574:4thナイトメア2ndデイ・メイキング-1
「寝すぎたわ」
「みたいでチュねぇ」
起きたら既に夕飯の時間だった。
と言う訳で、主食は各自が適当に用意する事にして、おかずについては強靭の虎呪の肉や、野菜型カースの体などから呪詛を抜き、安全にしたものを塩、香草、で味付けした上で炒めたものを出す。
調理時間は合計で10分ほどだが、かかった時間の割にそれなりのものが出来たとは思う。
「適当って何だと思うよ。ゼンゼ」
「かかった時間や調理そのものを見るなら、本人が適当と称すのは問題ないと思うで。マントデアはん」
「この程度は慣れれば片手間で出来るレベルよ」
では、いただきます。
品名はカースの肉野菜炒め、食べると満腹度回復に加えて、物理与ダメージの上昇や物理被ダメージの下降のバフも僅かながらに得られる料理になっている。
「モグモグ。そう言えば、他プレイヤーの食事事情ってどうなっているの?」
「んー、掲示板を見る限りでは、初心者プレイヤーが集めて来た普通のモンスターの肉や、ダンジョン所有者が『官僚の乱雑な倉庫』で回収してきた食料品を取引して、手に入れているのがメインな感じでチュね。カース肉を当たり前のように食べているのは、たるうぃたちのような最前線組の中でも、更に一部っぽいでチュかね?」
「ふうん」
なるほど。
他のプレイヤーたちの食事がどうなっているのか、少し気になってはいたのだが、案外何とかなっているようだ。
これで食事に困っているプレイヤーが居たら、同意の下で少々試してみても良かったのだが、まあ、試さなくても問題のない事柄だから、流してしまおう。
「タル。俺からもいいか?」
「何かしら?」
「さっきから、お前の呪怨台の上に乗せた鍋がガタガタ言い続けているんだが……」
「調理中、カース肉や野菜から抜いた呪詛を放り投げていた鍋やなぁ……あれ、大丈夫なん?」
「ああ、あれね」
マントデアとゼンゼの質問があったので、私は呪怨台の方へと意識を向ける。
呪怨台の上には寸胴鍋が乗っており、その中には『ダマーヴァンド』の毒液、強靭の虎呪の骨、夕飯の調理中に抜いた呪いが入っている。
で、何をやっているかと言えば……。
「超ローコストで、二つ以上の呪いを付与する呪詛薬を作ったらどうなるかなと言う実験と訓練よ」
「なるほどなぁ。そう言えば、昨日作っていた呪詛薬はどれも一つの呪いを付与する物みたいやったな」
「てことは、俺たちのための呪詛薬を作る訓練でもあるのか」
「そうなるわね」
二つ以上の呪いを付ける呪詛薬を狙って作る訓練であると同時に、出来るだけ楽に作ったら、どんな呪詛薬が出来るのかという実験でもある。
なお、ある程度の呪詛支配、『七つの大呪』を活性化させる原始呪術、恒常的に異形度を上げる呪詛薬になれと言う思念の送り込みぐらいはしている。
「あ、二人のを作る時は、もっと真面目に作るから安心しなさい」
「「……」」
「何で黙るのよ」
「そりゃあ、たるうぃが真面目に動くとなると、いい面もあれば悪い面もあるでチュアアアアアァァァァァッ!?」
はい、ザリチュは抓っておく。
ゼンゼとマントデアの二人は何も見ていなかった感じで顔を逸らしているので、まあ、私も見なかった事にしておくとしよう。
「「「ごちそうさまでした」」」
食事が終わった。
で、後片付けもして、それから呪怨台に乗せっぱなしにしておいた寸胴鍋の中身を確認してみる。
「んー、骨試験管入りの薬って感じかしらね」
「見た目は割と普通だな」
「呪詛が相当量漏れ出とるけどなぁ」
「とりあえず鑑定してみるでチュよ」
寸胴鍋の中身は、蓋つきの手のひらサイズの白い試験管一本だけになっていた。
どうやら、呪詛の霧が漏れ出ては戻っている試験管一本に、鍋の中身は圧縮されたようだ。
では、鑑定。
△△△△△
『虹霓竜瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『マッシブタイガーw』
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:19
『虹霓竜瞳の不老不死呪』が作り出した呪詛薬。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
服用すると、呪い『マッシブタイガーw』を恒常的に取得し、異形度が5上昇する。
呪い『マッシブタイガーw』:全身の皮膚に虎柄模様が出現、筋力強化、光合成能力、皮膚強化、最大HP上昇のメリットを有するが、相応のデメリットも存在する。
注意:服用する場合には、中身を一息で飲み干さなければ、効果を示さない。
注意:服用した結果、異形度が20以上になった場合、『不老不死』の呪いを喪失し、キャラクターをロストする可能性がある。
注意:服用したプレイヤーはリアル時間で24時間の間、『虹霓竜瞳の不老不死呪』の呪詛薬と付くアイテムを使用する事が出来なくなる。
▽▽▽▽▽
「えぇ……」
「何故こんな名前になったし」
「ぶっ、ちょまっ、草生えとるやんけ……アカ、アカン……ひふっ、はふっ……」
「デメリット不明でチュが、強いか弱いかで言えば強そうなのが、また困りものでチュよね」
ゼンゼが笑いすぎて呼吸困難に陥っているのはまあいいとして、いったい何がどうなればこんなことになるのやら、という感じである。
いやまあ、使った素材が素材なので、別におかしくはないのだけど。
「とりあえずマントデアたちの呪詛薬を作る時には、一度に作る必要はありそうね」
「ん? ああそうか。一度の服用で済ませないと、注意事項に引っかかって、次回イベントで回収する羽目になりそうだよな」
「それにしても『筋肉虎草』で良かったのに、なんで『マッシブタイガーw』なんでチュかねぇ……?」
「ごめっ……、あかっ……、なんか……、分からんけど……ツボに……ひひゅう……!」
とりあえずこの呪詛薬については適当に放置して、次回イベントの商品になってもらおう。
「で、ザリチュ。そっちの作業はどうなの?」
「チュッチュッチュー、もう少しでチュよ」
なので私は、塔型の何か……造石の宿借呪の殻を基にして、化身ゴーレムが作ったであろう模型へと目を向けた。
06/28誤字訂正