571:4thナイトメア2ndデイ・タルウィペトロ・2-1
「えーと、これとこれは切り離して、これはシダで包んでおいて。これは適当な道具に加工しちゃって……」
私は化身ゴーレムの設置してくれた眼球ゴーレムの視界を介して、化身ゴーレム、マントデア、ゼンゼ、加えていつの間にかやって来たらしい数名のプレイヤーたちによる合同戦線と、鮫型蝋燭のカース……正式名称を導渡りの蝋燭呪と言うカースとの戦いを見る。
戦況は……現状だと五分五分。
導渡りの蝋燭呪が周囲の地面に蝋燭の海を形成し、その海を自由自在に……表面上は繋がっていないように見える蝋燭の海まで含めて、泳ぎ回りながら、奇襲と離脱を繰り返している。
「これはゼンゼから受け取った素材だから下処理をしておく。こっちはマントデアから受け取った素材だから分けておく。蜘蛛呪と羊呪の素材は適当に切り分けてっと」
と、これだけ聞くならば導渡りの蝋燭呪の能力は厄介そうに見えるが、どうやら導渡りの蝋燭呪が泳げる蝋燭の海には火が灯っていて、ある程度は液体である必要があるようだ。
そして、この性質は既に化身ゴーレムたちは理解しており、一時的に組むことになったプレイヤーたちと共に、蝋燭の海そのものを縮小するように行動と攻撃を行っている。
これならば、何とかはなりそうだ。
「さて、本命ね。造石の宿借呪の死体を出してっと」
と言う訳で、私は素材の処理を終えると、導渡りの蝋燭呪との戦いを眺めつつ、『官僚の乱雑な倉庫』に移動して、この後に必要な素材を一通り回収してから生産用エリアに戻る。
で、戻ってきたところで造石の宿借呪の死体を袋から取り出す。
「はいはい、復活はさせないわよー」
造石の宿借呪の死体は、反魂の呪詛によって、ゾンビ化、復活しようとしたので、私は呪詛支配によってこれを阻止する。
更には風化の呪詛による風化現象で、死体が劣化しそうになったので、これもまた呪詛支配によって阻止する。
追加で造石の宿借呪の死体自体が周囲の呪詛を集めようとしたので、これも防いだ。
うん、いつもの事ながら、面倒くさい。
「石化液を回収して、造石の宿借呪の殻も回収してっと」
私は造石の宿借呪の口周辺にあった器官を弄繰り回して、触れた相手を石化させる液体を回収する。
また、ザリチュが使いたいと言っていたので、造石の宿借呪の殻を取り外して、脇に置いておく。
ちなみに石化液の鑑定結果はこんな感じだった。
△△△△△
造石の宿借呪の石化液
レベル:31
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:18
造石の宿借呪の体内で生成される液体。
触れたものを石化させる能力を有しており、この呪いを利用する事で、造石の宿借呪は食料と材料を確保する。
注意:触れると石化(50)の状態異常が付与されます。
▽▽▽▽▽
「うーん、凶悪ね……だからこそ欲しいのだけど」
私は石化液、瘴毒の油呪の粘液、『ダマーヴァンド』の毒液、垂れ肉華シダの膨葉、偶像ライムの果汁、各種有毒香草を混ぜ合わせる。
そして、ただ混ぜ合わせるのではなく、『石化の邪眼・1』と『風化-活性』も発動して混ぜ合わせていき……やがて混合物は小さな石灰質の石ころになる。
「よっと」
そうして出来上がった石ころを、腹を裂いた造石の宿借呪の中に投入。
その後、裂いた腹を適当な糸で縫って、閉じると、『ダマーヴァンド』の毒液と偶像ライムの果汁の混合物を入れた巨大な鍋の中に入れる。
で、普通のコンロの火と、『灼熱の邪眼・2』による加熱を行っていく。
「ん? 終わったみたいね」
『終わったでチュよー』
私が作業している間に化身ゴーレムたちと導渡りの蝋燭呪の戦闘は終わったらしい。
ドロップ品を仲良く分け合った上で、共に帰還用のゲートに入って交渉用エリアに戻ってくる。
「ただいまやでー」
「帰ったぞー」
「無事帰還でチュよ」
「お帰りなさい」
そして、何事もなく生産用エリアにまで戻ってきた。
でまあ、直ぐにマントデアとゼンゼは怪訝そうな顔をした。
「あー、何をやっているんだ?」
「調理のように見えるんやけど……何を作っているんや?」
「ああこれ? 『石化の邪眼・1』の強化準備。もうじき調理が完了して、呪怨台に乗せるわ」
