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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
9章:『空白恐れる宝物庫の悪夢』

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555:4thナイトメア1stデイ-8

「このっ……」

 痛い。

 痛いが、耐えられる範囲だ。

 正確な数字は出せないが、4ケタは減っていないと判断する。

 劣竜血の発動はない。

 私の体を切り裂いたのは呪詛で形作られた爪であって、ハルキゲニアカース自身の爪ではなく、傷口から出た血も届いていないからだ。


「ゲ……」

 攻撃を仕掛けたハルキゲニアカースは、今の攻撃では私を仕留めるには程遠いと分かっているのだろう。

 振るった足とは逆の足を既に振り上げ、呪詛の爪も展開されている。

 なお、何かしらの能力を行使しているのか、ハルキゲニアカースの後ろ二対の足の爪は空中にしっかりと食い込み、その体を宙に固定している。

 恐らくだが、これと同様の能力で以って、先ほどは自分の体をこちらに引き寄せたのだろう。


「ふんっ!」

「ニャッ!?」

 状況認識完了。

 いずれにせよ相手が十分に接近してくれたなら、それを利用するのみ。

 私は『気絶の邪眼・2(タルウィスタン)』を撃ち込んで、ハルキゲニアカースを気絶させる。

 気絶によって能力の行使が止まったためか、ハルキゲニアカースの体は自由落下を始める。


「せいっ!」

「!?」

 私はハルキゲニアカースの振り上げている足へと手を伸ばし、自分の掌をハルキゲニアカースの爪で貫く。

 少なくないダメージと引き換えに、傷口から出ていく血はハルキゲニアカースの体に触れ、その効果を発揮する。


「ゲ……ニャ……!?」

「あはっ」

 どの邪眼術が幾つ、効果を発揮したのか、正確には分からない。

 分からないが、私の掌を貫いたハルキゲニアカースの脚は石化した。

 そして、私の石化は石灰質の脆い石に相手を変化させるものであり、私が腕を動かす事によって、ハルキゲニアカースの脚は難なく折れて、もげた。

 その痛みにハルキゲニアカースの動きは更に鈍る。


etoditna(エトディトナ)毒の邪眼(タルウィベーノ)・3(プレイグ)』!」

「!?」

 私はそれを見逃さなかった。

 呪詛の剣をハルキゲニアカースの体に突き刺し、その上で伏呪付きの『毒の邪眼・3』を撃ち込んで、大量の毒を与える。


「ふふふっ、でもこれで終わり、なんて甘い相手じゃないわよねぇ……」

「ハルウゥゥキイイィィ……」

 私はハルキゲニアカースから少しだけ距離を取る。

 脚が一本無くなったハルキゲニアカースは、大量の毒を受け、伏呪によって追加の状態異常も受けるようになったはずだが、欠片も戦意を鈍らせる事無く立って、私の姿を正面に捉え続けている。

