559:4thナイトメア1stデイ・ストレージ-4
「チュラッハァ!」
「おらぁっ!」
「ああもう!」
「「「ヂュアッ!?」」」
鼠毒の竜呪たちの初手は、一番近い相手に飛びかかり、噛みつく行動だった。
対するこちらの行動は、化身ゴーレムは盾を構えてからのタックルで怯ませ、マントデアは全力で丸太のような棒を振る事で吹き飛ばし、ゼンゼは大鎌の柄と刃を巧みに使って攻撃を受け流す。
で、これらの行動の結果として、三体の鼠毒の竜呪の相手は化身ゴーレムたちそれぞれに決定された。
「evarb『恐怖の邪眼・3』!」
「「「!?」」」
では、厄介な攻撃を連打される前に、入れるべき状態異常を入れておくとしよう。
と言うわけで、各種呪法込みの『恐怖の邪眼・3』を目四つ分撃ち込むことで、それぞれに1,400近い恐怖を与える。
「「「ッヂュアアアァァァ!!」」」
「おっと」
すると鼠毒の竜呪たちは一斉に私の方を向き、全身を震わせながら深緑色の炎を勢いよく吐き出してくる。
まあ、三方向から来る程度なら問題なく避けられるので、私は三体の鼠毒の竜呪から離れる方向で動き、炎を避ける。
そして、こんな隙だらけの姿を見逃すマントデアたちではない。
「ボルトハンマアアァァ!」
「!?」
マントデアが雷を纏った拳を、鼠毒の竜呪の頭部に向かって振り下ろし、叩きつける。
「せいっ!」
「!?」
ゼンゼが呪詛を纏った大鎌の切っ先を鼠毒の竜呪の眼球に向けて正確に振るい、撃ち抜く。
「チュアッハァ!」
「!?」
化身ゴーレムは……色々と理解しているからだろう、鼠毒の竜呪の横っ面を一回剣で切りつけると、直ぐに油断なく構えた。
「「「ヂュラアァァ!!」」」
「んなっ!?」
「効いてへん!?」
「おっとでチュ」
はい、と言う訳で鼠毒の竜呪の反撃。
マントデアには毒ビームが放たれ、ゼンゼは尾に付いている歯で体を撃ち抜かれそうになり、大して効果がないと分かっていた化身ゴーレムは爪による攻撃を難なく凌ぐ。
「あ、言い忘れてたけど、鼠毒の竜呪のような本物の竜は、それなり以上の攻撃でないと、ほぼほぼ無効化されるから、そのつもりで挑んで。etoditna『毒の邪眼・3』」
「タル!? そういう事は先に言っておいて欲しいんだが!?」
「タルはん!? ちょっと勘弁して欲しいんやけど!?」
「いやー、厄介な話でチュよねぇ」
私は距離を保ったまま、呪法込みの『毒の邪眼・3』を鼠毒の竜呪たちに撃ち込み、毒を与える。
さて、こんな感じで援護をしつつ、マントデアとゼンゼがどうやって鼠毒の竜呪に対処するかを見せて貰うとしよう。
鼠毒の竜呪が持つ竜呪特有の耐性を抜く方法は、位階が高い呪術を用いるか、それに相応するような攻撃手段を用いるか、逆鱗のような弱点部位をピンポイントで撃ち抜くか、この辺だろうか。
どれが見れるにしても、実に美味しい。
まあ、鼠毒の竜呪の耐性は、弐の位階で撃ち抜ける程度のようなので、マントデアたちでも行けるだろう。
「ytilitref『飢渇の邪眼・2』」
「ナイスでチュよ。たるうぃ」
「ヂュゴ!?」
それはそれとして、化身ゴーレムが相手をしている鼠毒の竜呪に伏呪付き『飢渇の邪眼・2』を撃ち込んで、ダメージを加速させる。
後はもう何度か『毒の邪眼・3』や『暗闇の邪眼・2』を撃ち込めば、倒せるだろう。
化身ゴーレムは問題なく鼠毒の竜呪を抑え込んでいるし、問題は起きないだろう。
「ちっ、こうなったらやってやる!」
