556:4thナイトメア1stデイ・ストレージ-1
「それはまた大変やったなぁ。タルはん」
「ザリチュからだいたいの話は聞いていたが、とんでもない奴に襲われたな。また」
「本当に大変だったわ。とりあえずもう一度戦うのは無しね」
「確かにあれは戦いたくないでチュねぇ……」
私はマントデアたちと合流すると、脱出路であるゲートから交渉用エリアに戻り、それから直ぐに生産用エリアにまで移動した。
で、改めてハルキゲニアカースとの戦いについて説明した。
二人の反応は……絶対に戦いたくないと言う感じだ。
まあ、当然の反応だ。
「ま、とりあえず他のカースの解体は済んだし、ハルキゲニアカースの解体もしましょうか」
なお、ハルキゲニアカースと戦った時に遭遇した新種の馬型カースだが、名称は余韻の馬呪と言い、自分の行動の余韻を、残像と言う形で数秒程度残すのが能力であるらしい。
使い道は……たぶんあるだろう。
「じゃ、出すわよ」
私は毛皮袋からハルキゲニアカースの死体を取り出す。
しかし、ただ取り出すのではなく、ハルキゲニアカースの死体を出す場所は呪詛濃度を20にしておくと共に、反魂の呪詛などの七つの大呪が干渉できないように気も張っておく。
そうして取り出したのだが……。
「ぬおっ!?」
「ちょっ!?」
「は?」
「何が起きたでチュ?」
ハルキゲニアカースの死体を取り出して、マントデアたちの視界に入った直後、マントデアとゼンゼは倒れ、立ち上がろうとしても立ち上がれなくなってしまった。
「えーと……とりあえず私は解体をしているわ。で、そっちは何が起きたのかを話して。ザリチュは二人の救護を」
「わ、分かったが……」
「こ、これはアカン……こんなん反則やで……」
「分かったでチュ」
私は鼠毒の竜呪の歯短剣を抜くと、ハルキゲニアカースの死体の頭部を落とす。
それから、棘を引き抜き、爪を剥いでいく。
皮は……剥げなさそうか。
とりあえず肉をある程度切り分けて、復活を出来ないようにしておこう。
「えとな……ウチの視界なんやけど、その……ハルキゲニアカース? とか言うカースを見た瞬間から、制御が出来なくなった」
「しかもただ制御出来ないだけじゃない。突然視界の左右が反転したり、見えないはずの真後ろが見えたり、とんでもないぞ」
「そんな事に? なんで私には……あー、私はカースである上に、全方位に視覚があるから、その辺自動的に無効化された可能性があるわね……」
「たるうぃでチュからねぇ……その可能性は大いにあると思うでチュよ。ざりちゅに効かないのは……一応はゴーレム系統だからかもでチュね」
マントデアとゼンゼに発生した状態異常は、視覚異常という物らしい。
人の体は不思議なもので、視界に異常が生じると、それだけでマトモに身動きを取るどころか、立つことも難しくなってしまうようだ。
「おっと、鑑定」
それはそれとして、ハルキゲニアカースの鑑定をしよう。
△△△△△
破接の幻惑蟲呪の頭部
レベル:40
耐久度:95/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
破接の幻惑蟲呪と言う不可思議なカースの頭部。
熟れたザクロの実のように開くその頭部の内側には、獲物を噛み砕くための鋭い牙が生え揃っている。
この牙と独特の鳴き声が組み合わせる事で、正気であるのに声を聞いてしまったものは孤独に陥るのだ。
注意:異形度19以下の存在が食べると100%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
注意:レベル30以下または異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、UI消失(18)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が10以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
破接の幻惑蟲呪の棘
レベル:40
耐久度:92/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
破接の幻惑蟲呪と言う不可思議なカースの背中に生える鋭い棘。
名匠が鍛えた刃物のような鋭さを持つその棘は、触れたものを容易に切り裂く。
その刃は呪いを込める事でより長く、鋭くなる。
注意:レベル30以下または異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、UI消失(18)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が10以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
