577:4thナイトメア3rdデイ-1
「チュー……チュー……問題を確認中ー……チュー……チュー……問題を確認中ー……チュー……チュー……名称登録中ー……チュー……チュー……登録完了でチュ」
「あ、終わった」
「本当に一晩かかるんやなぁ」
「それだけ強力って事だろうな」
さて、イベント三日目である。
今日の予定としては……
「今日は欺瞞の劣竜呪の討伐に参加して、二人が求める最後の素材を回収する。でいいのかしらね?」
「問題あらへんよ。まあ、ウチは念のために一度回収しておきたい、くらいのものやけど」
「俺も欺瞞の劣竜呪の素材が欲しいんじゃなくて、取り巻きである破盾の雷雲呪の素材が欲しいだけだな。タルは?」
「んー……欺瞞の劣竜呪の素材自体は色々と使える気がするのよね。だから討伐は真面目にするわ」
一応、欺瞞の劣竜呪の討伐がメインイベントである。
一応と付いてしまうのは、既に欺瞞の劣竜呪よりも基本スペックが上のカースを出現させる方法自体は確立してしまったからだろうなぁ……。
なお、掲示板で話を聞く限りでは、ザリアたち、『エギアズ』、『光華団』、検証班、その他最前線組はだいたい集まると聞いているので……まあ、一時間生き残れたら褒め称えよう。
明らかに過剰火力だし。
「とりあえず呪詛薬作成の基本が出来たら、『愚帝の暗き庭』に向かいましょうか」
「ん? 先にやってええんか?」
「大丈夫よ。とりあえずは煮込み続けるだけだから」
私たち個人のイベントとしては、ゼンゼとマントデアの為の呪詛薬作成があるだろうか?
と言う訳で、朝ご飯を食べ終えた私は、片付けを終えると、鍋の中に『ダマーヴァンド』の毒液を入れ、そこに二人が求めた呪いに関わる素材を入れる。
で、念のためにだが、鍋の監視と管理の為に眼球ゴーレムと腕ゴーレムを一体ずつセットしておいてから、私たちは『愚帝の暗き庭』に向かった。
「さて、欺瞞の劣竜呪に向かう前に確認しておきましょうか。ザリチュ」
「分かっているでチュよ」
『愚帝の暗き庭』に入った私たちの周囲には、時折灌木あるいは大きな岩が見える草原が広がっている。
欺瞞の劣竜呪の姿は……幸運なことに、一応見えている。
まあ、先に確認作業だ。
「まずはスペックだけど……」
「こんな感じでチュね」
まずはザリチュが新たに得た渇砂操作術の詳細を確認する。
△△△△△
『噴毒の華塔呪』
レベル:35
干渉力:130
CT:30s-30s
トリガー:[詠唱キー]
効果:周囲の砂を操ってカース『噴毒の華塔呪』を一体作成する。
カース化したゴーレム『噴毒の華塔呪』を作成する。
ゴーレムの性能の一部は着用者のステータスに依存する。
自身の高さ×10mの範囲内に居る生物に対して、1秒ごとに毒(1)と乾燥(1)を与える。
この効果によって与えられる毒と乾燥は、対象の状態異常の現在のスタック値が100以上の場合、それ以上付与されない。
変形機能あり。
注意:CTはザリチュが処理するが、トリガーは着用者が引く必要がある。
注意:使用する度に着用者に最大HP低下(100)、最大満腹度低下(10)、干渉力低下(1)が付与される。
注意:このゴーレムは『竜鱗渇鼠の騎帽呪』ザリチュの命令しか聞きません。
注意:このゴーレムは14体以上同時に存在できない。
注意:このゴーレムは呪詛濃度19以下の空間には存在できない。
▽▽▽▽▽
「……」
「いやー、どうしてこうなったんでチュかね?」
「ん? どないしたん?」
「タルが黙る時点で嫌な予感しかしねぇ……」
どうやらゴーレムはゴーレムでも、カース化したゴーレムであるらしい。
とりあえずマントデアとゼンゼの二人に毒と乾燥の状態異常に耐性があるかを確認。
二人とも問題がない事を確認した。
では、作り出してみよう。
「『噴毒の華塔呪』」
