566:4thナイトメア2ndデイ-2
「酷い目にあったわ」
『本当でチュねぇ……』
二日目の行動開始と言う事で、生産用エリアの外に出て、交渉用エリアを通り、素材回収用エリアに向かおうとした私たちだが……私は化身ゴーレム、マントデア、ゼンゼと別れ、一人交渉用エリアで適当な建物の屋上に身を潜めていた。
「いったい、何がどうなれば、私なんかに装備を作って欲しい奇特なプレイヤーがあんなに現れるのかしら? 流石に理解に苦しむんだけど」
『たるうぃの腕を見込み、自分たちにも使える道具を作って欲しい。と言うのなら、まだ分からなくもないんでチュけど、アレは罠アイテムになってもいいから、とにかくたるうぃに作って欲しい感じだったでチュよねぇ』
「謎だわ。しかも知りたい未知じゃないし」
『でっチュねぇ』
まあ、簡単に言えば、交渉用エリアに出た途端に、私に向かってアイテム作成を求めるプレイヤーが殺到したのだ。
これで相手が身勝手な要求を突き付けて来るなら、こちらも相応の態度で出られるのだが、ただただ素材を渡して、これでアイテムを作ってくれだからなぁ……。
昨日、化身ゴーレムがPKによるアイテム収集をしていたこともあって、突き返すのも中々に難しい。
と言う訳で、私はマントデアたちから離れて、どうにか彼らの目を掻い潜って『愚帝の暗き庭』に入れないか画策中。
なお、マントデア、ゼンゼ、化身ゴーレムの三人は既に『愚帝の暗き庭』に入って活動を開始しているらしい。
『あ、戦闘が始まるでチュから、ざりちゅはあっちに集中するでチュ』
「分かったわ」
さて、どうやって『愚帝の暗き庭』に行こうか。
ぶっちゃけ私は呪詛濃度26の呪詛の霧を常に纏っているので、非常に目立つのだ。
最終手段として呪詛の霧の範囲を広げる事で、無理やり見つからないようにすることも出来るが、流石にそれは悪質な迷惑行為として扱われるだろう。
「妥当なのは小人の状態異常を使って……ん?」
周囲の様子を探りつつ考えている私の知覚範囲に、奇妙な呪詛の流れが生じた。
そちらにあるのは神殿のような建物で、その外見はぶっちゃけ周囲の建物と噛み合っていない。
「ちょっと行ってみましょうか」
期せずして単独行動になっているのだから、と言う事で、私はプレイヤーたちに見つからないように注意しつつ、神殿の敷地内に入る。
「っう!?」
そして、入った直後に全身が酷い脱力感に襲われ、倒れそうになり、慌ててネツミテを取り出して体を支える事になった。
「此処は呪限無の化け物が入って来て無事で済むような場所じゃないわよ」
「あらおはよう。聖女ハルワ」
「いや、おはようじゃないでしょ。死ぬことはないけれど、この場に居続ければ、それだけ苦しむことになるわよ」
「ふふふ、お気遣いなくよ」
必死に体を支えている私の前に聖女ハルワが現れる。
その背後で行われているのは……呪いの浄化作業だろうか?
「浄化関係の素材を入手するための場所、と言うところかしら?」
「そうね。聖別した水、火、果実、肉、色々とあるわよ」
なるほど、『皇帝の明るき庭』、『愚帝の暗き庭』ではどうやっても手に入らなさそうな浄化属性関係の素材は此処にある、と。
まあ、元になる素材の持ち込みだけでなく、浄化に必要なコストを集めるのも、素材を求めるプレイヤーの仕事なので、安くはなさそうだが。
「それと、望まぬ呪いを得てしまった呪人から、呪いを引き剥がす場所でもあるわ」
「あらそうなの?」
「カースの肉なんて悍ましい物を食べたらどうなるのかも分かっていない呪人が案外多いようで、昨日から割と忙しいわよ」
「へー」
それと、異形度を意図せず上げてしまったプレイヤーへの救済措置も此処でやってくれるらしい。
なお、費用は初回こそタダ同然だが、二回目からは相応の費用を求めてくるようだ。
後、当然と言えば当然の話だが……。
「一応言っておくけど、呪限無の化け物。アンタの体を構成している呪いを引き剥がすのは無理よ。ここは人間のための設備だから」
「引き剥がそうなんて思っていないから安心しなさい」
「そう。ならいいけど」
私は対象外である。
「で、この場についての説明は以上だけど、呪限無の化け物が此処にいる理由は? 用がないなら早いところ出て行って欲しいのだけど」
「この施設への用はないわね。ただ、おかしな呪詛の流れを感じたから、他の人を撒くついでに見に来たようなものよ」
「あ、そう」
さて、この場についてはだいぶ慣れてきた。
とにかく呪詛濃度が低い上に、呪詛支配の権利を奪い合うようになっているためにきつくなってはいたが、だいぶ慣れてきた。
「でも折角だから聞きたいんだけど、『愚帝の暗き庭』に通じる裏道みたいなのは知らないかしら?」
「何でそれを私に聞くのかと突っ込むべきかしら……まあ、面倒だから突っ込まないけど」
「で? どうなの?」
「呪限無の化け物に裏道なんて探す必要がないでしょ。昨日だって、作っていたじゃない」
「……ああ。言われてみれば」
そして、聖女ハルワの言葉で思い至る。
別に私一人で『愚帝の暗き庭』に行くなら、自分でゲートを作り出せばいいだけじゃないかと。
「その『愚帝の暗き庭』とやらは、『ユーマバッグ帝国』に関わる呪いの集積地のようなものでしょ? そして此処は、その呪いの集積地の表面。呪限無の化け物程に呪いを操れるなら、わざわざ少し潜ったところを経由する必要なんてない。違うかしら?」
「全然違わないわね」
えーと、『理法揺凝の呪海』に繋げるつもりで呪詛の門を作れば……うん、イベントの仕様もあって、『愚帝の暗き庭』に直接入れそうだ。
後、その気になれば、侵入から一時間経過後と言う条件さえ満たしておけば、『愚帝の暗き庭』から自分の生産用エリアに直接飛ぶことも出来そうな気がするので、覚えておこう。
「感謝するわ、聖女ハルワ。おかげで今後の行き来は楽になりそう」
「そう、こちらも呪限無の化け物に煩わされずに済むから、気にしなくて……」
まあ、ちゃんと門を開くのは、神殿の敷地外に出てからにしよう。
『ユーマバッグ帝国』の連中ならともかく、聖女ハルワに迷惑を掛けたいとは思わないし。
「ああ、そうだった。これだけは言っておくわね」
「何かしら?」
「ザッハークに竜になれるだけの器はないわ。もっと言えば、『ユーマバッグ帝国』の全てを治める度量もね」
「でしょうねぇ」
聖女ハルワの言葉には同意しかない。
だってそうだろう。
ザッハークに竜になれるような器があるなら、欺瞞なんて能力を持った劣竜呪は生じないだろう。
帝国の全てを治める度量があるなら、破接の幻惑蟲呪のような規格外の化け物が隠れ潜んで、自由気ままに動いているとも思えない。
「ま、私がやることに変わりはないわ。じゃあね」
「そう。まあ、私が止めて止まるような呪限無の化け物じゃないわよね」
いずれにせよやることに変わりはない。
と言う訳で、私は神殿の敷地外に出ると、自作のゲートを通って、直接『愚帝の暗き庭』に入った。
06/20誤字訂正




