558:4thナイトメア1stデイ・ストレージ-3
「ふむ。戦闘無しね」
私が出現させた有毒香草は鉢植えに植えられる形で出現した。
戦闘はなく、香草を摘み取ると、鉢植えは消失した。
「これも戦闘無しみたいだな」
続けてマントデアがそれなりの大きさの石や鉄板を出現させる。
モンスターの陰はやはりない。
「ほうん。これも戦わなくていいみたいやな」
更にはゼンゼが塊の牛肉を鉄板の上に出現させる。
見た感じではサクリベスで食べられているような、呪い無しあるいはほぼ呪いがかかっていない肉であるらしく、これでもモンスターは出現しないようだ。
「はい、『灼熱の邪眼・2』」
「んー、いい香りがするなぁ……」
「結構いけるなぁ。この程度の毒なら気にしなくてええし」
と言う訳で、ゼンゼが出現させた牛肉に香草をまぶして焼き、三人で食べた。
うん、美味しい。
「何をやっているんでチュか。この三人は……」
「え? そういうつもりだったんじゃないの?」
「ん? そういうつもりだったんやけど?」
「だよな。俺が鉄板を出したからだろうけど」
では次の検証に移るとしよう。
化身ゴーレムに構えさせ、念のためにマントデアとゼンゼにも注意を払うように言ってから、私はコンソールを弄る。
「くぁzsxdrfvg!」
私が求めた素材の対価として倒す事を求められたのは、『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムン。
部屋の高さが足りないので不格好な姿勢で出現しているが、それよりも重要な事として、カロエ・シマイルナムンが出現した途端に周囲の基本的な呪詛濃度が20にまで跳ね上がった。
どうやら、カースが出て来ると、それに合わせて呪詛濃度が上がるようだ。
「はいはい、『沈黙の邪眼・2』、『恐怖の邪眼・3』。からの宣言、カロエ・シマイルナムン、毒の蔓に包まれて、のたうち回りなさい。etoditna『毒の邪眼・3』」
「……!?」
「よっわ」
「一瞬だったでチュねぇ」
「普段戦えるのよりも更に弱体化されとる感じやな」
なお、戦闘そのものはあっという間である。
まあ、元であろう劣化版カロエ・シマイルナムンですらあっという間に終わるのだから違和感はない。
なにせ『官僚の乱雑な倉庫』の戦闘では最大でもプレイヤーは三人まで、それならば、普通のモンスターはともかく超大型ボスについては三人でも倒せるように調整が施されていても不思議ではない。
「二人にアイテムは手に入った?」
「いや、来なかったな」
「同じくや。タルはんは?」
「指定したカロエの声帯しか手に入らなかったわね」
「なるほどなぁ」
手に入ったアイテムはコンソールで指定した『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンの声帯が一つだけ。
素材のサイズを考えてか、あるいは超大型ボスであるためか、メッセージに添付して送られる形式になっている。
ちなみに、この後に、今度はカロエの触手を指定してカロエ・シマイルナムンを出現させ、今度はゼンゼとマントデアの二人だけで倒してもらったのだが、触手は私の手元にやって来た。
どうやら、戦闘への貢献度とかはなく、コンソールを操作したプレイヤーの下にアイテムは来るようになっているらしい。
「これはPTの関係崩壊フラグやな」
「あー、ありそうだな。やらかす奴は絶対に居るだろ」
「自分は欲しい素材が手に入ったから抜けますね。と言う奴ね。ありそう」
「とても効率よく呪いが放出されそうでチュねー」
そんな仕様を知った私たちの感想がこれである。
まあ、私たちの場合は大丈夫だろう、たぶん。
「お、幻惑の狐呪も呼べるみたいやな。ちょっとソロ狩りするわ」
「あらそうなの」
「『ガルフピッゲン』に出現するモンスターを呼び出して……ん? 戦闘無しなのか?」
「みたいでチュね」
検証再開。
ゼンゼが幻惑の狐呪と戦い、倒して、得た幻惑の狐呪の尻尾を、先ほど『愚帝の暗き庭』で得た尻尾と見比べる。
質は……僅かにコンソールで得たものの方が悪そうだ。
続けてマントデアが所有ダンジョンである『ガルフピッゲン』に出現するモンスターの素材……骨のような物を出現させたが、戦闘は起きなかった。
所有ダンジョンに関係するアイテムだと、戦闘になるかならないかの判定が緩いのだろうか?
「んー、ちょっと私も試すわ」
「お? 毒頭尾の蜻蛉呪でも出すか?」
「流石にズワムは勘弁してな。アレと戦闘するなら、ちゃんとした準備がしたいわ」
「不安しか感じなチュアアアアァァァッ!? なんで抓るんでチュか!?」
と言う訳で、ザリチュを抓りつつ、私はコンソールを操作する。
選んだのは……満腹の竜豆呪。
「ーーー……」
「「!?」」
「ふむ」
「うわ、そっちでチュか」
周囲の呪詛濃度が一気に20にまで上昇し、現れたのは満腹の竜豆呪の植物部分。
そして現れた満腹の竜豆呪は私の方へと目を向ける。
「ーーー」
「あ、ハオマが呼ばれたのね」
「ーーー」
どうやら、ただの満腹の竜豆呪ではなく、『満腹の竜豆呪』ハオマの方が呼ばれたらしい。
で、ハオマは私に普通の満腹の竜豆呪を複数個渡す。
それでアイテムを得たと判定されたのか、ハオマはその場から消え去り、私から離れた場所の呪詛濃度も元に戻った。
「タル。今のは?」
「ん? んー……簡単に言えば、私が作った食糧生産用カース? あ、この豆だけど、一粒で満腹度が100以上回復するけど、間違って非カースの存在が食べると、大量の状態異常、即死、異形度上昇がランダムに起きるから、食べない方がいいわよ」
「お、おう……」
「正にタルしかやなぁ……」
うん、満腹の竜豆呪を選べばハオマがやってきて、戦闘無しで回収できると言うなら、イベント中の私の食事を心配する必要はなさそうだ。
イベント終わりに食い残しを回収されても困る事は少ないし、これは楽でいい。
「さて、それじゃあそろそろ本命に行きましょうか」
「本命? 何が来るんや?」
「本命……これからなのか」
「ああ、あいつでチュね」
では、検証はこれくらいにしておくとしてだ。
私たちの目的を達するために挑まなければいけない相手に挑むとしよう。
「名前は鼠毒の竜呪。レベルは40。名称で分かる通り、本物のドラゴン型のカースよ。気合を入れて行きなさい。二人が求める呪いの材料にもなるんだから」
「……。そうか。なら気合を入れないとな」
「……。そら、楽しみやなぁ」
「さて、リベンジマッチでチュね」
コンソールで選んだ素材の名称は鼠毒の竜呪の死体。
周囲の床が嫌な音を立てつつ、この場の呪詛濃度が20ではなく、25まで上がっていく。
「ヂュッヂュッヂュッ……」
そして私たちの前に、体高1メートル、体長2.5メートル程度のネズミ顔、シダの翼、全身が毛皮に包まれたドラゴン……鼠毒の竜呪が現れた。
「「「ヂュッヂュッヂュッ……」」」
「3体居るんやけど!?」
「おいこらちょっと待て、何で3体なんだよ」
「あー、必ず複数体出現するタイプだったのかもしれないわね」
「まあ、あの時に比べたらマシでチュ」
何故か3体も。
「「「ヂュアアアアァァァッ!」」」
そして鼠毒の竜呪たちは私たちに襲い掛かってきた。




