557:4thナイトメア1stデイ・ストレージ-2
「という感じだな」
「ウチらが行った辺りで回収するべき素材は一通り得られた感じやな」
「結構実りがあった感じでチュよ」
「なるほどね」
はい、すり合わせ完了。
二人が必要とする素材は一通り手に入ったようだ。
で、それらの下処理……放置しても復活しないようにしたり、劣化したりしないようにするための作業も済ませた。
では、次に移るとしよう。
「ザリチュ、指定したアイテムが手に入る方のエリアの話は出てる?」
「ある程度は出ているでチュよ」
化身ゴーレムが複数の掲示板の画面を私に見せる。
そこにはもう一つのアイテム回収用エリア、指定したアイテムに関係するモンスターを倒す必要があるが、目的とするアイテムが確実に手に入る場所についての書き込みがされていて、検証班によって仕様のまとめも既にされているようだ。
ふむ。普通のモンスターの素材を回収するなら、出現する敵の数は増えるが、死体を選択するのが良いらしい。
「ふうん、本当に回収が簡単な物やと、戦闘が不要になるんか」
「だが、PTメンバーの実力を見ての可能性もあると書かれているな」
なお、ゼンゼとマントデアの位置から見えない場所に、『愚帝の暗き庭』にて破接の幻惑蟲呪に遭遇、壊滅したと思われるプレイヤーの書き込みが行われている掲示板の画面がある。
なので、私は自分が知っている範囲、明かしてもいいと考えた範囲で情報を投げておく。
まあ、アレに対する最善策は戦うのではなく、全力で逃走する事だろうけど。
「あ、欺瞞の劣竜呪に喧嘩を売る奴が出始めているみたいやで」
「お、本当だ。けどまあ、酷い事になってるな」
「当然の結果でチュね。破接の幻惑蟲呪と違って戦えるでチュけど、弱くはないでチュよ。アレ」
「ふうん。単純な物理攻撃に、周囲に居る鳥と雲のカースからの攻撃。ちゃんと戦うなら、軍対軍のような戦いになるのかしら」
余談だが、現在の『愚帝の暗き庭』では例の竜型カース……欺瞞の劣竜呪とやらとの戦いが始まったようだ。
欺瞞の劣竜呪自身は噛みつき、爪、尾、体当たりと言った物理攻撃。
鳥型カース……困惑の鳥呪は混乱付きの攻撃を、声や羽によって範囲でばら撒く。
雲型カース……破盾の雷雲呪は耐性低下や防御力低下の付いた落雷攻撃を撃ち込んでくるらしい。
戦況は言うまでもなく悪いそうで、攻略の第一陣となる今挑んでいるプレイヤーたちは敢え無く返り討ちにあいそうだ。
「破盾の雷雲呪の素材は取っておきたいな……電撃強化は美味しいだろ」
「それは自分に取り込む呪いとして? 呪術や道具の素材として?」
「両方だな」
「なるほど」
ふむ、マントデアは破盾の雷雲呪の呪いが欲しいと。
雲型カースからどんな素材が取れるかは分からないが、それがマントデアの希望なら叶えたいところだ。
まあ、欺瞞の劣竜呪の取り巻きでない破盾の雷雲呪も居るようなので、急ぐ必要はなさそうだが。
「ちなみに、マントデアが他に欲しい呪いは? 剛皮の巨人呪、破盾の雷雲呪以外にも欲しい呪い持ちは居たんでしょ?」
「勿論居るぞ。体はもう少し大きくしたいし、タルが持っているHP増加も欲しい。皮膚を強くするなら、筋肉と骨格も強くしておきたいところか」
「なるほどねぇ。ゼンゼはどうなの? 幻惑の狐呪の尻尾は集めていたようだけど」
「追加したい呪いの話やな。せやなぁ……幻惑の狐呪の尻尾七本分は当然欲しい。可能なら尾に幻惑の効果を乗せたいし、扱えるかは分からんけど手足のように尻尾も操れるようになりたい、と言うのはあるなぁ。でもそれぐらいやな」
「ふむふむ」
マントデアは純粋に自分の今の持ち味を強化する感じか。
マントデアの今の異形度を考えると、気を付けて調製しなければ、マントデアをカース化させてしまいそうでもあるが。
ゼンゼは……ほぼ尻尾を増やすだけか。
多少、内側を強化する呪いもあるが、まあ、素材さえあれば問題なく作れるだろう。
で、二人の要望と、私が求めるものを考えると……やはり、一度挑むべきか。
「うん、この後は指定回収の方に行きましょうか」
「分かったでチュ」
「分かった」
「分かったわぁ」
と言う訳で、私たちは生産用エリアの外に出ると、他のプレイヤーから放たれる話しかけたいオーラを無視しつつ交渉用エリアを移動、素材回収用エリアに繋がる入り口へとやってきた。
「一応確認しとくな」
「お願い」
先にゼンゼが『皇帝の明るき庭』に繋がる入り口で、どうすれば『愚帝の暗き庭』へ直接行けるかを確認しておく。
結果、どうやら、入り口で選択するタイプであるらしい。
なお、私が磔刑の樹呪を作り出したためなのか、『愚帝の暗き庭』へ飛ぶ際には、磔刑の樹呪が居る場所に飛ぶか、ランダムな場所に飛ぶかの二択になっているらしい。
まあ、便利だからいいか。
「じゃあ、今回はこっちだな」
「でチュね」
確認が終わったところで、もう一つの入り口から、指定回収用のエリアに移動する。
さて、この場の名称は?
とりあえず鑑定してみよう。
△△△△△
官僚の乱雑な倉庫
そこには何でもある。
何でもあるが、何処にあるかは分からない。
だから求めるものが自分で探し出して、持ち出さなければいけない。
君が有能な人間であれば、問題なく探し出せるだろうさ。
呪詛濃度:10
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「『官僚の乱雑な倉庫』、ねぇ」
「見た目はただ広いだけの空間なんだがなぁ」
「倉庫と言うより、道場と言った方が正しい感じやな」
「あ、このコンソールから挑めるらしいでチュよ」
さて、此処『官僚の乱雑な倉庫』は一辺500メートル、高さ20メートル、全面木張りのとにかく広い倉庫のような空間であり、化身ゴーレムが指さした先には指定した素材を出現させるためのコンソールがある。
で、このコンソールを弄り、モンスターを出現させると、指定した素材を得るまで出入り口が消える仕様になっているようだ。
「さて、それじゃあ一応の検証から始めましょうか」
「だな」
「せやな」
「念のために、でチュねー」
では、まずは『ダマーヴァンド』に生えている有毒香草から出現させてみよう。
06/11誤字訂正