565:4thナイトメア2ndデイ-1
「おはよう。マントデア、ゼンゼ」
「おう、おはようだ」
「おはようやわぁ」
「おはようでチュ」
イベント二日目である。
では、朝ご飯を食べつつ、今日の予定について話し合うとしよう。
「とりあえず昨日一日で必要な情報についてはだいたい集まったと考えてええと思う。となると、今日からは実際にどんなアイテムを作るかを決めて、そのアイテムを作るために手を打つ感じやな。優先順位についても決めておくべきやろ」
「そうね。それが妥当だと思うわ」
「同意だ。目的があるなら、計画的に動くべきだろう」
「で、具体的にはどうするんでチュか?」
なお、満腹度の回復だけを考えるなら、私は満腹の竜豆呪を、マントデアとゼンゼの二人も適当に携帯食料を食べれば十分なのだが、満腹度だけでなくやる気も回復させるためにちゃんとした料理を作って、食べている。
具体的には処理したカース肉、適当な野菜と卵、普通のパンを使ったサンドイッチである。
「優先順位で一番高いのはマントデアとゼンゼの異形度を上げる呪詛薬ね。だいたいの素材は揃っているけど……」
「個人的には欺瞞の劣竜呪の素材くらいは確認しておきたい感じやなぁ」
「その欺瞞の劣竜呪の取り巻きである破盾の雷雲呪の素材は取り込んでおきたいな」
「つまり、後回し案件ね」
「掲示板を見て回った限り、欺瞞の劣竜呪を本格的に攻略するのは三日目の予定みたいでチュね。まあ、大きなカースでチュし、HPも十分にある。戦いが始まってから参戦して、素材を幾らか貰う。くらいでもいいでチュかね」
「まあ、まだ見ぬええ素材もあるかもやし、今日一日はまだ素材捜索をしたいところやな」
こうなると、優先度が高めである二人の呪詛薬については、作成は早くても明日の午後くらいかな?
「タルの強化はどうなんだ?」
「私の方は素材が集まったら適当にこなすから大丈夫よ。狙うなら邪眼術の強化だけど、私の場合、習得そのものはあっという間に終わるから、心配しなくていいわ」
「その分だけリスクも高いんでチュけどね……」
「そりゃあ、高効果の邪眼術を手に入れようと思うなら、リスクがあるのは当然よ」
私の方は素材が集まり次第と言う感じだ。
今手に入っている素材の内容と、掲示板から得られる情報をまとめた感じだと、『気絶の邪眼・2』の強化と『恐怖の邪眼・3』の改良ぐらいは狙えそうな気がする。
「罠アイテムは……既に大量やな」
「ザリチュが昨日大量に素材を集めて来たから、ついついね。まあ、暇な時間に作ればいいわ」
「まんとであたちが作ってもいいんでチュよ?」
「いやー、俺のサイズでこう言うのはちょっとな……とりあえず、この件に関する優先度はもう最下位でいいだろ」
次回イベントで妨害になりそうなアイテムについては既に大量にある。
なお、化身ゴーレムによって私に素材が奪われる件についてだが、今朝の時点だと、掲示板では何故か“納品”扱いになっている。
どうやら私が思っていた以上に生産職への伝手、あるいは自力での加工能力を持つプレイヤーは少ないらしく、素材を無駄にするぐらいなら、私に使わせた方がマシと言う認識が割とあるらしい。
それでも今日からはどのプレイヤーも真面目に素材を集め始めると思うので、今日からは襲われない限りはプレイヤーを攻撃しないようにザリチュに言っておくか。
「でだ。本題と言うか、メインと言うか……ザッハークに盛る薬についてだな」
さて、話し合いは此処からが本番だ。
「ええそうね。私としては飲んだだけでカース化するような薬を飲ませたいんだけど、どういう薬にしたら飲むと思う?」
「んー……一応ザッハークを知っている身として言わせてもらうんやけど、薬単体でそう言うのをやるのは難しいな。と言うか、呪詛関係に関しては、『ユーマバッグ帝国』は結構しっかりとした守りが張られとるで」