私は大きな岩を一つ削って砂にすると、その砂を対象として『噴毒の華塔呪』を発動。
対象となった砂が集まって、先が潰れた円錐……造石の宿借呪の殻そっくりの物体が出来上がる。
「うわっ、ゴーレムはゴーレムでもカースやんけ……」
「で、これが毒と乾燥の効果を持つ霧か」
噴毒の華塔呪から周囲の空間に向けて呪詛の霧が放たれる。
これに触れると毒と乾燥の状態異常を受けるわけだが……うん、周囲の草木に入り始めている。
では、一応鑑定。
△△△△△
『噴毒の華塔呪』 レベル36
HP:4,050/4,050
有効:無し
耐性:毒、灼熱、沈黙、出血、小人、恐怖、乾燥、暗闇、魅了、石化
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
この鑑定結果を見た時点で、私は『噴毒の華塔呪』というゴーレムが極めて使い勝手がいいゴーレムだと理解した。
なにせ、その表面は岩のような堅さを持つ甲殻であり、身を屈めればその陰に隠れることも出来る。
そして、本来の私の最大HPと同じHPを持つ。
となれば、盾として用いる事は可能だろう。
しかも、その場に居るだけで、半径10メートルほどの空間に毒と乾燥と言うダメージを加速させる要因を撒ける。
巻き込まれないように対策をしておけば、ソロでもPTでも使い勝手は良好だろう。
「ザリチュ。変形と言うのをお願い」
「分かったでチュ」
だが、『噴毒の華塔呪』……長いので華塔呪と呼ぶが、華塔呪の能力はこれだけではない。
変形機能とやらがあるらしいので、それを見てみるとしよう。
と言う訳で、化身ゴーレムが華塔呪に変形するように命令をする。
「ほー」
「おお、伸びていくな」
「へぇ、これは便利ね」
華塔呪の甲殻を上から見て八分割し、その内の四枚の甲殻が上へ伸びて行くようにスライドしていく。
そうなれば華塔呪の高さも必然的に伸びる事となり、限界まで伸びきると、華塔呪の高さは2メートル近い高さになった。
それはつまり、毒と乾燥をばら撒く範囲も半径20メートルに拡大したと言う事である。
「でもこれ、耐久は落ちる感じよね?」
「そうなるでチュね。まあ、甲殻部分じゃなくて、機構部分で受けたら被ダメージが増すのは当然でチュけど」
とは言え、範囲が広がるというメリットがある分だけのデメリットも存在する。
堅い甲殻で覆われている部分が少なくなるので、それだけ防御面は落ちるらしい。
「まあ、多少のダメージなら、周囲の砂を吸い上げて補修出来るんでチュけどね」
「へぇ。評価上昇ね」
「自然回復する障害物とかえっぐ……」
「狩るならきちんと単体攻撃で狩れって事かいな……」
なお、華塔呪の毒と乾燥は地形にも影響するらしく、先ほどから周囲の地面の砂漠化が始まり出している。
で、化身ゴーレムの言う通りなら、この砂漠化した地面の砂を吸い上げる事で、多少のダメージは回復できるらしい。
甲殻の位置の調整も出来るようだから、華塔呪の総合的な耐久力はかなり高そうだ。
「で、此処まではざりちゅの作った通りだったんでチュけどねぇ……」
「ん?」
「はい?」
「まだ何かあるのか……」
どうやら華塔呪には何かあるらしい。
私たち三人の視線が化身ゴーレムに向けられる。
「作成時に使ったカース素材のどれかが悪さをしたのか、それとも習得時に使ったカースの骨製の砂が悪さしたのか、何が原因かは分からないんでチュが、更なる変形が追加されたみたいなんでチュよねぇ……」
「「「……」」」
化身ゴーレムの視線が華塔呪に向く。
私たちの視線も華塔呪に向く。
私たちの視線を受けた華塔呪は、上方向にスライドさせた甲殻を、円錐の先端を支点とする形で裏返しはじめ……まるでラッパ型の花を先端に咲かせるような姿を取った。
07/01誤字訂正
07/02誤字訂正
07/09表現調整