「ヂュアヂュアヂュアッ!」
さてマントデアだ。
マントデアは鼠毒の竜呪の攻撃を凌ぎつつ、腕の一本に電撃触手を巻き付け、電気をチャージしているようだ。
「ヂュ……」
「今っ!」
そして鼠毒の竜呪が口から深緑色の炎を吐き出そうとした瞬間だった。
マントデアは、棒を捨て、一歩踏み込みながら、鼠毒の竜呪の口に向かって電気を纏った拳を動かす。
「コウコウライライ!」
「!?」
次の瞬間、マントデアの拳が鼠毒の竜呪の口の中へと吸い込まれ、完全に収まったところで激しい雷鳴が轟くと共に、鼠毒の竜呪の全身を紫電が包み込んで焼いていく。
その威力は先程マントデアが放った電撃属性の呪術など比較にならない程であり、たった一撃で鼠毒の竜呪の体は頭の先から尾の末端まで、表皮から内臓まで、全身くまなく感電させ、破壊したようだ。
ほぼ間違いなく特殊呪術の一種、先呪も含んだ、カウンター特化の電撃呪術と見ていいだろう。
「ヂュ……ゴッ……」
「これで……即死しないとか……割とショックだよ!」
うん、それにしても、そんな一撃を受けても僅かにHPを残している鼠毒の竜呪の頑強さは流石と言う他ない。
が、それでも、マントデアは息を切らしつつも棒を拾い、振り下ろし、鼠毒の竜呪にトドメを刺した。
復活は……直ぐにはしなさそうか。
「ああもう……ウチもやるしかないか」
「ヂュアッ! ヂュアッ! ヂュアアアァァ!!」
対するゼンゼは……鼠毒の竜呪の攻撃を回避と受け流しで凌ぎつつ、まるで弱点を探るように鼠毒の竜呪の全身を鎌で攻撃している。
ただ、鎌での攻撃よりも気になるのは、ゼンゼの目に結構な量の呪詛が集まっている事と、時折だがゼンゼが腰に付けている木簡のような物体が弾け飛んでいる事か。
もしかすると……『鑑定のルーペ』を使わない鑑定呪術でも使っているのか?
「ヂュオッ!」
「素材が駄目になっても怒らんでなっ!」
鼠毒の竜呪の攻撃を大きく跳んで避けた直後。
ゼンゼはそんな事を言いつつ、大鎌の刃に何かを当てて、根元から切っ先へと走らせ、塗り付ける。
すると大鎌が纏う空気が大きく変わった。
「イジン……」
「ヂュオッ!?」
「へえっ……」
大鎌が冷気と呪詛を纏っているのは別にいい。
前者は先程大鎌に塗り付けたものが原因で、呪詛は大鎌を強化するための呪術を用いているので、ほぼ最初からだ。
問題は冷気と呪詛に混じって、風化の呪詛の気配が入ってきたからだ。
「トーデスフェス」
「!?」
私の気づきなど気にした様子もなく、ゼンゼは鼠毒の竜呪に駆け寄り、鎌を振るい、先ほどまで大鎌の刃先が入らなかったのも嘘のように、難なく刃が入り、鼠毒の竜呪の体を切り裂き、両断した。
そして、両断された鼠毒の竜呪の体は即座に萎びていき、ミイラのようになってしまった。
なるほど、『七つの大呪』の一つである風化の呪詛による攻撃の強化。
表面を見るだけなら、そんな所だろう。
実際には、風化の呪詛へ切り裂いた対象を捧げる、くらいはありそうだが。
「うぐっ……本当に……キツイわぁ……」
で、リスクやデメリットも相応にあるようで、ゼンゼはその場に蹲り、動けなくなっている。
「ヂュアアアァァァッ!!」
「たるうぃ」
「ああうん、分かってるわ。pmal『暗闇の邪眼・2』」
見たいものは見れた。
マントデアもゼンゼも動けなくなっている。
と言う訳で、最後の鼠毒の竜呪は適当に私と化身ゴーレムで攻撃して、始末。
鼠毒の竜呪たちの死体は消え去った。