572:4thナイトメア2ndデイ・タルウィペトロ・2-2
「えー、普通のプレイヤーがこうして精神世界にやって来て、試練を受ける事で新たな呪術を習得したり、強化したりすることはほぼ無いと言っておくでチュ。こうなるのは極一部の例外的な実力を有する存在が、呪術の習得と強化をしようとするも、現実世界だけでは判定のための諸々が足りないからでチュ。視聴者の皆さんには、そこら辺を理解した上で、この先を見て欲しいでチュ」
「視聴者って誰よ……いや、何となく予想は付くけど」
精神世界にやってきた私がまず見たのは、虚空に向かって状況説明のような物をしているニセムラードだった。
なお、私の今回の姿は交流用エリア仕様の体に、初期装備である。
「まあ、そっちの予想通りでチュよ。普段は絶対に無しでチュが、今はイベント中で、多くの視聴者から何をしているのかを知りたいと言う要望があったでチュ。だから、精神世界や別次元だったとしても、放送していくでチュよ。時間の都合もあって、録画形式かつ見たい視聴者だけが見る形式にするでチュけどね」
「ふうん」
どうやら今回の試練については、視聴者も後から見るらしい。
しかし、試練の種類によっては、見ている側にとってはかなり退屈なものになる可能性もあると思うのだが……私の気にする事ではないか。
後、イベント中を条件にしていると言う事は、今回のが終わった後に別のを習得しようとしても、放送されるのだろう。
「それで肝心の課題は?」
「簡単に言えば石積みでチュ」
ニセムラードの背後に……いや、私とニセムラードの周囲が大小様々な形の小石が転がる中州のようになり、その中州を囲うように黒い油のような液体……いや、コールタールが流れ始め、独特の臭気が立ち込めて来る。
で、コールタールの川の向こう側には、円筒形の物体を背負った何かの姿が見えた。
造石の宿借呪に似ている気がする。
「そう、賽の河原なの」
「そうとも言うでチュねぇ。では、正確なルールを説明するでチュ」
「分かったわ」
うん、既に色々と嫌な予感がしてしょうがない。
とりあえず、今回は視聴者が居るので、真面目に話を聞こう。
「クリア条件は、この中洲の中に十段以上積まれた石の塔が存在する状態で、コールタールの川を渡り、中州から脱出する事でチュ。失敗条件は、十段以上積まれた石の塔がない状態で川を渡る。主観時間で24時間の経過、死亡、以上でチュ」
「石の塔ねぇ……」
私は足元の石を幾つか掴むと、地面がむき出しになっている場所で手早く重ねていく。
「これは? と言うか、端から順に何段の状態?」
「んー、一段、二段、三段、三段、二段、一段でチュねぇ」
「なるほど」
で、ニセムラードに見せてみた。
その結果として、地面に触れている石が一段目であり、長めの石を利用して、「入」の字の上に石を一つ置いたりすると、見方によっては三段積んでいるように見えても、二段判定になる。
ピラミッドのように、下の段が複数個で形成され、その上に石を重ねても問題ない。
外側が一つの大きな石で、内側に複数の小さな石だと、段数の判定は外側の物から数えた段数になる事から、一番上の石から地面まで、出来る限り少ない数の石を数える事で段数の判定をしている。
と言う事が判明した。
つまり、妨害の類が無いのであれば、適度な大きさの石を使って、ピラミッドのように石を積み上げてしまうのが確実なようだ。
「ちなみに石の補充は?」
「勝手にされるから安心するでチュ」
ニセムラードがそう言うと、川の上流から幾つもの石が転がってくる。
なお、中州に転がる石のサイズは、小さなものは私の掌に収まる程度だが、大きい物になると抱えて持つ必要がある程度には大きい。
「では、石を崩してから、スタートでチュ」
「……」
私が三段まで積んだ石の塔を尻尾で破壊してから、ニセムラードは消え去った。
ちっ、ちょっとだけ先に積んでおけてラッキーと言うのは許さないか。
「さて、まずは妨害の確認からね」
私はとりあえずコールタールの川に触れてみる。
粘性はかなり強く、臭いが、毒の類はないようだ。
また、石を積むのに利用させないためか、手に付いたコールタールは、川から手を出し、川から分離されると、3秒もしない内に乾いて消え去ってしまった。
色の都合上、川の底がどうなっているかは当然ながら見えない。
つまり、中州から移動する際には徹底的に邪魔をしてくる感じか。
転んだり、顔に付いたり、深みに嵌まったりしたら、酷い事になりそうだ。
「石を重ね合わせて行って……」
では次。
私はまず適当な場所で、石の塔を九段まで積んでいく。
こう言うと非常に難しそうに聞こえるが、土台を複数個の石で作ってよく、大小だけでなく形状も様々な石が揃っているこの場で石の塔を積むのはそんなに難しくはない。
適度な窪みがある石とか、最高だと言ってもいい。
「……」
で、ここで川の向こうに居る造石の宿借呪に似た影の位置を私は確認する。
影も私が九段目まで重ねているのは承知しているのか、これまでのように川の向こうで歩き回るのではなく、動きを止め、こちらを注視するような状態になっているのが、複数体居るようだ。
なので私は自分の位置を調整した上で、十段目の石を置く。
「とうっ!」
直後、私は全力で、予め見当を付けておいた方向に向かって跳んだ。
「「「ーーーーー!」」」
同時に、動きを止めた影たちから液体のような物が発射されて、十段目の石が置かれた石の塔に直撃する。
「なるほど。これ対策をした上で、塔を建てろと言う事ね」
「「「ーーーーー……」」」
液体が直撃した石の塔は壊れていない。
が、代わりに十段あった石の塔は、全ての石が一体化する事によって、一つの塔状の大きな石になっていた。
さて、これは何段と判断されるのか?
決まっている。
これは一段の石の塔だ。
「壊すんじゃなくて、固める方向での賽の河原とはね。まあ、どっちも確かに条件は満たせていないわね」
私は一段となった石の塔の天辺辺りを押して倒すと、どう対策をするか考え始めた。
06/26誤字訂正
06/27誤字訂正




