553:4thナイトメア1stデイ-6
「ー!」
「っ!?」
割込の灌木呪の体当たりによるダメージはない。
当然だ。
割込の灌木呪は呪いによって私の行動に割り込んで動くことは出来ても、肝心の攻撃部分には呪いによる強化が入っていないのだから、『劣竜式呪詛構造体』を持つ私には僅かなダメージしか入らず、その僅かなダメージは瞬時に回復されるのだから。
だから実質的な被害としては、一瞬の怯みと幾つかの目の視界が塞がれるだけとなる。
「ブルルアッ!」
「ギチギチャアッ!」
なので私は塞がれていない目で、他のカースの動きを見る。
残像を出す馬型カースは、素早いサイドステップによって自分の左右に残像を生じさせながら、こっちに突っ込んできている。
帯電の混虫呪はバッタのような脚を使って跳び上がり、カマキリのような前足を振りかぶり、纏っている電撃を鎌へと集めている。
直撃すれば、どちらも即死はしないが、相応のダメージは受けるだろう攻撃だ。
「ゲエエェェ……」
最後の一体。
ハルキゲニア……八対の脚を持ち、背中に棘を生やし、首に数本の触手を持つ、見方によっては十六本脚の馬などにも見えそうな、奇妙な形をしたカースが居る。
そのカースは現在、呪いによって熟れたザクロの実のように開くことも出来る頭をすぼめて、大量の空気を吸引していた。
「ニャアアアァァァッ!」
「!?」
そして、ハルキゲニア型のカースが頭を開き、叫び声を上げた瞬間だった。
私の視界に大きな変化が生じた。
「これは……」
改めて言うまでもなく『CNP』はゲームだ。
とてもリアリティがあって、現実と変わらないレベルの五感があってもゲームだ。
ゲームだから、ゲームを楽しむために、私の視界には様々な情報が常に出ている。
HPバー、満腹度、罹っている状態異常、システムにアクセスするためのボタン、呪術のCT状況を示すゲージ、場合によっては掲示板に動画にスクショと言ったものの為の画面が出ている事もある。
「まずい!?」
それが全て砕け散った。
ハルキゲニア型カースの叫び声を聞いた瞬間に、ガラスが砕け散るかのように、私の視界にある全てのUIが砕け散ったのだ。
「ブル……」
「ギチッ……」
「ーーー……」
そして、そんな私の異変を他のカースが気にする事などありえず、三体のカースが私に迫ってくる。
「ちぃっ!」
「「「!?」」」
私が指を鳴らした瞬間、三つの目がレモン色に輝き、三体のカースから光った目に向かって電撃が走り、三体のカースの動きを一瞬だけ止める。
『気絶の邪眼・2』だ。
無事に発動した。
つまり、UI消失状態と言う他ない、今のこの状態でも、呪術の発動そのものは可能であるらしい。
「せいっ!」
「「「!?」」」
で、相手の動きが一瞬止まったところでネツミテを全力で振るい、三体のカースを殴り飛ばし、距離を取らせる。
「さて……」
さて、ネツミテによる攻撃が成功し、各種状態異常が三体のカースに付与されたはずなのだが、三体のカースのいずれにも状態異常の表示が出ない事が分かった。
どうやら、相手に罹っている状態異常の状況を知るのも、UIの一部だったようだ。
つまり、自分の頭の中で、呪術のCT状況を計算し、罹っている状態異常のスタック値を計算しろと言う事であるらしい。
ああ、自分の体調から、自分に罹っている状態異常を推測する必要もあるか、何となくだが指先が震えている気がするので、恐怖の状態異常が入っている可能性もあるか。
「やっか……」
「ハルゲ……」
いずれにせよだ。
それならば、ある程度の余裕をもってカウントする事で、この状況でも邪眼術を安定的に発動する事が出来る。
と、そこまで考えた時だった。
三体のカースの後方に居たハルキゲニアカースの首が伸び、私の頭の目の前にまで、口を開いた状態で伸びて来ていた。
「ニャアッ!」
「いいいぃぃぃ!?」
咄嗟に仰け反った私の目の前で、ハルキゲニアカースの頭が勢いよく閉じられ、閉じた勢いで動いた空気が私の顔にかかる。
「このっ!」
「ゲニャ」
「ーーー……!?」
私は素早く空中で回転、勢いを付けたネツミテによってハルキゲニアカースの頭を殴りつけようとした。
が、私の攻撃が命中する前にハルキゲニアカースの頭は引っ込んでおり、攻撃を受けたのは、私の行動に割り込もうとした割込の灌木呪だけだった。
「ブルヒーン!」
「ギチャチャ!」
「etoditna『毒の邪眼・3』!」
馬カースと帯電の混虫呪が突っ込んでくる。
私は奴らの攻撃を紙一重で避けると、『呪法・増幅剣』などの呪法を乗せた『毒の邪眼・3』を撃ち込む。
「「ーーー……!?」」
「ああもう面倒くさいわね!」
どれだけの毒が入ったのかは分からない。
『呪法・増幅剣』特有のエフェクトがなかったのはUI消失状態の影響なのか、『呪法・増幅剣』の条件の中で満たせなかった条件があったからなのかも分からない。
全く入っていないと言う事はないだろうが……正確な計算が出来ないと言うのは、それだけで厄介な話だ。
ついでに言えば、『鑑定のルーペ』が効果を示さない。
おかげで、相手の正式名称すらも分からない。
「と言うか、よく考えてみたら、ザリチュの声も聞こえなくなってるし、眼球ゴーレムたちの視界も見れなくなってるじゃない……本当に厄介ね」
「ハルウゥゥキイイィィ……」
「ーーー……」
「ブルルルル……」
「ギチチチチ……」
だが何よりも厄介なのはハルキゲニアカースの位置取りか。
奴は前に出てくる必要がないから、出てくる気がない。
私の邪眼術の性質も理解しているのか、何時でも他のカースや近くの木々の陰へ隠れられるように動いている。
仮に隙を突けても……割込の灌木呪によるガードが入りそうだ。
「うん、ぶっちゃけるわ。アンタ、あそこで優雅に漂っている竜呪モドキよりもヤバいでしょ」
「ゲニャアアアァァァッ……」
うん、全力で戦うとしよう。
誰かに見られるとか、横やりを入れられるとか、そう言うのは一切気にせず、全力で戦おう。
でなければ、勝ち目が見込めない。
「『熱波の呪い』」
「「「!?」」」
私は『熱波の呪い』を発動すると、自身の背後に燃え盛る呪詛の剣を数十本出現させ、それらを一斉に射出した。
06/07誤字訂正