569:4thナイトメア2ndデイ-5
「ま、たぶんだけど何とかなるでしょう。『熱波の呪い』」
検討の結果、私は造石の宿借呪に挑んでも大丈夫だと判断した。
と言う訳で、まずは雷刃虎の石化凌遅刑中に解除していた『熱波の呪い』を再起動する。
ちなみに『貯蓄の呪い』によるHPストックはまだまだ問題ない。
「宣言する。造石の宿借呪、灼熱の星を降らせることで貴方を内側から焼き、茹で蟹みたいにしてあげるわ」
続けて『呪法・呪宣言』を発動。
この時点で私の事を知っているならば敵対行為かつ攻撃行動のようなものだが、造石の宿借呪たちに動きはない。
剣刃虎の放電が行われるまで静かだったことから、そうではないかと思っていたが、造石の宿借呪は直接的な被害が出るまではノンアクティブを貫くタイプのようだ。
「ezeerf、ezeerf、dloc、yllihc、eci、reicalg、wons、drazzilb、orez etulosba……」
『熱波の呪い』の影響もあって、既に火球のようになっている呪詛の星を生み出し、その星を谷の中で駆け巡らせながら、詠唱し、『呪法・感染蔓』以外の呪法を重ねていく。
「『灼熱の邪眼・2』!」
「……?」
そして、呪詛の星を造石の宿借呪にぶつけ、そのタイミングで『灼熱の邪眼・2』を発動。
だが、直ぐに効果を発揮する事はない。
私が全ての目を瞑る事で、『呪法・逆残心』の効果が始まっているからだ。
「さ、激しく燃え上がりなさい」
造石の宿借呪に向けていたネツミテを肩に回し、左手を前に向かってゆっくり伸ばし、目を開けると共に指を鳴らす。
「!?」
その瞬間、私の攻撃のターゲットになっていた造石の宿借呪が居る場所に火柱が立ち上った。
砂とコールタールの中に居た造石の宿借呪は火柱と共に打ち上げられ、火柱の中で一瞬もだえ苦しむもすぐさま絶命し、全身を脱力させる。
「抑制し……」
私はすぐさま『七つの大呪』に干渉して、未だ宙を舞っている死んだ造石の宿借呪の死体が風化したり、ゾンビ化したりしないようにする。
「「「ーーーーー!」」」
そんな私の行動と同時に、攻撃を受けていない造石の宿借呪たちが一斉に行動開始。
素早くその体を外気に接する場所にまで出してくると、口と思しき部分を私の方に向けてくる。
なるほど、造石の宿借呪は誰かがやられたら一斉にアクティブ化する程度には仲間意識あるいは危機意識が強いようだ。
その誰かがやられたらと言うのが、死んだらなのか、攻撃を受けたらなのかは分からないが、そんなものを気にする余裕はこの先ないので、無視する。
「『埋葬の鎖』!」
それよりも優先するべきは死体の回収、成果の確保と言う事で、『埋葬の鎖』発動。
乱数にも勝利して、造石の宿借呪の死体は無事に袋の中に納まった。
「からの離脱!」
「「「ーーーーー!!」」」
造石の宿借呪たちの口から一斉に石化効果を有するであろう液体が水鉄砲の様に……いや、散弾あるいは雨の様に放たれる。
対する私は自分の胴と胸に呪詛の鎖を絡みつかせると、上空に向かって一気に鎖を巻き上げる。
結果、造石の宿借呪の水鉄砲による被害は、足先に僅かに掠り、掠った部分が石化する程度で済んだ。
表示された状態異常も石化(1)なので、ほぼ被害なしと言える。
「よし、このまま脱出を……」
そう考えた私は、空中に支点があると言う誰かに見られたら突っ込まれそうな鎖を更に巻き上げつつ、背中の翅で羽ばたいて加速。
谷の外に向かって真っ直ぐに飛んでいく。
で、谷の底の方を向いている目が……うん、嫌な物を捉えている。
「「「ーーーーー……」」」
数匹の造石の宿借呪が一本の主が居ない石筍に集まっている。
石筍にも、造石の宿借呪にも大量の呪詛が集まってきていて、石筍の円錐に近い形も相まって、非常に嫌な予感と言うか、まさかそんな物を再現できるはずが何て思ったりもした。
なお、私が思い浮かべたものの具体的な名称を上げるなら、ロケットとか、ミサイルとか、その辺になる。
「退避いいいぃぃぃ!」
私は全力で飛び上がる。
同時に呪詛支配によって、谷底から私のいる場所までの間に分厚い呪詛の霧による壁も形成する。
「「「!」」」
「!?」
そして私が谷の外に飛び出て、呪詛の鎖の巻き上げによって、角度的に谷の中からの攻撃が不可能な場所にまで到達した瞬間だった。
それまで私が居た場所を、石筍が、勢いよく、底部から大量の水を噴出しつつ、突き抜けて行った。
で、突き抜けたそれはそのまま上空で弾け飛び……
「ひいいぃぃ!?」
『ちょっ、此処までやるんでチュかぁ!?』
爆発。
周囲一帯に破片を撒き散らす。
触れたものに毒を付与する破片が、目にも留まらぬ速さで、全方位に、だ。
「し、死ぬかと思ったわ……」
『さ、最後のはざりちゅも思わず声が出たでチュよ……』
幸いと言うべきか、持っててよかった『劣竜皮』と『遍在する内臓』と言うか、欠片の大半は表皮に突き刺さるだけで済み、それ以外のも致命傷には程遠かった。
「でもまあ、何とか無事脱出ね」
『でチュねぇ』
最後の最後まで油断ならない相手だったが、造石の宿借呪、何とか回収成功である。
『ちなみに、このタイミングで谷の底を覗いたらどうなるんでチュかね?』
「眼球ゴーレムで見てみましょうか」
ちなみにだが。
「『ひえっ』」
谷底の造石の宿借呪たちは谷の縁を監視しつつ、すぐさま次のミサイルを発射できるように既に態勢を整えていた。
近づけば石化凌遅刑、離れればミサイル爆殺、此処まで殺意に溢れたカースと言うのも、珍しいと思いつつ、私は慎重にその場を後にした。
宿借呪「侵入するくらいなら怒らんし、仲間とタイマンしている間も手は出さない。だが仲間を殺したなら殺す。無差別に手を出しても殺す。皇帝だろうが、官僚だろうが、カースだろうがぶち殺して宿にしてやる」
という感じのカースだったりします。