568:4thナイトメア2ndデイ-4
本話には人を選ぶ描写が存在します。ご注意ください。
「ぐっ……やってくれたわね……」
「グルル……」
速い。
谷の上に居た雷刃虎は空中に青白い稲光を残しつつ、文字通りの雷の速さで私に接近、攻撃を仕掛けたようだ。
幸いなのは、あまりにも速すぎるために必中攻撃と同等の扱いをされ、追加の呪いがなければ、私の皮膚を多少傷つける程度の攻撃力しかない事か。
「グルボッ!? ゴボッ!? グルル……」
「毒が36、恐怖が51、石化が10。結構入ったわね」
他にも幸いなことはあるか。
雷刃虎の体に生えている刃を攻撃に使ったおかげで、劣竜血が発動して、状態異常が入っている。
入ったスタック値からして、毒と恐怖に対する多少の耐性はあるが、石化への耐性はない感じで、耐性周りの情報が得られたのは大きい。
それと、この場の足場の大半が、ねばつくコールタールとサラサラとした砂と言う、間違っても良好な足場とは言えないのも好都合。
今も雷刃虎はコールタールに足を取られ、私への追撃を仕掛けたいが、直ぐには仕掛けられないと言う状態になっている。
「ガ……」
「ま、地道に……」
私が足を動かして、その場から移動しようとする。
それを見た雷刃虎は多少不安定ながらも、私に向かって飛びかかろうとした。
だが私は足を動かすよりも早く、背中の翅を密かに動かす事で移動を始めていた。
「ルッ!?」
「やっていきましょうか。etoditna『毒の邪眼・3』」
結果、雷刃虎の攻撃は空振り、私の横をすり抜けていき、コールタールに足を取られ、滑りつつ着地する事になる。
そこへ私の伏呪付きの『毒の邪眼・3』が入って、毒そのものは600に達した。
相手の動きが速すぎて『呪法・方違詠唱』以外は入れられそうにないので、まあ、こんな物だろう。
「ついでよ『熱波の呪い』」
「!?」
とりあえず滑っていく雷刃虎の進行方向上に『熱波の呪い』で作った燃え盛る呪詛の剣の群れを設置して、衝突させる。
ダメージなんてほぼ無いだろうが、嫌がらせぐらいにはなるだろう。
「グルルル……」
「さて、能力は推定だけど、雷速での移動かしらね。ただ、変電の鰻呪と違って、非実体系ではなさそうだけど」
私は『熱波の呪い』による壁を自分の周囲に張り巡らし、鎖の巻き上げによる高速移動を何時でも出来るように準備しつつ、身構える。
対する雷刃虎は全身に青白い電光を纏って、不安定な足場にしっかりと四本の足を置き、見るからに力を溜めていますと言う感じだ。
鑑定をするだけの余裕はないので、これまでに得た情報で仕掛ける攻撃は選ばなければならない。
相手の動きが速すぎるので、『気絶の邪眼・2』は合わせられない。
変電の鰻呪と違って実体があり、相応の筋力もあるので、『重石の邪眼・2』も駄目だろう。
一番効きそうなのは……『石化の邪眼・1』だろう。
耐性がなさそうだし、四肢の一本でも石になってもげれば、雷刃虎の戦闘能力は大きく落ち、私の勝ちは大きく近づく。
なお、チャージにかかる時間は1分である。
「グルアアアッ!」
「っ!」
そうして私が考えている間に雷刃虎が咆哮を上げる。
その咆哮に合わせるように、全方位に向けて電撃が放たれ、私の体も数本の雷によって撃ち抜かれる。
「まずっ……」
「グルッ……」
雷によるダメージそのものは控えめなものだった。
だが、意識が保てず、視界が暗転していく。
気絶の状態異常だ。
スタック値は……現時点で67、つまり、後6.7秒も動けない。
それだけあれば、雷刃虎は私に飛びかかり、身動きが出来ないようにした上で、嬲り殺しを始める事も可能だろう。
「っう!?」
が、気絶から解放された私の体に重圧感はなかった。
雷刃虎がコールタールに足を取られて、攻撃をするだけの時間が取れなかった?
