570:4thナイトメア2ndデイ-6
「おっ、居た居た。ようやくの合流ね」
「時間がかかったでチュねぇ」
「ほんまやなぁ」
「まあ、それだけ距離が離れていたって事だな」
造石の宿借呪の谷から移動する事一時間ほど。
周囲にこれと言った障害物の無い平原で、私はようやく化身ゴーレムたちと合流することが出来た。
なお、合流までの戦闘で、これはと思ったカースは2種類。
投縄の蜘蛛呪と言う干渉力低下効果のある糸を投げつけて来る蜘蛛型カースと、恐慌の羊呪と言う恐怖効果を付与する叫び声を上げる羊型カースで、この2種類は1つずつ死体を回収している。
「そっちはどうだった?」
「特にこれと言ってヤバいカースには出くわさなかったな」
「せやなぁ。どのカースも普通のカースと言う感じで、この三人組なら特に苦戦もなく、という感じやったわ」
「ぶっちゃけ、たるうぃの立てた呪詛の柱で、雑魚カースが逃げ惑っていた時以外に危ない場面とか無かったでチュね」
「なるほど」
マントデアたちは此処まで特にこれと言った苦戦もなく、と。
まあ、それぞれがそれぞれに良さそうな素材は回収しているのだろうけど、回収したアイテムの報告義務がある訳でも無し。
自分だけで作業が済ませられる強化には使えても、私たちの共通目標や、自分以外の手を必要とする強化には使えない物ばかりなのだろう。
「んー、やっぱり試してみるべきかしらね?」
「まあ、試してみる価値はあると思うで。今日で二日目やけど、タルはんが出会った三種類のカース以外やと、欺瞞の劣竜呪くらいしか、基本スペックが足りている感じのカースはおらんようやし」
「そうだな。掲示板の方を見ていても、普通に探索していてやり合っていたんじゃ、一芸に秀でた素材が限度のように見える」
さて、今回のイベント『空白恐れる宝物庫の悪夢』だが、二日目となる今日までくれば、多少は見えてくるものがある。
まず、大きな部分として、今回のイベントは全体の底上げを図っている感じがある。
具体的には、初心者は『皇帝の明るき庭』で、中級者は『愚帝の暗き庭』で稼ぎ、他プレイヤーとの人脈作りや、生産活動の活発化などだ。
だが、全体の底上げであるからこそ、所謂最前線組にとっては、自分に適した呪いを持つカースが見つからないと、そこまで美味しいイベントではない。
ぶっちゃけると、『愚帝の暗き庭』のそこら辺に居るカースでは、最前線組にとっては基礎スペックが足りず、物足りないのだ。
「とは言え、破接の幻惑蟲呪は流石に止めておいた方が無難だと思うでチュけどね」
「まあ、アレはタルはん以外が戦ったらアカンカースやろなぁ……」
「見ただけで昏倒させられるから、勝負にもならねぇもんなぁ」
「私だってもう一度戦うのは嫌よ」
しかし私は例外……十分な基礎スペックを持つカースも見ている。
具体的には、破接の幻惑蟲呪、雷刃虎……正式名称を迅雷の剣虎呪、造石の宿借呪、この三種類のカースだ。
彼らの素材は、自分に適した呪いでなくとも、各種加工を施せば、色々と美味しい事になりそうな素材だった。
それこそ最前線組のプレイヤーが求めてもおかしくない程度には。
「一番簡単に呼び出せるのは迅雷の剣虎呪だと思うのよね。たぶん、私が呪詛の柱を立てれば、直ぐに寄ってくると思うわ」
では、そんな十分な基礎スペックを持つカースにはどうやれば出会えるのか?
私の仮説としては、中級者では出来ないような行動が鍵になるのではないかと思う。
例えば、『皇帝の明るき庭』や交渉用エリアから『愚帝の暗き庭』にゲートを介さずに移動するだとか、高濃度の呪詛の柱を立てるだとか、普通のプレイヤーが足を踏み入れない場所を念入りに捜索するだとかだ。
他にも特殊なアイテムを作成してお焚き上げするとか、特殊な儀式を行うとか、たぶん色々と方法があると思う。
「あー、素材的に興味はあるが、今は止めておこう。話を聞く限り、普通の平地で戦ったら、一方的にボコられかねない」
「せやな。やるなら一度戻って、素材を置いてきてからにするのが正解やろ」
「ま、そうよね。あの場所だから、雷の速度で移動されてもなんとかなりそうだったけれど、今この場で戦うなら、普通に強いのは確実でしょうし」
なお、この強力なカースを呼び出す手段があるかもしれないという話は、既に掲示板へと上げてある。
だって、その方が私たちにとっても美味しい素材が手に入るかもしれないからだ。
「で、何で三人はインベントリの中身を移し替えているんでチュか? それも全部たるうぃの方へと」
「何でってそりゃあねぇ?」
「一番安全かつ確実やしなぁ」
「どうせ検証するなら、これが最適だと思うんだよな」
それと、此処までの会話をしつつ、私たちは、今回の探索中にゼンゼとマントデアが回収した素材を、私の毛皮袋へと移し替え続けている。
理由?
これからやる事が、私以外にとってはそれなり以上に危険だからだ。
「じゃ、二人とも覚悟はいいかしら?」
「何時でもええで」
「ま、倒せるようなら倒して、回収してみせるから、俺たちの工房で待ってな」
「ああ、そういう事でチュか……」
私、ゼンゼ、マントデアの三人が頷き、化身ゴーレムが天を仰ぐ。
どうやら、何をするか気づいたらしい。
「じゃ、頑張ってちょうだい」
そして私は自分の背後に生産用エリアに直接飛ぶためのゲートを形成、その中に飛び込み、それから直ぐに門を閉じた。
「向こうの状況は?」
『たるうぃたちの予想通り来たでチュよ。全身が白い蝋に包まれて、頭の上に火が灯っている巨大な鮫みたいなのが』
「へー」
蝋燭の鮫呪とかそんな感じだろうか?
とりあえず私はゼンゼとマントデアから受け取った素材の復活阻止などの処理を始めた。