578:4thナイトメア3rdデイ-2
「何これ……」
「『噴毒の華塔呪』第三形態とでも言えばいいんでチュかね? なんにせよ、この姿があるから、華なんて言葉が名前に付いたんでチュかねぇ……」
華塔呪の現在の高さは約3メートル。
それはつまり華塔呪の能力の範囲が半径30メートルに及ぶ事になる。
だがしかしだ。
「んー、これ、さっきまでの方が耐久力についてはあったんやないかなぁ?」
「そうだな。甲殻部分が裏返って花になったから、耐久性の低い機構部分が完全に露出してる。そこを狙われたら、案外あっさり折れそうだ」
「それについては否定しないでチュよ」
「まあ、そうよね」
この第三形態だが、攻撃範囲が広がった代わりに、甲殻に覆われていない茎の部分が発生してしまったため、全員が認識している通り、耐久力は下がっているだろう。
状況にもよるが、これならばわざわざこの形態にする必要があるとは思えない。
と言う訳で化身ゴーレムの方へ改めて視線を向ける。
「で、どうなの?」
「この形態だからこその能力は勿論あるでチュよ。華塔呪ー」
華塔呪が動き出す。
甲殻同士がくっついている花部分の根元が折れ曲がり、花の形を保ったまま、こちらの方を向く。
それはつまり華塔呪の高さが下がると言う事で、能力の範囲が幾らか狭まる。
だが、狭まるだけの価値はあったようだ。
こちらに向けられた花の中では、濃い呪詛の霧が球体を為し、その時を……発射される時を待っているようだった。
「撃つでチュ」
化身ゴーレムの言葉に合わせて、近くの木の方を向いた華塔呪の花から赤、黒、紫の三色が混じったビームが発射される。
ビームが木を貫くようなことはなかった。
どうやら直接的な破壊力を有するビームではないようだ。
代わりにだ。
「うわ、とんでもない勢いで毒と乾燥が溜まっとる……」
「乾燥は100で止まったが、毒は100を平然と超えていったな……」
「ふうん」
ビームを照射された木は毒と乾燥のスタック値を1秒ごとに10ずつ溜めていく。
マントデアの言う通り乾燥のスタック値は100で止まったが、毒のスタック値は200、300と溜まっていき1,000で止まった。
どうやらビーム照射による毒付与ならば、説明にあった制限を超えられるらしい。
「ちなみに射程は?」
「んー……水平撃ちで50メートルという感じでチュかねぇ」
「なるほど。いい感じね」
射程50メートル、これも素晴らしい点だ。
パッシブの付与の範囲よりも長いなら、敵が接近するまでは照射で、敵が接近したら甲殻の中に引き籠ると言う選択肢もあるし、後方からの支援射撃と言う選択肢もある。
「……。これ、周囲の砂を吸収する事で、更なる強化がされたりする?」
私は小声でザリチュに問いかける。
そんな私の視界には、華塔呪周囲の砂が少しずつ減っているのが見えている。
もっと言えば、周囲の呪詛を華塔呪が吸い込んでいる気配もある。
『あり得るでチュね。甲殻の増設、茎の伸長だけではなく、更なる能力の取得まであり得ると思うでチュ。まあ、ザリチュの命令は聞くでチュから、自爆させれば処理は出来るでチュよ』
自爆能力まで持っているのか、華塔呪。
あのサイズと質量で、毒をばら撒く能力を持つ華塔呪が自爆したとなれば……結構な破壊力を有していそうだ。
「検証はこんな物かしらね。そろそろ欺瞞の劣竜呪の方へ……」
とりあえず『噴毒の華塔呪』の仕様はだいたい分かった。
では、華塔呪を処理して、欺瞞の劣竜呪に向かうとしよう。
「いや、その前にお客様の様だ」
「まあ、見るからに砂漠化という形で地形変動をさせとるしなぁ」
「じゃあ、このまま実戦でチュね」
「なんか出てきたわね……」
そう思っていたのだが、地中から細長い何かが姿を現わす。
私は最初、現れたのはワーム……蚯蚓呪の類かと思っていたが、そうではないようだ。
「ニュルポ……」
「こいつは……蛸か?」
「蛸ね」
「蛸でチュね」
「萎縮の蛸呪、レベル36、弱点は……浄化以外は微妙っぽいなぁ」
現れたのは胴体部分が2メートル程度ある巨大な蛸……ゼンゼ曰く、萎縮の蛸呪だった。
どうやら、私と言うか、ザリチュと言うか、華塔呪と言うか……とにかく、この場で発生した砂漠化の影響を受けて、出現したカースのようだ。
その為か、既に華塔呪の能力範囲に入っているにも関わらず、乾燥の状態異常は受けていない。
見た目としては……黒と緑と黄色が入り混じった蛸と言う感じか。
「オクトパアアァァ!!」
「おおっと!」
先制攻撃として、萎縮の蛸呪が墨のような物を華塔呪に向かって吐き出す。
が、それは咄嗟に前に出たマントデアがその身で受け止め、防ぐ。
状態異常は……干渉力低下と恐怖が少しだけ入っているようだ。
「反撃でチュ!」
「せやなっ!」
「そうね。pmal『暗闇の邪眼・2』」
「ニュポウッ!?」
化身ゴーレムとゼンゼが切りかかり、私の『暗闇の邪眼・2』が直撃し、マントデアの腰のあたりから顔を出した華塔呪がビームを照射する。
「オクト……」
「特に何かをさせる気はないぞ」
「ニュポパアバアァアアァァ!?」
萎縮の蛸呪は直ぐに反撃を試みた。
が、マントデアが上から押さえつけ、更に電撃まで放つ事によって、その動きを完全に止める。
何と言うか……うん。
「私たちだと、レベル36相手でも割と容易ね」
「まあ、タンク、攻撃、デバフ、奇麗に揃っとるからなぁ」
「しかも、情報関係のアドバンテージもあるわけだしな」
「相性ゲーでもあるでチュけど、戦力差が酷いでチュねぇ」
「ニュポバアァァ!」
私たちの敵ではなかった。
と言う訳で、萎縮の蛸呪はマントデアに多少のダメージを与えた事を戦果として倒れ、私たちは死体回収後に華塔呪を自爆させ、欺瞞の劣竜呪の下へと向かった。
なお、華塔呪の爆発だが、半径十数メートル以内がキルゾーンになる程度には凶悪だった。
爆発による破壊、毒と乾燥による持続ダメージ、砂漠化による環境変化のばら撒きとは実にエグイ……。
07/02誤字訂正