「……。そうかぁ。これがタルしかーという奴なんやな」
「炎上(物理)とかやってたし、そう言えばタルの呪術はそう言う習得方法だったよな……」
「よし、出来たわね」
はい、調理完了。
殻の表面が真っ赤に染まった、見事な茹でヤドカリの出来上がりである。
殻の間から毒っぽい煙が漏れ出ていたり、目玉が石化していたりするが、問題はないだろう。
「あ、見ていてもいいけど、危険だと感じたら外に出ておいた方がいいわよ」
「まあ、普段通りなら、周囲に余波が来るでチュね」
「えっ、ちょっ、そんなに危険なんか?」
「お、おう。マジか……」
と言う訳で、マントデアたちに注意をした上で呪怨台に乗せる。
「私は第一の位階より、第二の位階に踏み入る事を求めている」
呪詛の霧はいつものように集まってくる。
「私は、私がこれまでに積み重ねてきた結果生まれてきたもの、石化を扱う生ける呪いの力、毒気を放つ油、人々を魅了する香り、それらを知り、統べる事で歩を進めたいと願っている」
「うぉい!?」
「うわっ、本当に体が!?」
ライムグリーンの幾何学模様が生じる。
マントデアとゼンゼに石化が及んでいるが、そちらは既に注意したので無視する。
「私の石化をもたらす石灰緑の眼に変質の時よ来たれ。望む力を得るために私は石化の呪いを食らう。我が身を以って与える苦悶の彫像を知り、喰らい、己の力とする」
「まっ、毒が!?」
「えっ、なんかレジストしとるんやけど!?」
ん? ああ、マントデアとゼンゼに石化以外の何かも生じているようだ。
まあ、私自身は装備の耐性で防げるので、問題はない。
「どうか私に機会を。命あるものも命無きものも石の中に封じ込めて、惹かれたものも害する。禍々しき輝きを得た石化の邪眼を手にする機会を。noitulid『石化の邪眼・1』」
最後の言葉と共に私は各種呪法を乗せた『石化の邪眼・1』を撃ち込む。
合わせて呪詛の霧が呪怨台の上に流れ込んでいき……そのタイミングで風化の呪詛の働きを阻害する事を強めておく。
経験値が削れていく感覚はあるが、それ以上に何となく、手を加えておいた方が良さそうだと感じたのだ。
で、呪詛の霧が晴れた後には、呪怨台に乗せる前よりもだいぶ縮んで、普通の伊勢海老くらいのサイズになった造石の宿借呪……いや、茹でヤドカリが乗っていた。
「はい、出来上がりっと」
「二人は……」
「い、生きてるぞー……」
「体が半分くらい石化しとるけどなー」
私は呪怨台から茹でヤドカリを降ろすと、いつものように鑑定をする。
△△△△△
呪術『石化の邪眼・2』の丸茹でヤドカリ
レベル:35
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:19
大量の呪いが詰められたヤドカリ。
覚悟が出来たならば、殻を割って、その身を食らうといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、試されるのは覚悟だけではなく、君自身の器もである。
さあ、見せつけるように食べるがいい。
▽▽▽▽▽
「そう言えばあれって、タルはん以外が食べたらどうなるんやろな?」
「とりあえず碌な事にはならないと思うぞ。タル専用に調整がされているだろうし」
「まあ、食べようとは思わない方が無難だと思うでチュよ。呪いの塊どころじゃないでチュし」
うん、問題なし。
と言う訳で、私は未だ石化状態によって動けなくなっている二人の前で頭と胴を掴み、割って、その身を食べ始める。
「腹、減ってくるなぁ……」
「臭いだけなら美味そうだからなぁ……」
「市場で探せば甲殻類は結構あると思うでチュよ」
ああうん、素材的に大丈夫かと思っていたのだが、普通に美味しい。
蟹やエビに近い味に、適度な甘みがあって、そこにライムの酸味が組み合わさる事で、普通に食が進む。
これほど美味しいなら、もう一匹くらい確保しておいても……いや、止めておこう。
既知な上にとても苦しい事が確定している石化凌遅刑を受けるのは嫌だ。
「ごちそうさまでした」
そうして無事に完食したところで、私の意識は失われ、精神世界へと移動していった。
06/25誤字訂正