552:4thナイトメア1stデイ-5
「うおっしゃあああぁぁぁっ!」
「ギ……ゴ……」
マントデアと剛皮の巨人呪の戦いは、マントデアの勝利で無事に終わった。
どうやら剛皮の巨人呪の皮膚は物理属性の攻撃に対しては強いようだが、電撃属性の攻撃に対する耐性はなかったようで、最終的にはマントデアは口の中に電撃触手を突っ込み、全力放電を行う事で倒したようだ。
で、マントデアが求めた呪いを宿す皮膚についてはきちんと残っている。
これならば、たぶん呪いの抽出は上手くいくだろう。
「ようやく終わったんやねぇ」
「みたいでチュ」
「タンク対タンクはやっぱり時間がかかるわね」
なお、マントデアが頑張っている間にゼンゼは幻惑の狐呪を3体ほど、化身ゴーレムは各種カースを私と一緒に狩ったりしている。
まあ、火力差、HP差を考えれば、当然の結果ではあるが。
「あ、タルはん、マントデアはん、ウチ、出来れば尻尾を9本に増やしたいんや。だから、幻惑の狐呪が出てきたら、出来るだけ譲ってもらってええか?」
「分かったわ。そうね……状態のいい尻尾が最低でもあと4本は要るかしら? 勿論、質が良ければ、良いだけ、上手くいく可能性は上がると思うわ」
「ん、覚えとくわ」
ゼンゼの要求は別に困るものではないので、受け入れる。
ゼンゼの今の尻尾の数は2本、九尾を目指すなら、7本増やす必要がある。
増やす尻尾1本につき、元の尻尾も1本必要だろうから、うん、やっぱりゼンゼには最低でもあと4本は集めてもらうべきだろう。
「と、あったわね」
「アレが脱出路なのか」
「ゲート、と言うよりは魔法陣やな。いや、世界観的には呪術陣のが正しいんか?」
「ふうん、興味深い構造でチュねぇ」
さて、『愚帝の暗き庭』の森部分をカースを仕留めつつ移動する私たちの前に、開けた空間が現れる。
その場には高さ2メートルほどの、蔓が巻き付いて傍目にはそうだと分からない柱が4本立っている。
そして、4本の柱で囲まれた内側に入ると、私たちの前に元のエリアに戻るかどうかを尋ねるウィンドウが表示される。
なお、次回からは交渉用エリアから『愚帝の暗き庭』には直接入れるようだが、『愚帝の暗き庭』の何処に飛ばされるかは選べないようだ。
「……。もうちょっと稼いでから戻りたいなぁ」
「同じくだな。他にも取り込みたい能力を持ったカースが居るかもしれない」
「此処に戻ってくるのにかかる時間がどれだけになるかも分からないし、数が必要だと確定している素材は取り切っておきたいものねぇ」
「たるうぃの呪詛薬だと、素材は自分で回収するのが前提でチュしね」
なので、もう少し稼ぐことが決定した。
具体的にはゼンゼの求める尻尾が後4本、マントデアの求める皮にしても後1つは保険で確保しておきたい。
割込の灌木呪の素材は既に十分あるが、マントデアが呪術習得に使いたいと言っているので、こちらも数が要る。
他のカースの素材にしても、やはりある程度の数は得ておきたい。
「ソロ行動、出来ると思う?」
「タルは出来るな」
「タルはんは出来ると思うで」
「たるうぃがするならいいんじゃないでチュか? あ、ざりちゅは、まんとであたちに付いていくでチュよ」
「……」
となると理想は分散して行動し、それぞれが素材を集める事だろう。
ただ、此処『愚帝の暗き庭』あるいは『皇帝の明るき庭』で倒れれば、それまでに集めた素材を落とす事にもなる。
なので、理想としては二人一組ぐらいで……と、思っていたら、まさかのザリチュの裏切りである。
いやまあ、化身ゴーレムがマントデアたちの方に居た方が、連絡面で都合がいいのは分かるが。
「ふっ、いいわ。じゃあそうするとしましょう。ソロなら劣竜瞳も躊躇いなく機能させられるしね」
「あー、無茶はするなよ? 色んな意味で」
「なんでやろ? アホが迂闊に手を出して、素材をかっぱらわれる未来しか見えへん」
「そう言うのは思っていても言わな……チュアアアアッ!?」
とりあえずザリチュは抓っておく。
「ああでも、どれだけ狩り足りないと思っても、3時間経ったら此処に再集合して、帰還しておきましょう。一度素材を確保しておいた方がいいわ」
「そうやなぁ。その辺が潮時になるやろ」
「だな。掲示板を見たら、4時間くらい経ったら一度、『愚帝の暗き庭』に居る竜に喧嘩を売ってみようとか言っている奴もいるし、警戒しておいた方がいいだろ」
「あ、本当でチュね。これは一回逃げておいた方がいいと思うでチュ。そうでなくとも、危険を感じたら撤退でチュねー」
勿論、別行動をすると言っても、危険を感じたら撤退するべきだし、危険がなくても切りがいいところで一度退いておくべきだろう。
欲張って無茶をして、素材を失うこと程馬鹿らしいこともない。
「じゃ、可能なら3時間後に」
「分かった」
「分かったわぁ」
「分かったでチュ」
と言う訳で、私たちのPTは私と私以外に分かれて行動を開始した。
「ふむ……」
『新種は馬と……なんでチュかね?』
さて、そうして単独行動を開始して暫く。
私の前に複数体のカースが現れる。
「ブルルッ」
「……」
「ギチギチッ」
「ハアアァァルキイイィィ……」
新種の残像を残しながら動く馬型カース、割込の灌木呪、帯電の混虫呪、新種の……何?
うん、かなり形容しがたい姿をしたカースが居る。
体高1メートルちょっとで、外見はハルキゲニアと言う古代生物に近いと思うのだが、頭が熟れたザクロの実のように開いていて、頭の内側には牙がびっしりと生えている。
そして背中の棘や足の爪からはとても嫌な気配がしている。
これは……少し警戒をした方が良さそうだ。
「まずは鑑て……っ!?」
「ーーー……!」
なんにせよまずは鑑定。
そう思った私が『鑑定のルーペ』を手にした瞬間、割込の灌木呪が私の頭に向かって突っ込んできた。
そして、それによって戦いの火蓋は切られた。