そんな風に思いつつも、私は体勢を戻しつつ、雷刃虎の姿を探して全ての目を使い、周囲を見る。
「はい?」
雷刃虎は居た。
そして思わず疑問形の声を上げてしまった。
「えーと……」
うん、雷刃虎は居た。
全方位に気絶付きの電撃を放つという凶悪極まりない攻撃を放った場所にそのまま居た。
「グルッ!? グガァッ!?」
「「「……」」」
正確に言えば、四肢が蟹の鋏のようなものによって挟まれ、その場で身動きが取れなくなっていた。
蟹の鋏の出所は足場の下、白い砂やコールタールの中からだ。
「そう言えば、此処には造石の宿借呪と言う名前のカースが居たわね……群れで」
「グルゥ!? ゴ……ガ……」
「「「……」」」
雷刃虎の周りに石筍が集まっていく。
造石の宿借呪が収まっている石筍がだ。
そして、雷刃虎はいつの間にか四肢だけでなく、尻尾や頭、胴までも鋏で抑えられている。
たぶんだが、この場に住んでいたほぼ全ての造石の宿借呪が集まっているのではないだろうか?
ゴリッ
「!?」
「ひえっ……」
凄く嫌な音が雷刃虎が居る辺りから聞こえた気がした。
何と言うか、硬い石を削り取るような音だった。
「あ、あはははは……」
音はその後も続く。
パキリと言う何かが割れる、あるいは固まったような音がした。
ブチュリと言う水を含んだ何かが潰れるような音が聞こえた。
コンッ、コンッと言うそれなりに強度がある物同士をぶつけ合うような音が聞こえた。
ガンッ、バキッと言う硬い何かを破砕したような音が聞こえた。
ゴトンッと言う重い何か落ちるような音が聞こえた。
「何と言うか、その……」
雷刃虎の鳴き声は聞こえない。
だから念のために、あるいは怖い物見たさに私は宙に浮かび上がって雷刃虎の姿を確認したのだが、見えたのは、苦悶の表情を浮かべるも鳴き声一つ上げる事も電撃を放つ事も許されなくなった雷刃虎と、その雷刃虎の体に上以外の全方位から群がる蟹型カースの姿であり、蟹型カースが口から吐き出した液体を雷刃虎にかける事で体を石化させ、石化した体を鋏や口で削り取っていくと言う光景だった。
つまり、石化を利用する事によって、途中で失血死する事がなくなってしまった凌遅刑、拷問を伴う処刑である。
「流石に同情するわ。うん」
何故こうなってしまったのかは分かる。
造石の宿借呪が群れで生活するこの場で無差別広範囲攻撃なんて物を撃って、全ての造石の宿借呪を敵に回してしまったからだ。
いや、それだけではなく、造石の宿借呪が恐らく気絶の状態異常に強く、雷刃虎が石化の状態異常への耐性を持っていなかったのも要因の一つだろうが……これは間接的な要因か。
いずれにせよ、哀れと言う他ない。
「あ、でも目玉ぐらいは貰っていくわね」
「!?」
「「「……」」」
とりあえず報酬無しは嫌なので、雷刃虎の目玉を片方、ナイフでえぐり取り、回収、毛皮袋に入れておく。
頭担当の造石の宿借呪の鋏が口を抑える事を優先してくれていたので、実にえぐり易かった。
うん、雷刃虎君の尊い犠牲には割と本気で感謝しておこう。
私だって戦い方によっては、同じような状況に陥っていたのかもしれないのだから。
「で、最後に鑑定っと」
で、目玉をえぐったところで、距離にして50メートルほど離れた地点まで私は移動。
その上で造石の宿借呪に『鑑定のルーペ』を向けてみる。
△△△△△
造石の宿借呪 レベル32
HP:58,872/59,035
有効:灼熱
耐性:毒、気絶、沈黙、出血、小人、巨人、干渉力低下、恐怖、乾燥、魅了、石化、重力増大
▽▽▽▽▽
「一匹一匹と戦うなら、普通にやり合えそうかしら。うーん、食事が終わったら一応挑んでみましょうか。貴重な石化素材だし……」
うんまあ、ステータス的には普通の相手と言うか、手ごろな相手だ。
地形関係の問題も私にはないし、あちらが対空攻撃を持っていなければ完封もあり得るだろう。
雷刃虎の惨劇を見たら、格下だなんて油断は本当に、まったく、一切出来ないし、するつもりもなくなって、過剰だと思われるくらいの警戒感を抱いて勝負を挑むつもりにしかならないし、なれないのが本音だが。
なお、雷刃虎が死なせてもらえたのは、私が目玉をえぐってから十数分後の事であり、造石の宿借呪たちが散っていった後には、骨どころか毛の一本、呪いの残滓すらも残っていなかった。
完全にホラーの類である。
06/22誤字訂正




