554:4thナイトメア1stデイ-7
「行けっ!」
「「「ーーー!?」」」
「ゲニャアッ」
『熱波の呪い』によって攻撃判定が生じるようになった燃え盛る呪詛の剣が、馬型カースたちに襲い掛かる。
馬型カースは当たり判定を有するらしい自身の残像で攻撃を防いだ。
帯電の混虫呪は両手の鎌で凌ごうとするが、少しずつダメージを負っていく。
割込の灌木呪は自身に向かってくる攻撃は無視して……ハルキゲニアカースの盾となるように、剣の射線上に飛び込む。
だけでなく、割込の灌木呪はいつの間にかその数を大きく増やしており、十数体の割込の灌木呪の働きによって、数十本の燃え盛る呪詛の剣はハルキゲニアカースに届くことなく止まった。
「これならどうかしら?」
が、相手の動きは止まった。
だから追撃として、空から燃え盛る呪詛の剣を降り注がせる。
『熱波の呪い』の仕様として、切られた、攻撃されたと認識させることこそがダメージを増やす事に繋がるので、見るからに熱そうな炎を纏わせ、進路を示す赤い線を張り、相手に攻撃を認識させた上で突き刺していく。
「ゲニャアッ……」
「そう、平然と避けるのね」
尤も、ハルキゲニアカースだけは空から雨のように降り注ぐ呪詛の剣を難なく避け、どうしても避けられない時だと割込の灌木呪を呼び出して、攻撃を防がせる事で、被害をほぼ皆無のレベルに抑えているが。
やはり、ハルキゲニアカースだけ、他のカースよりも数段厄介だ。
「だったら……」
一つ考察。
『熱波の呪い』が無事に発動でき、ザリチュや眼球ゴーレムとのやり取りが途絶えたと言う事は、ハルキゲニアカースが付与するUI消失状態は、正確には自己意思を有する他者とのやり取りを阻害するものだと判断するのが良さそうだ。
だからこそ、『鑑定のルーペ』も阻害の対象になるのだろう。
なお、この際に力の多寡を考える必要はない。
裁定の偽神呪の側が受け入れているからだ。
で、この認識が正しいのなら……私がUIとして認識しているそれにも誰かが関わっていることになるのだが、この件については今は置いておくとしよう。
今、重要なのは、私自身の邪眼術、ネツミテとドロシヒの呪術、その他アイテムだけで、この場を切り抜ける事。
『熱波の呪い』のコストが嵩み、私自身のHPが削られ始めるよりも早く、この戦闘を終わらせなければ、危険すぎる。
「これはどう!」
「ハルゲニャ!?」
呪詛を編んで作った縄がハルキゲニアカースに襲い掛かり、巻き付き、移動を阻害する。
「キゲニャァ!」
「っ!?」
が、その縄はハルキゲニアカースの爪や棘に、今現在の周囲の呪詛と同等レベルの濃さを持つ呪詛の刃が生じ、振るわれることで、あっけなく切断されてしまった。
それだけでなく再び首を伸ばしてきて、私に噛みつこうとしてきたため、私は自分の体に鎖を撒きつけ引っ張る事で、通常よりも遥かに速く後退して避けると言う動きを強要される。
「ギッチャアッ!」
「連携まで……!?」
しかし、私の回避は想定の範囲内であったらしい。
まるで見計らったかのように、帯電の混虫呪がちょうど私の移動先で鎌を振り下ろせるような軌道で跳んできている。
よく見れば、馬呪も残像を伴って私の方に突っ込んできているし、割込の灌木呪も数体こちらに向かって突っ込んできている。
しかも、先ほどの攻撃開始時からずっと呪詛の剣は飛ばし続けているのだが、どのカースも被弾を気にせず動いてきている。
「舐め……るなっ!」
「「「!?」」」
こうなれば敵の攻撃は避け切れない。
ならば避けない。
私は帯電の混虫呪に敢えて腕を切らせる事で出血し、追撃を仕掛けようとした割込の灌木呪たちに状態異常を付与する。
劣竜瞳が発動して、馬型カースと帯電の混虫呪にも状態異常が入り、動きが鈍る。
呪詛の鎖で切断された腕を回収、断面を合わせて素早く再生すると、周囲を飛び交い続ける呪詛の剣の一本を私の拳の先に移動し、腕の動きに連動させる。
「citpyts『出血の邪眼・2』!」