破接の幻惑蟲呪の爪
レベル:40
耐久度:94/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
破接の幻惑蟲呪と言う不可思議なカースの足先に生える堅い爪。
名匠が鍛えた鎧兜のような堅さを持つその爪は、大抵のものを難なく破壊する。
その爪は呪いを込める事でより長く、堅くなる。
注意:レベル30以下または異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、UI消失(18)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が10以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
破接の幻惑蟲呪の肉
レベル:40
耐久度:98/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
破接の幻惑蟲呪と言う不可思議なカースの体を構成する肉。
濃厚な呪いと旨味を秘めた肉ではあるが、人が食べれば一口で呪いそのものと化すだろう。
既に滅びた存在を基にしたものの肉は、原始的な力を秘めている。
注意:異形度19以下の存在が食べると、100%の確率でランダムな呪いを異形度が20になるまで複数個、恒常的に得ます。
注意:レベル30以下または異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、UI消失(18)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が10以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
「んん?」
「あー、視覚異常が治ってきたなぁ……」
「だな。どうやら解体した後なら、目視しても大丈夫であるらしい」
「ああなるほど。そういう事なんでチュね」
ハルキゲニアカースの正式名称は破接の幻惑蟲呪と言うらしい。
で、注意事項にマントデアたちが受けた視覚異常の表示がない事に疑問を覚えたが、マントデアたちの視覚異常が治ってきたという話から、目撃者に視覚異常を与えるのは破接の幻惑蟲呪が生きている時か、死体がほぼ完全な状態である時だけなのだろう。
それならば納得がいく。
「さてウチも鑑定っと……うわっ、なんやこれ……」
「あ、UIが消し飛んだわね」
「ああそうか。これがUI消失状態って奴なんか……」
ゼンゼが罠に引っかかったらしい。
額に手を当てて、参ったという表情をしている。
「とりあえず、私は鑑定出来たから、スクショを出すわ。ゼンゼは……見えないみたいね」
「見えんわぁ……戦闘中にいきなりこれは確かにえぐいなぁ……」
「なんてアイテムだ……」
私はマントデアたちに鑑定結果を見せる。
UI消失が終わるまで見えないゼンゼは、何処までUIが消えているかを確かめているようだ。
鑑定結果が見えたマントデアの表情は……唖然としか言いようがない物になっている。
「しかし鑑定結果がこれって事は、破接の幻惑蟲呪自体のレベルも40はあったと言う事になるんでチュかね?」
「そりゃあなるでしょ。というかこいつ、どう考えても呪限無は呪限無でも、浅層じゃなくて中層に出て来るべきカースよ」
「まあ、そうでチュよね。んー、となると、たるうぃに引かれてこっちまでやって来たんでチュかねぇ? あ、素材はどう加工するでチュ?」
「素材については頭部は私の邪眼術、棘と爪は装備品、肉は皇帝に盛ればいいんじゃないかしら。私に引かれてか……あり得なくはないわね。私自身もそろそろ浅層に居るのがおかしいカースになってきてるし」
とりあえず各素材は垂れ肉華シダの葉付きの蔓で包み込んでおき、万が一の復活を防いでおく。
私たちの生産用エリアは呪詛濃度15なので、呪詛濃度が足りずに消失してしまう事もないだろう。
後はどういう素材と組み合わせて目的のアイテムを作るかだが……このレベルの素材で罠アイテム作成は流石に勿体ないと感じてしまうなぁ、うん。
「待て、タル、ザリチュ。お前らの発言にツッコミどころが多すぎて突っ込み切れない」
「今更やろ。『虹霓竜瞳の不老不死呪』なんてトンデモ称号が付いとるカースなんやし」
「とりあえず色々とすり合わせましょうか。そっちはそっちで回収した物があるんでしょ」
「そうでチュね。色々と得たでチュよ」
さて、破接の幻惑蟲呪についてはこれくらいしておくとして、マントデアたちの収穫物の確認と、今後についての話し合いをするとしよう。
06/10誤字訂正