「そうなんでチュか?」
私の希望に対して、『鎌狐』として『ユーマバッグ帝国』に入り込み、それなりに中枢にも食い込んでいるであろうゼンゼは難しそうな顔をする。
「まず大前提として、『ユーマバッグ帝国』にはそれなりの数の呪術師が居る。レベル的には20前後で、異形度も5以下な程度やけど、知識、守護、身代わり、治療、危険物の排除、この辺については最前線組のプレイヤーと同等かそれ以上の連中やな」
「つまり、そいつらの目を誤魔化すか、突破できるような何かは必須と言う事ね」
「そういう事や。つまり、薬単体でカース化させるような薬やと、ザッハークの口に届く前に、ほぼ確実に排除されると思ってええよ。ああそれと、飲む必要がない薬を飲むほどの阿呆でもないから、そこも注意や」
帝国を名乗るだけあって、ザッハークの周りには相応の守りがちゃんとあるらしい。
まあ、元々薬単体では上手くいかないと思っている。
ザッハークは明らかに怪しい薬には手を出さない程度には理性的だ。
それだけ理性的なら、一回限りの薬ならばともかく、効果を複数回発揮できる薬なら、適当な人間に飲ませて効果を確かめるぐらいの頭はあるだろう。
だから、守りが多少堅くなったくらいなら想定の範囲内だ。
「料理に混ぜるってのはどうなんだ? カース肉には異形度を上げるものもあるし、そういう素材を中心に料理を作れば、異形度上昇料理も作れるだろう」
「そっちも厳しいなぁ。ザッハークは皇帝や。せやから、食事には必ず毒見役が付く。さっき言った呪術師たちの守りも当然入ったままや。即効性やったら、途中でバレるやろな」
「なるほどな……」
料理単体も駄目。
と言うか、薬にしろ料理にしろ、毒見役が居るから、即効性を有するもの全般がきつい感じか。
「遅効性にしたらどうかしら?」
「厳しいやろなぁ。遅効性って要するに少しずつ変えていくんやろ? 絶対に途中で気付かれて、解除されるわ。『ユーマバッグ帝国』の呪術師たちは、呪いが作用してから数秒で事が済むなら対処出来へんやろうけど、一時間もかかるなら、対処はして見せると思うで」
遅効性も厳しい、と。
『ユーマバッグ帝国』の呪術師たちは中々に優秀らしい。
「ふうむ……」
まとめるとだ。
あからさまに危険物だと、最初に弾かれてしまう。
怪しいアイテムだと、そもそもザッハークは手を出さない。
即効性を有するものだと、毒見役に止められてしまう。
遅効性を有するものだと、呪術師たちに止められてしまう。
外部から直接呪いを飛ばすのも……呪術師たちに止められてお終いだろう。
「ヒトヨタケ、かしらね?」
となるとだ。
単体では問題なくして、一定の条件を満たしたら、即効性の効果を示す、と言うのが良さそうか。
「なんだ? ヒトヨタケって」
「お酒と一緒に食べると中毒症状を催すキノコよ。ちなみに食後一週間くらいはお酒を食べたら駄目になるらしいわね」
「ほー」
「そんなキノコがあるんか。つまりはそういう事やな」
「ええ、そういう事よ」
うん、プランは出来上がった。
特定の薬と料理、両方とも摂取した時だけ効果を発揮し、カースにする。
こうすれば、毒見役が重ならない限りは、ザッハークまで無害なものとして通せるだろう。
勿論、成功率を上げるために、そういう効果を持つ芸術品や道具を仕込んでおく必要もあるし、薬の方は飲む必要が生じる物を作る必要があったりするが……うん、上手くいきそうだ。
必要になるであろう素材の心当たりも既にあるから、何とかはなるはずだ。
「じゃ、計画の為に必要な素材の回収を始めようかー」
「ええそうね」
「だな」
「チュッチュッチュッ。楽しみでチュねぇ」
では、行動開始と行こうか。
06/19誤字訂正