567:4thナイトメア2ndデイ-3
「到着っと」
『これはまた変な場所に出たでチュねぇ……あ、向こうとの情報共有の為に、ざりちゅは此処からはどっちでも同じように喋るでチュよ』
「分かったわ」
自作のゲートを用いる事で、私は直接『愚帝の暗き庭』へと侵入した。
侵入したのだが……まあ、ザリチュの言う通り、変な場所に来てしまった。
「んー、砂、コールタール、石筍、と言うところかしらね?」
『そうでチュね。どれも呪いたっぷりな砂、コールタール、石筍で満たされた、谷底と言う感じでチュ。掲示板でも確認されていない場所でチュから、下手すると普通に地上を歩いているだけではたどり着けない場所かもでチュね』
まず、大まかな場所としては、四方を高さ数百メートルはあるであろう崖に囲まれた谷底である。
私は空を飛べるので問題はないが、空を飛べないとなると、侵入も脱出も面倒くさそうだ。
で、足場は……奇麗でサラサラとした白い砂と黒くてねばつくコールタールが底を埋め尽くしていて、そこから見るからに脆そうな石筍が何本も突き出している。
ザリチュの言う通り、いずれも呪いたっぷりであるが……コールタールのような臭いを漂わせているのは、コールタールではなく、白い砂の方と言うのが気になる点ではあるか。
「鑑定っと」
周囲に積極的に動こうとするカースの存在は見受けられないので、私は足場である石筍から降りて、適当な容器で砂とコールタールを回収、鑑定する。
△△△△△
移臭の砂呪の砂
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:19
移臭の砂呪と言う名称のカースであった砂。
触れたものの臭いを纏う性質を有している。
群れから離されると、それだけでカースよりも物質に近づく。
注意:長時間触れると脱臭(1)の状態異常が付与されます。
▽▽▽▽▽
△△△△△
瘴毒の油呪の粘液
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:19
瘴毒の油呪と言う名称のカースだった液体。
接近したものに毒を与える性質を有している。
群れから離されると、それだけでカースよりも物質に近づく。
注意:表面から20センチ以内に近づくと、1秒ごとに毒(5)の状態異常が付与されます。
▽▽▽▽▽
えーと、名称は移臭の砂呪の砂と瘴毒の油呪の粘液か。
消臭剤代わりになりそうな砂と、耐性がなければ接近しただけで毒状態になる油ねぇ……回収はしておくが、レベル20前後の素材だし、使い道は特になさそうだ。
『たるうぃ、合流したいでチュから、何か目印を出すでチュよ』
「目印ねぇ……呪詛濃度26の呪詛の柱でも上空に向かって立てればいいかしら?」
『よほど離れていなければ、それで行けると思うでチュ』
石筍は……実はカースの生成物であるらしい。
△△△△△
造石の宿借呪の殻
レベル:25
耐久度:60/60
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:10
造石の宿借呪が周囲の物質から作り上げた殻。
造石の宿借呪は一つの殻を作り上げると、それまで身に着けていた殻を脱ぎ捨て、オブジェのように立て、新たな殻に移る。
なので、見た目こそヤドカリそのものだが、ヤドツクリとでも称した方が正しいのかもしれない。
構成物質の関係で、触れたものの臭いを纏うと共に、接近したものに毒を与える性質を有している。
注意:長時間触れると脱臭(1)の状態異常が付与されます。
注意:表面から20センチ以内に近づくと、1秒ごとに毒(5)の状態異常が付与されます。
▽▽▽▽▽
周囲をよく見てみれば、石筍のいくつかは砂とコールタールの中をとてもゆっくりと動いている。
こちらは目印を立てた後で、回収しておいてもいいかもしれない。
もしかしたら、貴重な石化関係の素材になるかもしれない。
そうでなくとも、中々に面白い性質を有しているカースな気がするし、一匹くらい回収しておいてもいいかもしれない。
「戦闘準備は問題なし、と」
『必要でチュか?』
「必要よ。呪詛の柱を立てたら、変なのが寄ってくるかもしれないじゃない」
まあ、今はマントデアたちとどれぐらい離れているかの確認だ。
と言う訳で、私は錫杖形態のネツミテを天に向かって真っ直ぐに伸ばすと、その先端から高さは呪詛支配の限界点まで、直径は100メートルほどの、呪詛濃度26の呪詛の柱が出来上がるように、周囲の呪詛を集める。
「どう?」
『あー、確認は出来たでチュ。けれど、かなり離れているでチュね。針みたいに細いでチュよ』
「それはまた面倒ね」
『まんとであとぜんぜは、敵に遭遇しないなら、昨日と同じように単独行動でいいんじゃね? と言う感じの事を言い出しているでチュね』
「まあ、それが妥当かもしれないわね」
マントデアとゼンゼの二人が合流を諦める程度には遠い、あるいは面倒な地形を挟んでいるようだ。
ま、合流出来ないなら出来ないでいいか。
私一人なら、直接生産用エリアに戻る事も可能な訳だし。
『チュアッ!? ちょ、こういう事になるんでチュか!? うわ、面倒くさいでチュねぇ……!』
「どうかした?」
『たるうぃの立てた呪詛の柱から逃げ出すように、雑魚カースが半狂乱のような状態で駆け回り始めたでチュ。たぶんでチュが、呪詛の柱が見えてしまったカースは全部こうなったかもでチュね』
「くっ、マントデアに眼球ゴーレムを一体くらい持たせておくべきだったわね……半狂乱になって私から逃げだすカースと言う未知を見逃すだなんて……」
『ブレないでチュね!?』
これは失敗した。
勿体ない事をした。
いやまあ、私の周囲に居るであろう造石の宿借呪たちに慌てた様子がない点からして、半端に遠くて、しっかりとしたサイズの柱を認識する事が半狂乱からの逃走と言う行動のトリガーだろうから、また明日にでも別の場所でやれば似た光景は見れるのだろうけど……本当に勿体ない。
「と、懸念事項が寄って来たみたいね。こっちはこっちで戦闘に集中するわ」
『でチュか。健闘を祈るでチュ』
でまあ、雑魚カースが逃げ出すのならば、雑魚でないカースは逃げ出さない。
それどころか、自分の力を誇示するために、あるいはもっと単純に、相手を食らう事で強くなるために、相応の実力を有するカースは私の方へと寄ってくるわけだ。
と言うか、今回のイベント、最前線組はこうやって強いカースを自分から呼び寄せる前提かもしれない。
閑話休題。
「グルルルル……」
「虎……いいえ、サーベルタイガーかしらね?」
谷の上に現れたのは、青白い電気を身に纏うと共に、全身から刃のような物を生やした、刺々しい外見の虎。
昨日戦った強靭の虎呪と同じネコ科カースであっても、明らかに纏う威圧感と呪詛が違うカースだ。
「……」
「カモーン。まあ、もしかしたら、谷の底に降りたくても降りられないかもだけど」
私は敢えて周囲に石筍がない場所に移動し、『空中浮遊』の呪いによって砂とコールタールの上に浮かぶ。
そんな私を見て雷刃虎とでも呼ぶべきカースは身構える。
「ガアアアアアアアアァァァァァァッ!」
「っ!?」
そして次の瞬間、私の体には雷刃虎の全身に生える刃が食い込み、皮膚を突き破り、吹き飛ばされ、近くの石筍に叩きつけられていた。
06/21誤字訂正




