579:4thナイトメア3rdデイ・フローダー-1
「ザリア、私たちも参加して大丈夫?」
「タル、参加しても大丈夫と言うか、特に誰が音頭を取っているわけじゃないから、問題はないわよ」
欺瞞の劣竜呪の周囲には千人を超えるプレイヤーが集まっていた。
で、私たちがやってくると、見知らぬプレイヤーたちはザリアの下に私たちを誘導してくれたので、現状について尋ねる。
「「「ーーーーー!」」」
「ギャアアアァァァッ!?」
「雷うぜええぇぇ!」
「ガッガッガアァ」
「とっとと降りてこいやこの糞蜥蜴ぇ!」
「どんどん攻撃をぶち込め! 地面に這い蹲らせろ!」
「「「ゲギャアゲギャアゲギャア!!」」」
「鳥がまた増えて来たぞー!」
「混乱で、体が、勝手にぃ!?」
「「「ーーーーー……」」」
「周囲の森からまたカースがやって来たぞ!」
「近接組! 処理頼んだぞ!!」
ザリアに言われて改めて周囲を見てみたが……まあ、確かに混迷を極めている感じだ。
破盾の雷雲呪の落とす雷に撃たれて、大ダメージを受けるプレイヤーが何人も居る。
欺瞞の劣竜呪は驕った笑みを浮かべて、優雅に宙を舞っている。
困惑の鳥呪の叫び声や痰による攻撃を受け、混乱状態になり、他のプレイヤーを襲うプレイヤーも多い。
そして、これだけの数のプレイヤーが集まっているためか、周囲の森や草原などから、どんどん雑魚カースが集まってきて、こちらへ攻撃を仕掛けてきている。
うん、やっぱり混迷を極めている。
「『光華団』や『エギアズ』は……」
「居るけど、自分たちの周囲をまとめるのが精いっぱいという感じやなぁ」
「ザリアが指揮を執るのは……」
「この人数相手に指揮を執るのは流石に無理よ。顔見知り100人くらいなら何とかはなるけど」
「マントデアが敵を引きずり下ろすのは?」
「肝心の敵が居る高さが30から40メートルぐらいの高さ。俺でも直接攻撃は届かないな」
うん、現状把握。
人が集まり過ぎた上に、指示が通らず、肝心の敵に攻撃を通せない、だからまとまって行動できず、場当たり的に各自が別個に対応するしかない、と。
「ああそれと、欺瞞の劣竜呪だけど、何かしらの誤魔化し能力はやっぱり持っているみたいね」
「と言うと?」
「『エギアズ』と『光華団』の広範囲、高威力の攻撃が欺瞞の劣竜呪に直撃したはずなんだけど、効果があったように見えないのよね。それと、欺瞞の劣竜呪がさっき攻撃の為に下へ降りてきて、その時に私が攻撃を仕掛けたのだけど、手応えが妙だったわ。耐性で威力が削がれたり、弾かれたんじゃなくて、そもそも攻撃が当たっていないような感じだったわ」
「ふうん……」
欺瞞の劣竜呪は防御的な呪いを持っている、か。
まあ、何もおかしくはない。
欺瞞……人の目を誤魔化す、騙す、欺く、そういう意味を持つ言葉を名前に持っているのだから、その名前に相応しい能力を持っていてもおかしくはないだろう。
それと、劣竜呪の部分が本当なら、低位階の攻撃はほぼ通らないだろうから、欺瞞の呪いも合わせれば、相当の耐久力を持っていても不自然ではない。
「とりあえず私たちの目的を果たしましょうか」
「だな」
「せやな」
「でチュねぇ」
「目的ねぇ……まあ、私たちの邪魔にはならないから、問題はないか」
うん、後回しにしよう。
と言うか、このタイプの相手を攻略する時の基本は、取り巻きの処理からだ。
そして、私たちが特に回収したい素材を持っているのは、欺瞞の劣竜呪ではなく、破盾の雷雲呪の方である。
「宣言するわ。破盾の雷雲呪たち、貴方たちの体を灰色の蔓が覆う時、その身は大地と強く結びつけられることになるでしょう」
「おおっと、邪魔はさせねえぞ」
「タルはんが仕掛けるから、構えといてなー」
と言う訳で、準備開始。
これから起きる事を先に宣言し、灰色の呪詛の円を展開し、呪詛の種を宿した呪詛の星を射出する。
「thgil『重石の邪眼・2』」
「「「?」」」
で、『重石の邪眼・2』が破盾の雷雲呪の一体に命中したところで、私は全ての目を閉じ、隙だらけの姿を晒した上で、周囲のプレイヤー全員に聞こえるように言い放つ。
「ボーナスタイムよ。狩りなさい」
「「「!?」」」
破盾の雷雲呪だけを狙い撃つように灰色の蔓が伸びていく。
そして、灰色の蔓に絡め取られた破盾の雷雲呪は質量増大と重力増大の状態異常を受けて、ゆっくりとだが地上へと落ちてくる。
「おらぁ!!」
「狩れ狩れー!」
「ビギャアッ!?」
「金属製の武器で直接触れるな! 感電するぞ!!」
「それでもぶっ飛ばせぇ!!」
破盾の雷雲呪の被害がこれまで抑えられていたのは、強力な攻撃を受けない高さに居たからである。
それが直接攻撃の届く高さにまで降りてくれば……まあ、御覧の通りだ。
マントデアを筆頭に、これまでの仕打ちをやり返すように近接攻撃を仕掛け、仕留めていく。
「「「ゲギャアゲギャアゲギャア!!」」」
「鳥も降りて来たぞ!」
「ちょうどいい! 焼き鳥にしてやれ!」
「仲間思い、大いに結構!」
「ひゃっはー!!」
と、破盾の雷雲呪を助ける為だろうか?
困惑の鳥呪たちも降下してくる。
なので、当然の流れとして、困惑の鳥呪たちも攻撃をされ、撃墜されていく。
それだけでなく、欺瞞の劣竜呪も降下……と言うより、滑空に近い感じで降りてくる。
「あー、これ、もしかして、破盾の雷雲呪が高度を維持していたのかしら?」
「かもしれないわねぇ」
「反応が劇的やしなぁ」
まさかの欺瞞の劣竜呪自身は飛行能力を持たず、破盾の雷雲呪がその辺を担当していたパターンだろうか?
まあ、私以外のプレイヤーでも攻撃できる距離に来てくれるのは都合がいいので、問題はないか。
「ん?」
「ほうん?」
「チュア?」
そんな中で私、それと恐らくはゼンゼと化身ゴーレムも妙な物を見た。
欺瞞の劣竜呪の胴体が、おかしい形でブレたのだ。
07/03誤字訂正