗害呪たちには乾燥は通らないが、毒は通る。
毒は地形ダメージの類ではないし、華塔呪の毒は一度の付与量は少ないが、次から次へとやってくるので、押し付けるのにも限度がある。
つまり、この場で最も有効な攻撃手段と言えるだろう。
「ついでに、目8個分の……noitulid『石化の邪眼・2』」
「「「!?」」」
「想像以上にエグイっチュねぇ」
「石化させた相手を自動攻撃砲台に変えたんですか……」
「なるほどなるほど。流石はタルさん」
続けて私は伏呪付きの『石化の邪眼・2』を発動。
私の体が幾らか石化するのと引き換えに、噛啜の蝗害呪を構成する蝗の一匹が石と化し、地面に落ち、自身の周囲一帯に毒をばら撒き始めた。
こちらも華塔呪と同じで、条件を満たす度に周囲へ攻撃するものなので、相性は悪くないだろう。
「ふう。とりあえずこれで私は一時待機ね」
「体が半分くらい固まっているでチュからねぇ……あ、華塔呪を増やすのは適度にやって欲しいでチュ」
「分かったわ」
非生物を自動攻撃砲台にする『噴毒の華塔呪』。
生物を自動攻撃砲台にする『石化の邪眼・2』。
どちらも昨日の内に入手したものだが、活用の機会があって何よりである。
「なるほど。つまり、範囲、多段の置き攻撃が正解と言う事か! トキシックフォッグ!」
「逃げられないように囲みます! 土の壁よ!」
「うわっ! いつの間にか雑魚カースがまた寄って来てんぞ! 処理に向かう!!」
「最悪肉壁となってでも動きを止め……ぬぐあぁ!?」
で、私の攻撃に活路を見出したのか、プレイヤーたちの動きが変わった。
毒の霧や何かしらのダメージ効果がありそうな雲が設置され、噛啜の蝗害呪たちの逃げ場を奪うように壁が立てられ、この状態を維持出来るように他のプレイヤーたちが支援をする。
この行動によって、噛啜の蝗害呪たちの数は少しずつ、けれど確実に削られて行った。
07/05誤字訂正