「ギチュッ!?」
「「「!?」」」
私は帯電の混虫呪に殴りかかるような動きをしつつ、『呪法・増幅剣』込みの伏呪付き『出血の邪眼・2』を発動。
そして発動直後に私の拳が帯電の混虫呪の腹に入り、その僅かなダメージをきっかけとして出血が発動。
まるで私のパンチが凄まじい破壊力を持つかのような見た目で、帯電の混虫呪の上半身が粉々に吹き飛び、周囲に居た割込の灌木呪も吹き飛ばす。
「せいっ!?」
「ビヒン!?」
続けてネツミテの先端を馬型カースの口の中に突っ込み、呪詛の紐で馬型カースを縛り上げ、首裏に回り込み、鼠毒の竜呪の歯短剣を深く突き刺し、動かしてえぐり、仕留める。
「「「ーーー……!」」」
「ハアアァァァルウゥゥゥキイイイィィィ……」
此処で出血の爆発から復帰した割込の灌木呪たちが突っ込んでくる。
ハルキゲニアカースは私のUI消失状態を維持するためか、最初にやってきた叫び声を再び撃つために息を吸い込み始めている。
「私に従え、下郎共」
「「「!?」」」
『呪圏・薬壊れ毒と化す』を高密度の状態で纏い、突っ込んできた割込の灌木呪たちに流し込む。
そして、流し込んだ呪詛を足掛かりとして、割込の灌木呪の全身を構築する呪詛に根を張り、塗り替える。
すると割込の灌木呪の体を覆う瑞々しい緑色の葉は毒々しい紫色の葉に変化し、その場に転がり落ちて、私への敵意を失う。
「ゲニャアアアアァァァァッ!」
「行けっ!」
「「「ーーーーー……!」」」
ハルキゲニアカースが叫び声を上げ、UI消失状態が延長される。
私に支配された割込の灌木呪たちはハルキゲニアカースに突っ込んでいくが、奴はその攻撃を意に介する事もない……と言うか、突っ込んだ割込の灌木呪たちは背中の棘に切り裂かれて、息絶えていく。
ダメージを与えた感じはない。
まさかとは思うが、劣竜皮に近い防御能力まで持っているのか?
「『埋葬の鎖』。なんにせよ、これで一対一ね」
「ハルウウゥゥキイイィィ」
とりあえず馬カースと帯電の混虫呪の死体を回収。
割込の灌木呪は数が多すぎるので無視。
私は錫杖形態のネツミテを構えつつ、燃え盛る呪詛の剣を飛ばし続ける。
その上で、私は燃え盛る呪詛の剣を避け、弾き、ダメージを負わないようにしつつ、やる気を見せるように嘶いているハルキゲニアカースと相対する。
「etoditna『毒の邪眼・3』!」
これまでの攻撃で、既に私たちの周囲には身を隠せるような場所は存在しなくなっている。
樹は切り倒され、岩は砕かれ、草は焼かれて、直径数十メートルの範囲が見通しのいい焼け野原と化しているのだ。
割込の灌木呪も既に周囲に居る個体は全て始末した。
だから、私の『毒の邪眼・3』を避ける方法はなく、これが決まれば、如何にハルキゲニアカースが厄介な存在であっても倒せる。
「ゲニャ」
はずだった。
「本当に……厄介ね。と言うか……」
ハルキゲニアカースが小さく鳴いただけで、私とハルキゲニアカースの間を遮るように黒い壁が生じた。
相手の姿を目視できなかったために『毒の邪眼・3』は不発に終わる。
そして直ぐに黒い壁は消えて……
「アンタの能力が本当によく分からないんだけど!?」
「ハルゲニャッ!」
ハルキゲニアカースは八対の脚を巧みに使って駆け出し、背中の棘を私の方に向けながら、タックルのような攻撃を仕掛けてくる。
私はそれを地面を蹴って飛ぶことで回避するが、直ぐにハルキゲニアカースは頭を伸ばしてこちらへの追撃を仕掛け、私は呪詛の鎖で体を引っ張る事で追撃を回避。
反撃を仕掛けようとするが、その時にはハルキゲニアカースは閉じた頭を支えとするようにして、首を縮め、胴体を私の目の前にまで持ってきていた。
「ゲニャアッ!」
「!?」
ハルキゲニアカースが空中で素早く身を捩り、呪詛の刃を展開した爪を振るい、私の胸部を切り裂いた。
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