575:4thナイトメア2ndデイ・メイキング-2
「で、結局何を作ったの? それと制限があったと思うんだけど?」
私の前に立っているのは、高さ2メートル近い塔。
構成素材は、造石の宿借呪の殻、樹系のカースの素材、他のカースの骨なども混ざっている。
見た目としては、造石の宿借呪の殻を垂直方向に八分割して、そのうち四つを上方向にスライド、内側に様々な機構が組み込まれた、機械仕掛けかつ折り畳み式の塔と言う感じか。
「作ったのは新しいザリチュのゴーレムでチュよ。制限については……何とかなるでチュよ。『存外、炭素が含まれている素材と言うのは多いでチュからねぇ』」
ザリチュは途中までは化身ゴーレムの口を使って喋っていたが、重要な部分については本体が直接私に語り掛ける。
まあ、『取り込みの砂』の型は非生物かつ有機物でなければならないと言う条件が漏れたところで、そこまで問題があるわけではないが、黙っていた方が問題はないだろう。
「ふうん……」
で、ザリチュが作った塔が制限的にどうかと言われれば……どうだろうか?
有機物と言うのは、つまるところ炭素を含む化合物だ。
なので問題となるのは、造石の宿借呪の殻に炭素が含まれているかだが……造石の宿借呪は迅雷の剣虎呪を石化させ、喰らい、殻の一部にした。
呪いによって石化しただけで構成元素そのものに変化がなければ、造石の宿借呪が迅雷の剣虎呪以外にも襲って同様の処理をしていれば、炭素が含まれていてもおかしくはない……か?
「失敗した時のペナルティとかあったっけ?」
「とりあえず素材は無駄になるでチュねぇ。後はどうだったでチュかねぇ……」
まあ、それなりに成功の目はありそうか。
造石の宿借呪の殻には炭素が含まれていそうだし、他の素材も問題はなさそうだ。
「なあ、これってもしかしなくてもザリチュの強化か?」
「ええそうよ。渇砂操作術で出せるゴーレムの種類を増やそうとしている感じ」
「なるほどなぁ。ゴーレムの種類が多彩と思っていたんやけど、増やせたんやなぁ」
「チュッチュッチュー。まあ、ざりちゅだからこそでチュけどね」
化身ゴーレムはマントデアに頼んで、塔を上からゆっくりと押してもらう。
すると塔は見た目としては、ただの石筍になった。
「じゃ、たるうぃ、もうちょっと待つでチュ。今から装飾を施すでチュから」
「分かったわ」
で、化身ゴーレムは石筍の表面を僅かに削り、削った部分に他のカースの素材を組み込む事で、装飾を施し始める。
こんな行為に意味があるのかって?
あるに決まっている。
こう言うのは手間暇をかけた分だけ、良くなるのを私は知っている。
「で、これってどういうゴーレムになるん?」
「さあ?」
「さあって……」
「だって、私が寝ている間に、ザリチュが勝手に作り始めて、完成させようとしているのよ。相談も一切なし。分かる訳がないわ」
「その辺は完成してからのお楽しみでチュよー」
ゼンゼの質問については……まあ、何となく予想は付いている。
そういう感じの代物が仕込まれているのは確認したし、塔と言う形状的にも能力の想像はしやすい。
「あ、たるうぃには砂の準備はお願いしたいでチュ」
「砂ねぇ……カースの骨でも砕けばいいかしら?」
「問題ないでチュ」
私は適当に箱を作ると、そこへ大量の骨を投入して、『風化-活性』と『飢渇の邪眼・2』と適当な道具を活用して、『取り込みの砂』の為の砂を作る。
様々なカースの骨を適当に砕いて砂にしているので、妙な副作用が生じるかもしれないが、まあ、それはそれでだ。
「出来たでチュ」
「分かったわ」
模型が完成したらしい。
と言う訳で、二人で協力して呪怨台に塔を乗せて、呪詛の霧の集まりに合わせてザリチュが念を込めていく。
で、それが終わるとカースの骨によって作られた砂の上に乗せる。
「では……『取り込みの砂』」
「おー」
「こうなるんやなぁ」
『取り込みの砂』が発動。
ゴーレムの型が砂に飲み込まれて行き、姿が見えなくなる。
「チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度1%でチュー……」
「「!?」」
で、型の取り込みが始まったことにより、化身ゴーレムの口から普段からは想像できないような機械的な呟きが漏れ始める。
その光景にマントデアとゼンゼはとても驚いているようだ。
「チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度1%でチュー……」
「あ、この状態、結構続くから」
「結構ってどのくらいなん?」
「んー、明日の朝に終わっていればいいくらいかも」
「本当に結構続くな……」
『取り込みの砂』による型の取り込みが終わるまでにかかる時間は、取り込むものの複雑さや、作ろうとしているゴーレムの性能によって大きく変わる。
今回の場合だと……化身ゴーレムほどではないだろうが、他のゴーレムよりは時間がかかるだろう。
「そんなわけで、私はザリチュを見守りつつ、此処で寝るまで適当にアイテムを作っているから、二人も適当に活動して来たら?」
「んー、せやなぁ。なら、そうさせてもらうわ」
「まあ、此処に居てもやる事がある訳じゃないし、夜狩りと行くか」
と言う訳で、私はアイテムの作成活動を再開し、マントデアとゼンゼも素材の収集活動に向かったのだった。