 つまり、まだまだ油断はできないと言う事だ。


「ゲニャアアアアアァァァッ!」

「……」

 ハルキゲニアカースの叫び声によって、UI消失状態、それと恐らくだが恐怖の状態異常が延長された。

 うん、やっぱりまだまだやる気だ。


「ゲニャアッ!」

「っう!?」

 ハルキゲニアカースが背中の棘を用いたタックルを仕掛けてくる。

 私はそれを素早く横へ……尾の側へと跳ぶことでタックルを回避する。


「ゲニャッタ!」

「くっ……」

 ハルキゲニアカースは首を伸ばしつつ素早く半回転。

 タックルを回避した私に熟れたザクロの実のように開かれた頭が迫り、私は呪詛の剣とネツミテによって頭を跳ね上げるように弾く。


「ハルウゥゥキィ! ゲニャニャ! ニャアッ!!」

「攻撃が……途切れない!?」

 頭の位置を戻し、呪詛の爪を展開しつつハルキゲニアカースが飛びかかる。

 前方二対の脚に付いている爪を素早く何度も振り下ろし、後方二対の脚で私との距離を詰めて、間四対の脚で的確な位置の調整とフェイントを仕掛けてくる。

 ハルキゲニアカースの方が移動能力が高いため、距離を離す事は出来ない。

 攻撃を凌ぐのも、呪詛の剣、ネツミテ、身のこなし、その全てを利用しなければ、凌ぎきれない。

 右、左、上、下、正面、斜め、あらゆる方向から激しく攻め立てられ、私のHPは僅かずつだが削られていく。


「このっ!」

「ゲニョ!?」

 このままではまずいと、焦れた私が発した呪詛の縄がハルキゲニアカースの首に巻き付き、後方へと引っ張り上げようとする。

 が、怯ませることが出来たのは一瞬で、直ぐに呪詛の縄は破壊されて攻撃が再開されそうになった。


「でも、その一瞬が必要なのよ!」

「!?」

 しかし、動き出す前に私が『気絶の邪眼・2』を撃ち込む事によって、ハルキゲニアカースの動きが更に止まった。


「『淀縛の邪眼・1(タルウィボンド)』!」

「ゲ……!?」

 そこへ打ち込むのは『淀縛の邪眼・1』。

 ハルキゲニアカースの全身の干渉力が低下し、その動きが一気に鈍る。

 そして、この攻撃が決まり手になった。


「ハルウウゥゥキイイィィ……」

「はぁはぁ……」

 動きが鈍ったハルキゲニアカースは私の動きに追いつけなくなり、付与された毒によってHPは削られていく。

 だがそれでもやはり油断は出来なかった。

 迂闊に接近すれば容赦なく反撃が飛んでくるし、追撃の邪眼術を撃ち込もうとしても例の呪いによって防がれる。

 割込の灌木呪たちも再び寄ってきていたし、本当に最後まで油断できなかった。


「ゲニャアアァアッ……」

「ようやくね」

 が、ようやく終わったようだ。

 ハルキゲニアカースはその場で崩れ落ち、倒れて動けなくなった。


「させないわよ!」

 で、ハルキゲニアカースが倒れた直後に私はハルキゲニアカースの周囲の呪詛を支配し、呪詛濃度を下げた。

 何故か?

 反魂の呪詛が干渉し始めているのを感じたからだ。


「『埋葬の鎖(ボレヴァルグ)』!」

 そして直ぐに鎖を伸ばして、ハルキゲニアカースの死体を回収しようとした。

 が、回収に失敗したらしく、鎖が弾けて消えてしまった。


「ああもう! 締まらないわね!」

 私は止むを得ず全力で駆けてハルキゲニアカースの死体に接近。

 呪詛濃度を下げてもなお、既にゾンビ化あるいは復活しそうになっていて、脈動を始めつつあるハルキゲニアカースの死体を掴むと、頭から毛皮袋の中に収めていき、体感的にギリギリのタイミングで回収した。


「はぁ……疲れたわ……」

 こうして突発的に始まったハルキゲニアカースとの戦闘はどうにか終わった。


「さて、ザリチュとの会話がまた出来るようになったら、ザリチュ経由でマントデアたちに私は撤退するって伝えて貰って……」

 だが、私が今居るこの場は『愚帝の暗き庭』。

 呪限無の一部であり、ハルキゲニアカースのような難敵もうろつく危険なエリアである。

 油断はできない。

 そんな事を考えつつ、私は脱出路に向かって移動を始めようとした。


「ハルウゥゥキイイィィ」

「……」

 そして、そんな私の背後では、新たなハルキゲニアカースが木立の間から気軽な様子で姿を現わしていた。


「私は何も見ていない!」

「ゲンニャニャー」

 私はやっていられるかと全力で逃げ出した。

 新しいハルキゲニアカースは私の事を追ってくることはなかった。

 圧倒的な実力を持つが故にか、逃げる相手までは追う気はないらしい。

 助かったが……少し悔しかった。

ハル「何時から私たちが」

キゲ「一匹しか居ないと」

ニア「言ったのかニャー?」



06/09誤字訂正

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― 新着の感想 ―
ハゲにゃんこ強いでちゅ…
[一言] コイツ滞在時間超過や狩り過ぎを防ぐため、またはソロ行動抑止のお仕置きモンスターなのかな?
[一言] >そして直ぐに鎖を伸ばして、ハルキゲニアカースの死体を回収しようとした。 >が、回収に失敗したらしく、鎖が弾けて消えてしまった。 いつぞやのフラグが回収されましたねw 何気にタルの敵前逃亡…
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